「青天を衝け」脚本・大森美香、五代が主役のドラマにも意欲
「日本資本主義の父」と称された実業家・渋沢栄一の生涯を描いた大河ドラマ「青天を衝け」で脚本を担当した大森美香が、最終回までの執筆を終えた現在の心境を明かした。
コロナ禍の影響は?
幕末から近代にかけての激動の時代を、渋沢栄一(吉沢亮)の歩みと共に描いた本作。脚本を書き終えた大森は「書いている途中でコロナ禍になったりして。ちゃんと放送されるんだろうかといろいろなことが心配でしたが、きちんと最終回まで書き終えることができてホッとしております。このまま最終回まで無事に放送されたらいいなと思っております」と晴れやかな表情。
コロナ禍で、普段とは違うスタイルでの執筆を余儀なくされたという大森。撮影現場に様子を見に行くことも難しくなったこともあり、当初は「実際に役者さんたちがこんな風に動いているのかというのを見ながら書けたらいいなと思っていたんですが、それもできなくなって。現場との一体感を感じられない心細さはありました」というが、「実際に放送されてからは視聴者の方の声が聞こえてくるようになり、すごく励まされたので、そこからはワクワクしながら書いておりました」と視聴者の反響の声に支えられたことを述懐する。
途中、オリンピック期間中に放送を中断したことなどもあり、放送回数は全41回。大河ドラマとしては決して多い話数ではない。自分が置かれた状況によって立場を変えながら生きてきた栄一の人物像を描き出すためには、彼の中にあるどっしりとした幹のようなものが必要だった。その軸は子ども時代にあると考えた大森は、「(母の)ゑい(和久井映見)さんの大きな愛情と、(父の)市郎右衛門(小林薫)さんからの厳しくも、人生とはこういうものなんだという教えといった素養のようなものを描くことが大事だと思った」と言い、「だから本当はもうちょっと、(大人になってからの)後半も書けるといいなと思っていたんですが……」という思いも。
栄一と慶喜のシーンが増えた理由
本ドラマでは、栄一と草なぎ剛演じる徳川慶喜との関係も話題を呼んだが、大森自身、二人のシーンを書いていくうちに「もっと二人のシーンを増やしたい」という思いになったという。「草なぎさんの演技は、2話の能の面が外れたときからずっとビックリしながら見ていました。草なぎさんを見て、慶喜ってそういう人だったんじゃないかなと思わされるところも多くて。何を考えているのかわからないところもあるけど、絶対に悪い人じゃないなというものが草なぎさんからにじみ出ている。それがよく出ているのが平岡円四郎(堤真一)さんとのシーンで、慶喜さんの愛情深さがよく出ていたなと思いました」
五代友厚、朝ドラと大河の違い
かつて大森が手がけた連続テレビ小説「あさが来た」(2015年度後期)では、ディーン・フジオカ演じる実業家・五代友厚が人気を博したが、本ドラマでもディーンが五代役で再登板したことが話題となった。大森も「前回は『あさが来た』の主人公あささんから見た五代さんでした。人生の先輩で、教えてもらうべき人ということで。いいところで現れて、去っていくというような役割だったんですけど、五代さん自身、実際は面白い人生を送った方なので、機会があったらもう一回描きたいと思っていた」と五代というキャラクターへの思い入れの深さをうかがわせる。
「それで今回、栄一さんの目線で調べると、栄一さんとはまた違った活躍をしていたことがわかって。もちろん後に“西の五代、東の渋沢”と呼ばれるということもあるんですけど、その前からの戦いの部分というか。『あさが来た』では見せなかった、幕末の志士としての顔が見せられると思った」と大河で目指した五代像を説明。「『あさが来た』では、師と生徒みたいな関係だったんですけど、栄一さんから見たら良きライバルであり、生涯の友でもある。そういう五代さんを描きたかった。甘い顔じゃない五代さんが見られるのが魅力になるかなと思って書いていました」と朝ドラで描いた渋沢と五代の関係の違いにも触れた。
そして実際にディーンが演じた五代を見て「こんなことを言うとあれですが、ちょっと大人になった五代さんというか、クールな五代さんを見られて。先輩ではなく、商人として時代を駆け抜けたという部分での五代さんを見ることができて。ディーンさん、ありがとうという感じです」と笑った大森。「五代を主役にしたドラマを書きたい?」という質問には「思います!」と即答。「薩摩から長崎に行って。長崎の海軍伝習所の話は相当面白いと思いますし、そこから薩英戦争でイギリスの捕虜になったりとか、いろいろな目線で描けるので、とても面白いと思います。ぜひ書きたいと思います」と意欲を見せた。(取材・文:壬生智裕)