宮沢氷魚、ブレイク後もストイックさ忘れず 20代は「悔いのないように」
俳優・大泉洋を主人公に当て書きした小説を映画化した、吉田大八監督の最新作『騙し絵の牙』(公開中)。本作で、物語のキーマンとなるミステリアスな小説家役を務める宮沢氷魚が、最近の活躍ぶりを振り返って現在の思いを率直に語った。
『騙し絵の牙』は、映画化もされた「罪の声」などで知られる塩田武士の小説をもとにしたエンタメ作品。大泉ふんする風変わりな編集長・速水が、廃刊危機の雑誌「トリニティ」を存続させるべく奔走する。宮沢が演じるのはミステリアスな雰囲気をまとう新人小説家の矢代聖で、その才能を求めて、「トリニティ」と文芸誌「小説薫風」編集部の社内対立も勃発。矢代も巻き込まれてしまうが、実は別の顔を持ち合わせていて……という役どころだ。
役者としてのストイックな素顔
大泉をはじめ、松岡茉優、池田エライザ、中村倫也、佐野史郎、國村隼、木村佳乃、斎藤工、塚本晋也、リリー・フランキー、小林聡美、佐藤浩市といった豪華な顔ぶれが集結した。宮沢も「オールスターのような方々が揃っていてプレッシャーもありましたが、鍵を握る役だったので、思い切ってやろうという気持ちにすぐなれました。台本を読んでいるときから早く撮影したいなという思いでいっぱいでした」と明かす。
昨年も今泉力哉監督による映画『his』で主演を務めたほか、連続テレビ小説「エール」で朝ドラ初出演を果たすなど、近年は映画、ドラマ、舞台と充実した活躍ぶりを見せている。忙しさを実感し始めたのは、2019年7月期に放送されたドラマ「偽装不倫」の頃だという。宮沢は、杏ふんする鐘子と飛行機で出会い、不倫を持ち掛ける年下のイケメンカメラマンの伴野丈を演じた。
「『偽装不倫』がクランクインをしたとき、柳楽優弥さん主演の舞台『CITY』にも出演していて、作品を掛け持つという経験はそのときが初めて。正直、キツいという思いもあったのですが、今となってはその経験をしたことで乗り越えられることも増えて、成長もできました」
そんな宮沢だが、自分の芝居している姿を見ることには抵抗があるという。「もちろん勉強のためにも作品は観るのですが、『もっとこうすべきだった』『ぜんぜんできていないぞ』と反省して、とにかく悔しい気持ちになるんです。いまだに、作品を終えて最初から最後まで『よかった』と手応えを感じられた作品がないのですが、それはそれでいいのかなとも思っています。『まあ、よかったかな』と思ってしまうのは進化がないと思うので、そういう悔しさをプラスに次の作品に臨むようにしています」とストイックさも忘れない。
久しぶりに“勉強モード”を離れて……
新型コロナウイルスの影響が続くなか、多忙の日々を過ごしてきた宮沢に心境の変化も。昨年、自ら削った版画をプリントしてデザインしたオリジナルチャリティーTシャツの販売も行ったが、「そのときは何かを作って届けたいという気持ちはあって、表に出られない時期だったので、高校の時にやった版画にハマった経験もあって、何らかの形で届けたいなと思っていたんです」と振り返る。
そしてこの時期は、何よりも仕事のことは何も考えずに、俯瞰した立場で作品を観ることができたことが大きかったという。「自分が役者として出ていたら……とか、ついつい勉強モードになってしまうので、作品をゆっくり観ることが最近できていなかったんです。でも、久しぶりに役者になる前の自分に戻って、観客のような気持ちで作品を観ることができました。この仕事をしているので気になるのですが、作品を届けるべき人と同じ目線で観られたので、何が重要で重要じゃないのか、そういうことを考えることができました」
20代は悔いを残さず
コロナによる公開延期を経て、3月26日に『騙し絵の牙』が劇場公開を迎えた。宮沢ふんする矢代は、あまりのイケメンぶりに社内の女性社員たちがこぞって騒ぎ出す事態となるほど。朝ドラ「エール」でも女性たちから黄色い声を浴びるロカビリー歌手を演じたが、いわゆる“王子様キャラ”は「普段の自分とは正反対なので恥ずかしい」という宮沢。一方で「ただ、ファッションショーのときは歓声を受けるので、そのときを思い出しながら演じていました」とモデルとしての経験が生かされたと語る。
物語の後半から登場する矢代は、その登場から独特の存在感で空気を変える。「『his』のときも物静かであまり多くを語らない役で、自分としては過去にもそういう役がハマっていた気がします。言葉で表現するよりも難しさがあるぶん、表情や立ち仕草、所作で伝えなくてはいけないので、自分のなかでのアレンジみたいなものができて楽しさがあります。目線ひとつ違うだけでまったく違うキャラクターになりますし、そこは今回も意識したところです」
そう語る宮沢も4月24日に27歳の誕生日を迎える。「正直、20代後半に差し掛かって30歳を前にした、という実感はまったくないんです(笑)。でも、20代は体力があって、やりたいことをやれる時期だと思うので、今はとにかくやりたい役であったり、少しでもいいなと思ったりした作品は、積極的にやっていきたいなという気持ちです。30代に入ると変化もあると思うので、今は悔いのないようにしたいという思いですね」と真っすぐな眼差しで思いを明かした。(編集部・大内啓輔)