戦いに疲弊したアメリカで大ヒットした映画『若草の頃』
大統領選まっただ中のアメリカでは国民同士の対立や闘争が起こり殺伐とした空気が国全体を覆っている。人々はいつの時代も常に何ものかとの戦いを続け歴史を刻む。今をさかのぼること76年前、第2次世界大戦まっただ中、戦いに疲弊しきったアメリカで大ヒットしたミュージカル映画が『若草の頃』だ。
短編小説を2時間近い長編映画に作り上げたこの映画は、『オズの魔法使い』で一世を風靡した歌唱力バツグンのジュディ・ガーランドが主演だ。製作されたのは世界大戦のまっただ中だったが、映画の舞台は1903年のアメリカ、セントルイスが舞台。まさに古きよきアメリカといえるこの時代、セントルイス万国博覧会を控え地元の人々は希望に満ちあふれている。幸せな中流家族を舞台にどこの家族にも起こりそうな小さな事件を四季の移り変わりとともに美しい映像で描いていく。第2次世界大戦のさなかに戦闘や勝敗にまったく関係のないこの映画は多くの人々の心を揺さぶり記録的な大ヒットをした。
ミュージカルにカテゴライズされる映画だが、踊りや歌がバリバリの作品ではなく、家族のハートウォーミングな人間ドラマに重きが置かれており、その楽曲は温かみがあり郷愁を誘う。特に劇中歌「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」はクリスマスの定番曲として今でもお馴染みのナンバーになっている。余談だが、主演のジュディ・ガーランドは本作の監督ヴィンセント・ミネリと本作がきっかけで後に結婚し、バツグンの歌唱力、演技力の娘、ライザ・ミネリをもうけている。
第2次世界大戦に勝利したアメリカだが、失ったものはとてつもなく大きく、多くの命を失っただけでなく国民を混乱させ、意識さえもまったく変えてしまった。状況は違うが今の世界も多くの国民が感染症拡大やリーダーの発言に振り回され混乱している。
そんな時に家族という原点に立ち返ってみたくなる、そんなエンターテインメント作品が必要とされる時代かもしれない。『若草の頃』はそんな原点回帰の映画でもある。(編集部:下村麻美)
製作年:1944年(113分)カラー
製作国:アメリカ
監督:ヴィンセント・ミネリ
出演:ジュディ・ガーランド、マーガレット・オブライエン
映画『若草の頃』は金曜レイトショーにて11月6日(金)23:30~無料ライブ配信