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人間以外の存在との究極のロマンス『美女と野獣』の描く魅惑

『美女と野獣』(1946年)より
『美女と野獣』(1946年)より - Lopert Pictures Corporation / Photofest / Getty images

 心優しい美女と野獣のロマンスを描くファンタジー「美女と野獣」の物語が生まれたのは18世紀のことだが、この物語はそこから280年たった今でも当時のままのストーリーでさまざまな舞台やアニメーション、映画などエンターテインメントで人気を博している。中でも1946年に詩人ジャン・コクトーが監督した映画『美女と野獣』は傑出している。

 心優しい美しい女性ベルの父親がある日、森に迷い込み大きな城にたどりつく。そこでベルが欲しがっていた一輪のバラをむしったところ城の主人である野獣に目撃され、娘を差し出せば命を助けると脅され、娘は自らを野獣に差し出す。

 物語は恐ろしい外見におびえながらも野獣に心惹かれていくベルと野獣のロマンスが軸となる。本作のように人間が人間以外の生物もしくは存在と恋愛もしくは婚姻する物語は他にも多数、古来より物語が語り継がれている。鳥、動物、妖怪または神々と愛し合う物語は、西洋だけでなく日本にも多く存在し、多くの人たちの心を惹きつけている。「人魚姫」は人間の男性と人魚、日本の「鶴の恩返し」では鶴と人間の男性(男性でなく老夫婦と伝わる地方もある)などをはじめ世界中に伝説やおとぎ話が残る。また映画でも近代のドラマや映画でも『アバター』では人間と異星人、『トワイライト』シリーズでは人間とドラキュラ、ドラマでは「奥様は魔女」、「LUCIFER/ルシファー」では天使や悪魔と人間など枚挙にいとまがない。異類婚姻という禁断の恋に対してのスリルや、見た目の異なるものに対する寛容な心の憧れなどいずれも人間の冒険心が描く産物だ。

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 異なった外見や文化を持つ者同士が出会うことは、たとえそれが人間同士であっても、数世紀前はお互いに脅威であっただろう。人は自分と違う外見や文化を持つ存在を恐れる本質を持つが、こうした物語の起源はそのことがもたらす誤解や思い込みなどの戒めもあると考えられる。

 『美女と野獣』の物語も外見で野獣を恐れ最初は目を背けていた美女が次第に彼の本質を見つけ出し、心惹かれていくというシチュエーションで、外見で他人を判断することの誤解と思い込みへの戒め的な寓話と見る人も多い。

 本作で描くのは野獣と美女の恋愛というおとぎ話にしては生々しい組み合わせだが、詩人でもあるジャン・コクトー監督は映像の演出を美しく創り上げ、まるで芸術作品のように仕上げているところがこの作品が映画として名作と言われて続けている理由でもある。特に美女ベルと野獣が暮らす城の中の装飾はコントラストも見事でモノクロの映像に美しく調和している。

 燭台や彫刻が人の手や、顔によって動きをつけて表現されている斬新さは、コミカルでありながら、アーティスティックで詩人というラジカルな想像力を持つコクトーにしかできない表現だといえる。また、野獣のキャラクターはメイクも精巧だが、ジャン・マレーの目だけですべての感情を表現した演技力は素晴らしく、野獣がとても魅力的だったのは彼の演技力のたまものだともいえる。(編集部:下村麻美)

製作年:1946年(96分)モノクロ
製作国:フランス
監督:ジャン・コクトー
出演:ジャン・マレー、ジョゼット・デイ

映画『美女と野獣』は10月9日23:00~金曜レイトショーにて無料配信

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