「何食べ」自撮りOPは苦肉の策で誕生 劇場版ではハプニングも
11月3日より公開中の西島秀俊&内野聖陽主演の『劇場版 きのう何食べた?』。よしながふみの人気コミックを実写化し、2019年に放送されたテレビドラマの劇場版となる本作では、オープニングに内野と西島がスマートフォンで撮影した映像が使用されているが、もともと連ドラ版のオープニングでも内野の自撮り映像を使用されていた。その裏側を、連ドラ版のチーフ監督並びに劇場版の監督を務めた中江和仁に聞いた。
本作は、累計発行部数840万部(電子版含む)を突破したよしながのコミックを実写化したテレビドラマのその後を描く劇場版。2LDKの住まいで同居する料理上手で倹約家の弁護士シロさん(西島)と、人当たりのいい美容師ケンジ(内野)の悲喜こもごもを、豊かな食卓シーンを交えて描き出す。連ドラ版は2019年4月クールにテレビ東京系列にて放送されると、Twitterの世界トレンド1位となり、見逃し配信の再生数が全12話100万回再生を超えるなど歴代最高記録を更新。翌元旦にはスペシャルドラマも放送。劇場版では、シロさんとケンジの京都旅行に端を発した切実な問題が描かれる。
連ドラ版のオープニングは、OAU (OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)による「帰り道」をBGMに、ケンジが楽し気に料理をするシロさんを撮影し、2人が食卓につくまでを収めたもの。2人の仲睦まじさが伝わり、思わず笑みがこぼれる映像だが、監督いわく「苦肉の策」として生まれたものだという。
「深夜ドラマなのでそんなに製作費が潤沢にあるわけでもなく、本当に数時間で撮らなければならない制約があって。そこで企画監修に入っていただいている博報堂の神田祐介さんと考えていくうちに『携帯で撮るのがいいんじゃないか』と。内野(聖陽)さんだったらいろんなアドリブやリアクションを入れてくださるだろうからきっと、幸せなものになるだろうと。もう苦肉の策で思いついたという感じです」
企画が決まってからは実際に自宅でも実験をしてみたそうだが、スマホだからといって手軽に撮れたわけではなくかなり試行錯誤があったとのこと。「ケンジがスマホを自由に動かしながら撮る体なので、周りにスタッフがいられないんですよね。なので『ヨーイ、スタート!』の瞬間にスタッフは隠れ、セットには西島さんと内野さんだけの状況になる。『撮り終わったかな?』と思った頃に出て行って映像を確認すると、内野さんがボタンを押し忘れて途中から撮れていなかったり(笑)。次は内野さんの手が映ってしまっていてもう一回とか(笑)」
最後にはタイトルを挟む形で食卓につくシロさんとケンジの場面で終わるが、ここでは助監督が活躍。「最後にケンジがスマホをソファーに置いて、シロさんと食卓に座るという流れなんですけど、内野さんがスマホをソファーに置いた時点で、ソファーの後ろに隠れている助監督が一旦横位置に置き直しているんです。なんですけど、そこでまた問題が起きて、今度は助監督が誤って停止ボタンを押してしまって……とか。あとはオープニングテーマに合わせたタイミング。実際に曲を流して何回も練習したんですけど最初はペースが合わなくて、二人が食卓につかないうちに音楽が終わりそうになってダッシュで座るとか(笑)。1カットですませようと思ったんですけど、結構時間かかりました」
そうして試行錯誤の上、生まれた自撮りオープニング映像は好評を博し、劇場版へと受け継がれることに。劇場版のオープニングには、シロさんとケンジの京都旅行の様子が収められている。この旅行はシロさんがケンジの誕生日祝いとして提案したもので、ケンジはシロさんとの初旅行に喜びを抑えきれず、幸せいっぱいの2人が見られる。なお、劇場版のオープニングでは内野のみならず西島も撮影に参加。屋外での撮影では、通常は撮影のために一般人の通行を止める「人止め」を行うが、ここではそれができなかったという。
「オープニングに至るまでの展開が、ケンジがシロさんにショックな話を切り出されて重たい雰囲気になるんですけど、ずーんとした気持ちで東京に戻るわけにはいかないので、オープニングはリセットするための楽しい模様としてお二人にやっていただきました。京都の観光地(錦市場など)にお二人を野放しにするというチャレンジで、テレビ版と同様、お二人だけで撮影していただきました。人止めをするとそれも映ってしまうので出来ない。どうなることかと思ったんですけど、コロナ禍で人が少なかったこともあり、特に妨げになるようなことはなかったですね」
と言いつつ、内野のスマホに監督自身が映り込んでしまうハプニングも。「スタッフは離れたところにいたのですが、僕だけ柱とか木陰に隠れて芝居を観ていたんです。そうしたら、覗いた瞬間に内野さんのスマホが僕の側に回ってきたので、慌てて通行人のふりをして歩き出すというアドリブで対応しました(苦笑)」
そのシーンは本編に使われているとのことで、注意深く見れば監督の姿を発見できるかも!?(取材・文 編集部・石井百合子)