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菅田将暉、日本映画界のレジェンドに衝撃 『キネマの神様』で過ごした奇跡のような時間

菅田将暉
菅田将暉 - 写真:木川将史

 16歳でスクリーンデビューを果たし、28歳となった今や世代を代表する俳優となった菅田将暉。日本映画界の巨匠・山田洋次監督最新作『キネマの神様』(公開中)では、映画監督を志す青年で、山田監督の青春時代を投影したような主人公・ゴウを情熱的に演じている。あらゆる映画やドラマで圧倒的な存在感を放ち、代表作を次々と生み出してきた彼だが、俳優道を邁進する上では「迷うことも多々ある」と告白。しかし山田監督の丁寧で真摯な映画づくりの現場に飛び込み、「30代へ向かう、大きな力になった」と力強く語る。菅田が目撃した山田洋次のすごみ、受けた影響について明かした。

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89歳の巨匠・山田洋次から受けた刺激

『キネマの神様』メイキングより山田洋次監督と若かりし日のゴウを演じる菅田将暉 (C) 2021「キネマの神様」製作委員会

 松竹映画100周年を記念して、山田監督が原田マハの小説を映画化した本作。かつて映画監督を夢見ながらも今やダメ親父となって家族からも見放されたゴウの人生を、時代を越えた愛と友情、家族のありようとともに描く。菅田が演じたのは、過去パートのゴウ。映画黄金期の活気あふれる撮影所で助監督として仕事に励む青年で、菅田は青春期の輝きともがきを見事に表現している。

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 8月6日より公開となった本作だが、お披露目となるまでには、ゴウ役を菅田と二人一役で演じる予定だった志村けんさんが2020年3月29日に急逝。現代のゴウ役は志村さんの遺志を継いだ沢田研二へとバトンタッチされ、撮影の長期中断や2度の公開延期など、コロナ禍においてさまざまな困難に見舞われた。菅田は「本当にうれしいです」と公開の喜びを噛み締め、「完成から時間が空いて、より本作への理解度も深まったように思います。撮影後にすぐ公開となると、あっという間に手元を離れていってしまう感覚になることもあるんです。でもこの映画は、みんなで大事に保管して、温めて温めて、いざ放出という形になった」と宝物を抱きしめるように、本作への愛情をあふれさせる。

『キネマの神様』より小津安二郎監督をモデルにした人物を演じる山崎貴(中央)。白い帽子は小津監督本人のもの! (C) 2021「キネマの神様」製作委員会

 89歳の山田監督の通算89本目となる作品で、タッグが叶った。菅田は「僕のマネージャーさんが山田監督の映画を観て、この世界を目指した人なんです。『菅田くん、こういう作品のオファーがあるんだけど』というときも、これまでとちょっと違うテンションで(笑)。衣装合わせや本読みで山田監督とお会いしたときに、マネージャーさんの瞳は潤んでいました」と裏話を明かしつつ、「山田監督って、それくらいのレジェンドですよね」としみじみ。

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 撮影現場で山田監督と過ごした日々は、「奇跡のような時間だった」という。「原節子さんや小津安二郎監督のお話を伺ったりもして」と監督から飛び出すのは、貴重な話ばかり。「今回、山崎貴さん(『ALWAYS 三丁目の夕日』『STAND BY ME ドラえもん』シリーズなど)が小津監督をモデルにした役柄で登場しているんですが、山田監督の指示で山崎さんが帽子をかぶっていて。それが本当に小津監督ご本人の帽子だそうで。僕からしたら、歴史の資料や教科書みたいなエピソードがどんどん出てくる」と楽しそうにニッコリ。

 もっとも驚いたのが、「山田監督が、“人と人の触れ合い”にとても敏感」だということ。「劇中でゴウと親友のテラシン(野田洋次郎)が喧嘩になるシーンがありますが、撮影現場に行くと、山田監督が『僕は、暴力的なシーンを撮ったことがない。どうやって撮っていいかわからないんだ』とおっしゃっていて。それを20代の僕に相談できること自体もすごいですよね。“殴る”とか“キスをする”など肉体的な動きを見せるシーンは、アクションとして見せることもできるけれど、山田監督は人間同士が触れ合ったときにどうなるのかと、登場人物の気持ちをフレッシュに捉えようとされていた。その純粋さにとても心を打たれました」と大いに刺激を受けたという。

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“映画俳優”として覚醒した転機

撮影:木川将史

 山田監督の映画への愛がたっぷりと込められた作品となったが「毎日必死に戦っていたら今、ここにいたという感じ」とこれまでのキャリアを振り返った菅田にとって、映画の仕事に魅了された転機を聞いてみると、「青山真治監督の『共喰い』です」と打ち明ける。

 2013年に公開された本作で、菅田は暴力的な性癖がある父親を持った高校生の苦悩をみずみずしく演じ、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど高い評価を受けた。「僕は志を持って、映画の世界に入ったというわけではなかったんですが、『共喰い』に出させていただくことになって、青山監督のすべての作品を観て、勉強して。現場に入ると、大人たちがものすごく楽しそうに働いているんです。『何なんだ、この空気は』とその熱気に感動しましたし、自分もその一部になっているんだという感覚を味わった。映画のあらゆる可能性を感じた現場です」と映画俳優として覚醒した。

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 映画の撮影現場の特別さについて、「ものすごく時間をかけて、細い隙間を狙っていく感覚が、とても好き」と目尻を下げた菅田。「百人近い人が一緒になって丁寧に準備をして、光を待ったり、水を流したり、役者の感情を待ったり……。目指す世界を作るために、みんなでものすごい力を凝縮させて、一瞬一瞬に命をかけている感じがする」という。山田監督の現場はその醍醐味を味わえるものだったそうで、「あの高揚感は、他には決してないもの」とまっすぐな眼差しで語る。

28歳のリアルな迷い

『キネマの神様』よりテラシン(野田洋次郎)とゴウのケンカシーン (C) 2021「キネマの神様」製作委員会

 菅田は今年1月に公開となった『花束みたいな恋をした』で等身大の恋模様を体現し、6月公開の『キャラクター』では殺人現場を目撃したことで運命を変えていく漫画家役に扮した。4月期のテレビドラマ「コントが始まる」で見せた同世代の俳優たちとの鮮やかなセッションも印象深く、さらに今後はSFサスペンスの日本版リメイク『CUBE 一度入ったら、最後』(10月22日公開)、田村由美のミステリーコミックをテレビドラマ化する「ミステリと言う勿れ」(2022年1月クール)など、主演作が続々と待機している。まさに押しも押されもせぬ存在となった菅田だが、エネルギッシュに走り続ける中では「迷うこともある」のだとか。

 それは「現場でお芝居をしているのも楽しいし、みんなでものづくりをすることもとても楽しいです。ただありがたいことに、いろいろと詰まってきた結果、その楽しさが業務や作業になってしまう恐れもあります。自分は何のために芝居をしていて、何を残していけばいいんだろうと考えることもあります」とストイックに作品に打ち込むゆえの迷い。続けて「役者というのは、演じる役柄に寄り添って、その人生を一生懸命に生きる仕事。でも“菅田将暉”としての人生経験が少ないのに、いろいろな役をやっていく上で説得力があるのかなとも思ってしまう。これから30代、40代、50代となっていく中で、自分の人生をしっかりと歩んで、構築していかないと、説得力が生まれないんじゃないか」と自身の人生にも厚みを持たせることが、これからの課題だという。

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 30代という、役者としても一人の男性としても新たなステージに向かう上でのリアルな悩みを吐露した菅田だが、そんな中で山田組を経験できたことは「大きな力になった」とも。ゴウを通して映画の黄金期を知り、「自分の仕事としている映画というものが、どれだけかっこいいものなのか改めてわかった。しんどかったり、大変だったりする日々にも誇りが持てる気がした」そうで、「山田監督はとことん考えて、頭を使って映画づくりをしていました。その情熱に、スタッフも敬意を表してついていく。これからどんな現場に携わっていきたいのかを考える上でも、山田組の丁寧さは身に染みました」と語っていた。(取材・文:成田おり枝)

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