「本能寺の変」で描いた光秀の心の痛み 「麒麟がくる」脚本家が明かす裏側
7日に最終回を迎えた大河ドラマ「麒麟がくる」の脚本を務めた池端俊策が、今も謎に包まれている「本能寺の変」を描くまでの道のりを語った。池端は「どうやって『本能寺の変』にもっていくのか、実は僕もずっと悩んでいた」と言い、松永久秀が天下一の名物と言われる茶器「平蜘蛛」を明智光秀に託した第40回が「僕にとって非常に大きな回」だったと明かした(※ネタバレあり。最終回の詳細に触れています)。
智将・明智光秀(長谷川博己)の謎めいた前半生にも光を当てながら、その生涯を軸に、斎藤道三(本木雅弘)、織田信長(染谷将太)ら戦国武将たちの壮絶な生きざまを描いた本作。「光秀と信長の『不思議な友情物語』を1年通して描いてきた」という池端。信長に上洛を促したのは光秀で、「光秀と信長は、一緒に上洛し、大きな世の中にして平和をもたらそうと動いてきましたが、その先に、『本能寺の変』があるとは思えないんですよね。この信長を殺すとは光秀自身も思っていなかったでしょうし、信長も光秀に殺されるとは思っていなかった」と、2人の軌跡を思うと「本能寺の変」への道筋が見えなかったという。
悩んでいた池端だが、比叡山焼討ち後の展開から「34~35回あたりからちょっとずつわかってきて、37~38回で、『あ、こうすれば本能寺にいくな』と思いました」と前進。第37回では、将軍・足利義昭(滝藤賢一)を破った信長が宝物「蘭奢待(らんじゃたい)」の切り取りを行い、権力の頂点に上り詰めた。そして、「本能寺の変」を描くにあたって決定的になったのは、第40回で松永久秀(吉田鋼太郎)が亡くなったシーンだと話す。
第40回「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐも)」では、大和の守護の座を筒井順慶(駿河太郎)に与えた信長に激怒した久秀が、信長と敵対する上杉側に寝返るさまが描かれた。ここで久秀が光秀と密会する場面があり、久秀は命の次に大事にしている「平蜘蛛」を決して信長には渡さないこと、もしもの時には光秀にこれを託すと話していた。久秀いわく、平蜘蛛を持つのは「誇りを失わぬ者、志高き者、心美しき者」。松永の死後、光秀は伊呂波太夫(尾野真千子)から平蜘蛛を受け取ると、久秀が自身にこれを託した意味を悟る。
池端は「残された平蜘蛛の意味を考えていくうちに、『つまりここで光秀は信長と離れていくんだ』と明確になっていき、そこからはクライマックスに向けて坂道を転げ落ちるような勢いで一気に書き上げました。40回というのは、僕にとって非常に大きな回でした」と述懐。
第43回「闇に光る樹」では光秀が不思議な夢を繰り返し見るように。それは、信長が月に届く樹を登ろうとするなか、自身がその樹を伐れば信長の命はないと知りながら、それでも伐り倒そうとしているというものだった。そして、今や思い通りにならない正親町天皇(坂東玉三郎)に譲位を迫る信長への不信感、恐怖。最終回では、信長が光秀と縁深い四国の長宗我部征伐に何の相談もないまま乗り出し、さらに将軍・足利義昭を殺せと命じたことから、光秀は苦渋の決断として謀反を決起することとなった。
池端は、「本能寺の変」についてこう語っている。「光秀は信長を殺したくて殺すわけでもなく、憎らしいから殺すわけでもありません。やむを得ず、自分の親友を殺したんです。ここまで一緒に歩いてきて、一緒に夢を語った相手を殺すのはつらいですから、本能寺で信長を殺しても『やった!』という快感ではなく、悲しさがありますし、大きな夢を持った人間は、やはり大きな犠牲を払わなければならない。その心の痛みを描きました」
「本能寺の変」で信長は、軍を率いているのが光秀だとわかるなり「十兵衛(光秀)、そなたが……そうか……」とつぶやき、涙を溜めながら笑った。総集編は23日、総合テレビ、並びにBS4Kで放送される。(編集部・石井百合子)