『はな恋』『騙し絵の牙』『ゾッキ』話題作に森優作あり
『花束みたいな恋をした』から『騙し絵の牙』に『ゾッキ』(4月2日公開)などと、最近の日本映画の話題作には、俳優・森優作の顔がある。2015年夏に公開された塚本晋也監督&主演『野火』で若い兵士・永松を演じ、第30回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞するなど鮮烈な印象を放った。それから6年。躍進の裏には、良作との出会いを求めて、自ら運命を手繰り寄せてきた言動があった。
塚本監督は、『野火』のオーディションで森を抜てきした理由について「(戦場で変貌していく永松の)ラストシーンの芝居と、素とのギャップが良かった」と語っていたことがある。まさにそれは森の役者としての魅力を表しているように思える。手垢もついていなければ、年齢も性別も超えた土台を持ち、彼が物語に登場すると「何者?」と誰もが気にならずにはいられない存在感。そこから役の力を借りて、バラエティーに富んだ表情を見せる。
NHKドラマ「アシガール」(2017)でヒロインの恋の指南役・あやめとして粋な女形を披露したかと思えば、朝のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(2018)で、ヒロインの初恋相手「こばやん」を演じてお茶の間に笑いを提供。そして『ゾッキ』では、成り行きでついた嘘で大人になっても苦悩することになる不器用な男・牧田役で、齊藤工監督パートの主演を務める。31歳にして学生を演じても全くの違和感を感じさせない。
「さすがに現役高校生の中に入れられると浮きますが、その人物の学生時代から大人までの長い歳月を描くのであれば頑張ります」(森)
そして『騙し絵の牙』では、大泉洋演じる敏腕雑誌編集長の元で働く編集部員役。不摂生がたたったかのようなややぽっちゃり気味の体型と服装に無頓着なあたりが、いかにも編集者然としている。
「あれは“食通”という設定で、そば特集の編集をしていてプレゼンをしなければいけなくて。映画の中には映っていないかもしれませんが、実際にそばを食べに行って写真を撮って、自分でレポートを作っています。だから当時、結構食べてましたね(苦笑)。吉田(大八)監督は役の設定に合えばデスク周りの小道具を持っていって良かった。好きなお菓子なども。それくらい、自分の日常を役に反映させてくれました」(森)
菅田将暉&有村架純の友人役を演じた『花束みたいな恋をした』など、多くはオーディションを経て役を得たという。一方で制作段階から作品に携わる機会も増えている。その代表が、内山拓也監督が2020年度新藤兼人賞で銀賞を受賞した『佐々木、イン、マイマイン』(2020)と、三澤拓哉監督の日本・香港・韓国合作映画『ある殺人、落葉のころに』(2019)という2本の自主映画だ。
前者は、森の友人でもある俳優・細川岳が、自身の学生時代の友人の話を内山監督に話したことから生まれた企画で、後者は2015年の大阪アジアン映画祭で出会った三澤監督からある日、森あてに脚本が届いたところから始まった。特に『ある殺人、落葉のころに』は三澤監督が釜山国際映画祭の助成を得ながら制作し、公開まで約3年を要している。時には森が脚本について意見を出したり、日本の配給会社を紹介するなど三澤監督と並走してきたという。
三澤監督は森の魅力について「目です。優しさ、嫉妬、孤独、狂気といった感情をまなざしだけで表現することができる。また、初対面の時から感じていましたが、森さんは怖いぐらい人のことをよく見ています。実際、今回現場を共にした際も、自身が演じることと同じぐらい、周囲の状況把握に力を注いでいたように見えました。そのことが説得力のある演技につながっているように思います」。
三澤監督とは引き続き、新たな試みに挑んでいる。森がさまざまなオーディションで出会って意気投合した俳優・長村航希も加えた3人で「伊勢市クリエーターズ・ワーケーション」事業に参加したのだ。これは三重県伊勢市に滞在しながら創作活動を行うもので、1,271人の応募者の中から演出家・宮本亜門、漫画家・今日マチ子、写真家・石川直樹らそうそうたるアーティストたちと共に選ばれた。森たちは伊勢市に滞在しながら短編を制作。これをもとにいずれ長編を制作したいという。
「芸能事務所に入らせていただいたのはありがたかったですけど、基本はオーディションを受けて自分で役を取って来なければならない。どこに所属しているかうんぬんではなく、それよりも“あなたは何を考えているのか?”を問われているように思え、自分の考えがしっかりしていないと(他の俳優に)追いつけないと実感しました。そもそも役者は待っている時間がすごく長いから、その間に吸収したさまざまな事を自分のペースで外に出して行けたらと思っています」(森)
そう真摯(しんし)に語る森には、役者として、人としての指針を示してくれた人物がいる。『野火』で共演したリリー・フランキーだ。撮影後、通訳の夢を抱きながらアルバイト生活を送っていた森を、リリーは付き人として雇っていた時期がある。
「撮影現場に行く2時間前にリリーさんの家に行って、掃除やゴミ捨てといった身の回りのお世話をし、現場では“モニターを見とけ”と言われてひたすらリリーさんの芝居を見ていただけなのですが。でもさまざまな現場に同行させていただいて、自分ももっと役者をやりたいという思いが強くなったと思います。何よりリリーさんには演技どうこうより、日常生活の大切さを教えていただいた。そこに人間性が出るのだということを、身にしみて実感しています」(森)
(取材・文:中山治美)