『マスカレード・ナイト』木村拓哉アルゼンチンタンゴの裏側
東野圭吾のベストセラー小説を木村拓哉主演、長澤まさみの共演により映画化し、興行収入46.4億円の大ヒットを記録したミステリーの続編『マスカレード・ナイト』(公開中)。本作は、木村演じる捜査一課の刑事・新田がアルゼンチンタンゴを披露するシーンで幕を開けるが、木村にとってアルゼンチンタンゴは初挑戦。続編の大きな見どころでもある本シーンの裏側を、木村と20年来のコンビを組んできた鈴木雅之監督が語った。
東野の小説「マスカレード」シリーズの第2作に基づく本作。一流ホテルのホテル・コルテシア東京で大みそかに500人の招待客が集うカウントダウンパーティーに、殺人事件の犯人が現れるという匿名の密告状が警察に届き、刑事・新田が再びホテルマンになりすまし、潜入捜査を開始。かつてこのホテルに潜入した際に彼の“教育係”だった優秀なホテルマン・山岸(長澤まさみ)の協力を得て犯人特定に奔走するが、捜査は難航する。
原作でも序盤に登場する新田のアルゼンチンタンゴのシーンだが、映画では冒頭に登場する。これにはどんな意図があるのか。
「この話はホテルで繰り広げられるサスペンスというのが前提だけれど、そこに全く違う世界観を入れるという狙いがありました。そして新田のツイてない幕開け。前作の『マスカレード・ホテル』は殺人事件の真相を巡るミステリーと、ホテルの利用客の人間模様という二つの要素だったのを、今回はもう一つ世界観を広げてみたというか」
監督がそう話す通り、新田がダンス教室で講師の奥田(中村アン)と踊るシーンには色香が漂い、新田の“男”としての顔が垣間見える。新田の緩く流した無造作な髪型が、ワイルドな雰囲気を醸し出す。
「タイトルのマスカレード(=仮面舞踏会)って、独特な世界ですよね。例えばベネチアの仮面カーニバルのようにヨーロッパの匂いがして、日本の風土とはまた違う世界観で。観ている人が非日常的な空気感を体感できるという意味でもいいのかなと」
木村にとってアルゼンチンタンゴは初挑戦となり、なおかつリード(先導者)とフォロー(追従者)の二つをこなすというハードルもあった。一般的には男性がリード、女性がフォローを担うが、その両方をマスターすることになる。2度目のダンスシーンでは当初、2テイク目で監督が「OK」を出すも、木村の希望により3テイク目が行われたという。
「映画の撮影に入る前にすごくレッスンをしたんですよ。だからその成果をきちんと出したいという気持ちがあったと思いますね。木村君は、初めはなかなか閉口していて機嫌も悪かったんですけど、ノッてきたらだんだん楽しんでいくという。ダンスをモノにしていくのを楽しみにしているという感じがしますよね。木村君はテレビドラマなどでもいろんな職業を演じているじゃないですか。美容師、レーサー、ホッケーの選手、検事をやってみたり、そういういろいろなことをモノにしていくという役者の喜びを持っているんじゃないかと。リードとフォロー、両方踊ったので凄いと思いました」
「色っぽくやるのか、もっと無骨にやるのかいろいろ手はあると思いますけど、木村君だからやはりこうなりますよね」と振り返る鈴木監督。一方で、冒頭のダンスシーンは木村ファンへの単なるサービスシーンというわけではなく重要な意味を担い、「ダンスはラストに向けての一つの布石」だと話していた。(編集部・石井百合子)