大島渚賞、第2回該当者なしは「強烈なメッセージ」坂本龍一・黒沢清ら決断の理由
20日、「ぴあフィルムフェスティバル」(以下、PFF)が創設した大島渚賞の第2回記念イベントが、東京・丸ビルホールで行われ、審査員を務めた映画監督の黒沢清、PFFディレクターの荒木啓子らが出席、審査員長を務めた坂本龍一からのコメントを交えながら、「該当者なし」となった、今年の審査過程を明かした。この日はゲストとして、大島渚監督の子息で、ドキュメンタリー作家の大島新も来場した。
大島渚賞は、映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする若い映画監督を顕彰する映画賞として創設。日本映画に造詣が深い映画祭ディレクターやプログラマー、映画ジャーナリストなど、多様な国、年齢、キャリアの映画人からの推薦により、候補となる5名の監督を選出。その中から、審査員が授賞者1名を決定する。
審査員長の坂本は療養のため欠席となったが、荒木ディレクターにより、メッセージが代読された。そこには、昨年の第1回大島渚賞を受けた『セノーテ』の小田香監督について、「『セノーテ』は全く大島渚が作っていた映画とは異なるものだけど、その質、実験精神、思想からみて、十分に大島渚賞にふさわしいものだったと思う」と記されていた。
しかし、第2回となった今年の審査は難航した。坂本も「ぼくは個人的に候補作を、いつも以上の好意の目をもって観た。『該当作なし』を避けるために、ギリギリこれか?! という作品もないではなかった。実際に、審査の話し合いの時に、そのタイトルも出した。しかし、全員の了解として、それはギリギリだし、無理しているし、大島渚の名前を冠した賞にふさわしいかと問われれば、答えは明らかだという空気が蔓延した」とつづる。
そして「腰をひいて無理やり一作決めるか、それとも腹を据えて、あえて『該当作なし』でいくか。当然後者の方が大島渚の名前にふさわしいだろう。『該当作なし』は、一つの強烈なメッセージだと思う」と明かした坂本。「来年こそは、大島渚の名前にふさわしい、豪胆で、深い思想をもった、切れ味の鋭い候補作を観られることを、大いに期待している」と締めくくった。
この日、登壇した黒沢監督も「審査基準はいろいろとありましたが、やっぱりこれだよねという、問答無用で、すごいと思わせてくれる作品が残念ながら見当たらなかったということですね」と残念そうな表情。そのなかでも「テーマはいいのに惜しい」と感じる作品が多かったという。
黒沢監督は「商業映画の世界では思いつかないような、これは面白いテーマかもしれないと思って、映画を見始めるんですが……」と前置きしつつ、ある学生から「映像を作る時に、自分の作品が誰かを傷つけるのが怖い。どうしたらいいでしょうか?」と質問された坂本が、「そんなことなら作るな。それが怖いなら作る資格がない」と応じたエピソードを紹介。「今回も、せっかく興味深いとっかかりをつかみながら、最終的には誰も傷つけないようにまとまっていたり、最終的には感動させたりするけど、結果的に誰も傷つかずに終わっていく作品が多かった。商業映画の基準でいうとそれでいいのかもしれないけれど、商業映画ではないなら、それはもったいないなと思いました」と付け加えた。
また、「該当者なし」を避けるためにスペシャルメンションという名目で賞を授与しようという動きもあり、坂本・黒沢監督の両名が候補作を出しあった時もあったという。しかし、それが大島渚賞にふさわしいのか、という基準に照らし合わせると、そこまでには至らなかった。それでも黒沢監督は「作る側としては、何にせよ選ばれればうれしいので。どなたかを選んであげたいなという気持ちもあったんですが。そんなんじゃダメですよね」と振り返り、いかに難しい審査であったかが浮き彫りとなるひと幕もあった。(取材・文:壬生智裕)