肉体改造は当たり前!鈴木亮平のカメレオン伝説
白石和彌監督の最新作で、警察と暴力団組織の攻防戦を描いた『孤狼の血』(2018)の続編となる『孤狼の血 LEVEL2』が公開となり、アツすぎる役者陣の演技合戦が大いに話題となっている。とりわけ「怖すぎる」と観賞後の人々を騒がせているのが、松坂桃李演じる主人公の刑事に立ちはだかる最恐最悪のモンスターに扮した鈴木亮平の“怪演”。鈴木は、現在放送中の日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS系で毎週日曜夜9時~)では救命救急医を演じており、この2作品で善悪を行き来する驚異の跳躍力を証明している。恵まれた体格、努力家ならではの繊細な役づくり、チームをまとめるリーダーシップ性など、共演者も称えるほどの彼の役者力に迫る。(成田おり枝)
日本映画史に残る悪役誕生
過激な描写もいとわず、コンプライアンス重視の時代に風穴を開けた『孤狼の血』。続編となる本作の舞台は、前作の3年後。伝説の刑事・大上(役所広司)の遺志を継ぐマル暴の刑事・日岡(松坂桃李)が広島の治安を守るべく奔走する中、彼に復讐しようとする極道の男、上林(鈴木亮平)が現れ、壮絶な死闘を繰り広げる。
上林は、出所したその足で、服役中に自分を懲罰房に入れた刑務官の妹を惨たらしいめにあわせる危険人物。容赦なく人を殴り、殺め、恫喝する形相も恐ろしく、見ているこちらはその迫力に震えるばかり。撮影前に鈴木は、白石監督から「上林を日本映画史に残る悪役にしてほしい」との命を受けたそうで、見事にその期待に応えた形だ。完成披露の場では、鈴木が「日岡をどうやって追い詰めるか、ずっと攻めの芝居だった。こんなに攻めてばかりの役は今までなかった」と語っていたように、彼にとっての新境地を目の当たりにすることができる。
撮影現場では、鈴木が上林組の親分に徹し、組の若手を演じるメンバーと積極的に交流していたという。イベントや舞台挨拶では彼が穏やかな笑顔で周囲の話に聞き入る姿をよく見かけるが、その柔らかさ、温かさで仲間との絆を育んでいくリーダーシップ性も鈴木の魅力。「TOKYO MER~走る緊急救命室~」を観ていても、キャストが素晴らしいチーム力を築いていることが、ドラマにも色濃く映し出されているように思う。
ヒーローとヴィランを行き来する振り幅の背景
『孤狼の血 LEVEL2』と「TOKYO MER~走る緊急救命室~」が同時期にお目見えすることとなったが、『孤狼の血 LEVEL2』の完成披露の場では、共演者の斎藤工が「上林は『アベンジャーズ』の(ラスボスとなる)サノスのレベルの“ヴィラン感”がある。日本映画では見たことがない」と鈴木の悪役ぶりを絶賛する一方、鈴木が主人公の救命救急医・喜多見を演じている「TOKYO MER~走る緊急救命室~」の制作発表会見では、鈴木が「脚本家の黒岩(勉)さんが、『MERをアベンジャーズのようなチームにしたい。リスクを背負って人を助ける“ヒーロー感”を描きたい』とおっしゃっていた」とコメントしていた。つまり鈴木は、ヒーローとヴィランほど対極にある役柄を演じているというわけだ。
振り幅のある役柄を演じる上で大きな武器となっていると感じるのが、鈴木の体格のよさ。『孤狼の血 LEVEL2』において、彼の身長186センチの恵まれた体格から放たれるアクションや怒号は実にパワフルで、上林の恐ろしさを倍増させている。「TOKYO MER~走る緊急救命室~」では、その体格のよさが「この人が来てくれたなら大丈夫だ」と安心感や頼もしさを与えることに成功しており、さらに喜多見の大らかさにもつながっているように感じる。
思えば、パンティをかぶって覚醒するヒーローを演じて鈴木の出世作となった『HK 変態仮面』(2013)、ムキムキの筋肉を披露した『TOKYO TRIBE』(2014)、気は優しくて力持ちの男子を愛らしく演じた『俺物語!!』(2015)、大河ドラマの主演を担った「西郷(せご)どん」をはじめ彼の体格を生かした作品は数々あるが、鈴木のすごいところはそのキャラクターに合った身体づくりをし、役柄に厚みを持たせているところ。役づくりのために激ヤセ、増量など肉体改造に励むストイックさは、スタッフ陣からも信頼を寄せられている。
共演者が「とんでもなくすごい」と尊敬!真摯な役づくり
こうして出演作を振り返ってみると、インパクト大のぶっ飛んだキャラクターにも血を通わせてきたのが鈴木だと改めて感じるが、大スターになってからもドラマ「東京タラレバ娘」(2017)や「テセウスの船」(2020)、白石監督の映画『ひとよ』(2019)など助演のポジションとして市井の人に扮しても光る演技を見せており、彼の演じるキャラクターはどれも「こういう人、いそうだ」と思えるリアリティーのある人物として作品に登場している。
『孤狼の血 LEVEL2』の上林も最恐の悪役ながら、鈴木は単なるモンスターではなく、上林なりの正義のある人物として演じ切っている。ビジュアルだけでなく内面を深く掘り下げ、繊細な役づくりに挑んでいるからこそ、そのリアリティーは生まれているのだろう。「TOKYO MER~走る緊急救命室~」の会見で、共演者の菜々緒は「鈴木さんがとんでもなくすごい。セリフを噛まないし、ほとんどNGを出さない。尊敬します」、賀来賢人も「亮平くんが出来すぎる」と難しい医療用語や手術シーンも完璧にやり遂げる鈴木を絶賛していた。現場でそういった能力を発揮するまでは、おそらく裏で相当な努力を重ねているはずだ。以前、ドラマ「レンアイ漫画家」(2021)で鈴木と共演した眞栄田郷敦にインタビューした際、「亮平さんはたくさん勉強されて、役に臨まれている。亮平さんを見ていると、僕も頑張ろうと励まされます」と語っていたことも印象深く、共演者も刺激する鈴木の真摯さこそ、振り幅の広い役柄をこなす一番の秘訣だろう。
英検1級、世界遺産検定1級の合格者、趣味は裁縫というハイスペックな一面も、彼が研究熱心で、好奇心旺盛、没頭型なことを示している。現在、38歳。今後、10月には新選組局長・近藤勇を演じる『燃えよ剣』が待機中。11月公開の『土竜の唄 FINAL』では再びヒール役で、潜入捜査官の主人公・菊川玲二(生田斗真)と対峙する。鈴木が惜しみなく情熱を注ぎ、今後どのような新たなキャラクター、作品が登場していくのか。実に楽しみだ。