中村倫也、動物にも人にも「フラットでありたい」 不遇だった時代に学んだこと
動物写真家の岩合光昭が、世界の街角のネコを撮影するNHKの人気ドキュメンタリー番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」。その劇場版第2弾『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』(1月8日公開)で、俳優の中村倫也がナレーションを担当した。ネコを優しく見守るような語り口がなんとも心地よいが、中村自身、普段から街でネコを見かけると「何してるの?」とよく話しかけてしまうのだとか。岩合監督と話して共鳴したのは、「人間も動物も、同じ自然界を生きる者として見つめる視点」だという彼。本作のナレーション秘話と共に、「いろいろと諦めて、見栄やプライドを捨てた」という転機について語った。
「ネコに限らず、虫にも話しかけちゃう」
本作は、2017年公開の『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち』に続く、NHK BSプレミアム放送のドキュメンタリー番組の劇場版第2弾。写真家の岩合が自らメガホンをとり、ミャンマーのインレー湖では湖上に建つ小さな家にネコの家族とヒトの家族を、北海道の牧場ではたくさんの母ネコ、雄ネコ、子ネコたちを捉えた。
ナレーションで心掛けたことを聞いてみると、中村は「ナレーターとして、お客さんと本編の間に立って、ガイドをしたり、寄り添ったり、説明したりという立ち位置ではあると思うんですが、普段から僕は、街で野良ネコを見つけたりすると『おい、何してるの?』とか話しかけたりしているので(笑)。今回のナレーションは、その距離感やテンションとほぼ変わらなかったような気がしています。僕、ネコに限らず、虫とかにも話しかけちゃうんですよ」とにっこり。「(劇中で)ネコたちが面白い行動をしていたら、フフッと笑ってしまった場面もあって」とリラックスして臨んだという。
“癒やしボイス”とも言われる声色、穏やかな語り口も、本作との相性は抜群。「役者は声も大事ですからね。声やセリフまわしの工夫で、芝居が変わってくることもある。いろいろと使いこなせるように、あらゆる表現をやってきたからこそ、今がある」と声の表現力も磨いてきた今、「声のお仕事もまた機会があれば、ぜひやらせていただきたいですね」と意欲をのぞかせる。
動物との関わり方、朝ドラでミレーヌとの共演話も
岩合監督の独特な視点から、ネコたちの生活や、それぞれの個性が浮かび上がっていく。中村は母親から離れない雄のカーショについて、「情けなくてね。でもすごくかわいい」と愛情を傾けつつ、「ネコって水が苦手なイメージがあったので、湖の上で暮らしているミャンマーのネコたちも印象深いです。景色や土地などひっくるめて、初めて見るものが多くて興味深かったです」としみじみ。
そんな中村自身は、ハムスターや古代魚と暮らすなど、動物好きとしても知られており、岩合監督と話してシンパシーを感じることもあったという。「もちろん岩合さんは、僕よりもずっと動物と向き合う経験をたくさんされていて、そのリスペクトがあった上ですが、ちょっと似た視点や感覚があるように感じました。動物に対して、ただ“かわいい”と思うのではなく、興味があって、リスペクトがあって、フラットな目線がある。人間も動物も、同じ自然界を生きる者として捉えているんですよね。動物を飼っている人や学者さんの話を聞いたりしていても、オタクっぽいくらい動物が好きな人って、そういう感覚になっていくのかなと思います」。
中村とネコとの関わりで言うならば、2018年に放送されたNHK連続テレビ小説「半分、青い。」でネコのミレーヌと共演していたことも印象深いが、「アイツはまだ生まれて2か月くらいだったんですが、一緒に芝居をしてくれたんです。抱っこしたり、肩に乗せたりして、もしそれがかわいそうに映ってしまうようだったら、やめようと思っていました。でもナチュラルにそばにいてくれたので、すごく楽しかったですね。セリフもネコが反応したら、一緒に話すような芝居に変えたりして。しっかりとした“共演者”でした」と微笑み、動物に対してフラットな目線を持つことで、奇跡的なシーンが生まれていたようだ。
今の中村倫也を作り上げた“諦める力”
そういった不遇の時代を経てブレイクを果たし、2020年もドラマ「美食探偵 明智五郎」「この恋あたためますか」、主演映画『人数の町』『水曜日が消えた』など映画、ドラマと大活躍の1年を過ごした。転機とも言えるものとして、「26歳くらいで、いろいろと諦めたこと」と告白する。「自分にないものを探したらキリがないし、それだったらあるものでやるしかないって。とはいえそれはもがいたからこそ、諦めることができたんだと思います。ちゃんともがかないと、できること、できないことも見分けられない。失敗もたくさんしたからこそ、学べたこと」と続け、「仕事がなくて、どうしようと考えて。でも役者をやっていきたいなと思った。だったら、くだらない見栄やプライドを捨てて、自分の弱みから目をそらすこともやめようと。そうしたら、こんなふうな僕が出来上がりました」と自分の弱点も受け入れたことで、楽になったと笑う。
「役者業が好きだからこそ、続けたい」とブレない思いを明かす。「デビューして2年目くらいのとき、2本目の舞台で蜷川幸雄さんと出会って。何も知らない若造だというのに、愛情を持ってボコボコにしていただいたことが、今でも体に刻み込まれている。蜷川さんが夢に出てきたりすると、『もうちょっとやらなきゃいけないのかな』と思ったりする」と背中を押してくれる存在について語っていた。(取材・文:成田おり枝)
ヘアメイク:Emiy スタイリスト:戸倉祥仁 (holy.)