青木崇高『るろ剣』左之助がくれた宝物
大ヒットシリーズ『るろうに剣心』で、第1作目から人情味あふれる熱い男、相楽左之助を演じてきた青木崇高。シリーズ完結編となる『るろうに剣心 最終章 The Final』と『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の公開を前に、青木は「左之助は“元気印”のキャラクター。30代を左之助と一緒に歩めた経験は、役者としてとても大きなこと」としみじみ。「『るろうに剣心』という大きな船の乗組員の一員になれて、本当にうれしい」という彼が、左之助との出会いがもたらしたもの。そして間近で見続けてきた、剣心役の佐藤健のすごみについて語った。
■左之助は、剣心が帰ってくる場所を温める男
和月伸宏の漫画を実写映画化した本シリーズ。激動の幕末で“人斬り抜刀斎”として恐れられながら、新時代において、斬れない刀“逆刃刀”を手に大切な人々を守ろうとする男、緋村剣心の戦いを描く。最終章は、シリーズの始まりと終わりをつづる2部作として完成した。
第1作目の撮影から10年が経ち、青木は「1作目を撮影しているときは、まさか10年も続くシリーズになるとは思っていませんでした」と率直な思いを吐露。「演者だけでなく、観てくださったファンの方々、スタッフの方々など、たくさんの人の力でここまで広がってきた。どんどん大きくなる『るろうに剣心』という船。その乗組員の一員になれたんだなという気持ちが大きいです」とこれまでの道のりを振り返り、感無量の面持ちを見せる。
熱血漢の喧嘩屋である左之助。青木は「左之助は元気印の男。とにかく現場を盛り上げることを大切にしていました」とエネルギッシュに左之助を演じた。「本シリーズのキャラクターは、悲しい過去を持っていたり、戦いによって人生を取り戻したり、見つめ直したりする。それぞれ“陰と陽”のキャラクターがいるとすると、左之助は“陽”の立ち位置にいる存在でいなければと思っていました。『難しいこと考えるなよ』と剣心の背中をバン! と叩くような面もあるし、薫や左之助のいる神谷道場は、剣心が帰って来る場所でもあるので、そこは温めておかないとな、という感覚もありました」と剣心にとって心強い存在でもあり続けることを意識していたと語る。
■佐藤健の器の大きさに感服!
アクションシーンにも、シリーズを通して左之助の熱い性格がよく表れている。『The Final』では、剣心の因縁の相手である縁(新田真剣佑)と左之助が、死闘を繰り広げる場面も。縁にこれでもかというほどにボコボコにされる左之助だが、青木は「それでもぶつかっていくのが、左之助」と左之助ならではのアクションについて語る。
「(『京都大火編』、『伝説の最期編』の敵である)志々雄や縁の強さを考えると、彼らと剣心との戦いはもはや、“超人対決”という域に達していますよね。左之助は拳にこだわって戦っているので、やっぱり彼らにやられてしまうし、限界がある。また観ているお客さんのことを考えると、剣心と敵との戦いが雲の上のものだとすると、そこにハシゴをかける役割となるのが、左之助なのかなと思っています。皮膚の感覚レベルで彼らとの戦いの痛みを伝えているのが、左之助」とリアリティーが肝になると話し、「『The Final』でも壁に頭を打ち付けられたり、撮影はなかなか大変でした(笑)。左之助はたとえ勝てなくても、精神では決して負けないし、『絶対に仲間を守るんだ』という気持ちで敵に向かっていく。熱い男です」と役柄への愛情をにじませる。
「剣心は、とんでもないところに行ってしまった」とその強さに舌を巻く青木。剣心を演じる佐藤健についても、賛辞を惜しまない。「これほどの大作シリーズで、主演として作品を背負うのは、本当に大変なこと。その苦労を表に出さず、ここまでやり切った彼は本当にすごい。もともと彼は、そういう器を持っていたんだと思います。だからこそ製作側も、1作目の撮影当時はまだ22歳だった彼に、このビッグプロジェクトを託した。普通の人ではきっと、背負いきれないですよ。10年間、その道のりをそばで見られたことをとてもうれしく思います」
■左之助が役者人生の大きな糧に
大友啓史監督が率いる撮影現場は、「中毒性の高い現場」だという。「例えば、セットの壁ひとつとっても、『ここまで徹底してこだわって作るのか』というくらい作り込まれている。また大友監督は常に『やっちゃえ、やっちゃえ』と言ってくれるので、左之助として何をするのかを試されているようなところもあって。『左之助だったらこう動くか…』とアイデアを練っていると、スッとそこに必要な小道具が用意されていたりする。すごいんですよ! 尊敬できるスタッフさんばかりで、それが大きなモチベーションになりました。みなさんと信頼し合って、連携し合って、作品づくりができた」と熱っぽく語り、「ものづくりの原点を感じられた現場」と撮影現場での格別な時間を振り返った。
左之助がくれた宝物について、こんなエピソードも。「1作目が、ロサンゼルスの映画祭(LA EigaFest 2012)で上映されました。僕も現地に行ったんですが、会場は大盛況で。左之助の人気もすごかったんです! こういった陽気なキャラクターは好かれるんだなと思いました」と海外での人気も実感。
さらに「ある幼稚園の先生から、手紙をもらったことがあって。『不登校の生徒がいたんだけれど、左之助が頑張っているから、その子も励まされて幼稚園に通えるようになった』と書いてありました。涙を流しながら手紙を読んで、『るろうに剣心』のような作品には、そういった力もあるんだなと感じました」と胸の内を語り、「30代をこのシリーズと過ごせたことは、役者としてものすごく大きなことだと思っています。僕も小さな頃にジャッキー・チェンの酔拳とかを真似したりしましたが、そんな存在に一歩近づけたとしたらすごくうれしい。エンタメの深いところに、少し触れることができたんじゃないかなと思っています」と笑顔を見せた。
「体が動くうちに、こういう作品と出会えたことは運もあったのかもしれません。この出会いを大切に、これからもしっかりと作品づくりに向き合っていきたいです」と本シリーズでの経験が今後への力にもなっていることを明かしていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
『るろうに剣心 最終章 The Final』は4月23日、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は6月4日より公開