大友克洋「AKIRA」連載と同時進行で監督…アニメ『迷宮物語』で多忙な日々
漫画家・映画監督の大友克洋が28日、都内で開催中の「角川映画祭」で上映された、オムニバスアニメーション『迷宮物語』(1987)の公開記念トークショーに出席。制作当時の多忙な日々を振り返った。
本作は、りんたろう監督『ラビリンス・ラビリントス』、川尻善昭監督『走る男』、大友克洋監督『工事中止命令』からなるオムニバス映画。『幻魔大戦』(1983)にキャラクターデザインとして携わった大友の、アニメ監督デビュー作でもあり、脚本・キャラクターデザインも担当。作画監督になかむらたかし、美術監督に椋尾篁、原画に森本晃司、桜井邦彦、なかむららがそろい、大友も原画に携わった。
大友は「『幻魔大戦』が終わった後に、(原作の)眉村卓さんから、もう一本やってみないかと誘われたのがきっかけです」と本作のオファー回顧。「『幻魔大戦』の時に(アニメ制作会社)マッドハウスに行ってスタジオの感じとかを見て、こうやってアニメを作るんだ、というのはなんとなくわかっていたので、機会があればやってみたいって思っていたところに話がきたんです。15分くらいの作品なので、できるんじゃないかって。アニメの作画はそんなにやったことはなかったのですが、皆さんに教えてもらいながらやりました」と明かす。
『工事中止命令』の原作は、大友自身が題材に選んだといい「ジャングルの奥地に工事を中止にしに行くという不思議な話で、複雑でもないし、オチがあるわけでもない。この長さならいけると思ったし、(ストーリーも)いいんじゃないかなと思った」と説明。ただ当時は、大友の代表作である漫画「AKIRA」も連載中で、多忙な日々だったという。「隔週連載の『AKIRA』を一週間で描いて、その後でスタジオに行っていました。一週間『AKIRA』で一週間アニメ。よくやっていたと思います。自分でもすごいなと思います」
制作過程では、美術監督を務めた椋尾の仕事に助けられたという大友は「椋尾さんは『銀河鉄道999』などでブルーの使い方が印象的だった。でも、『工事中止命令』ではピンクの空とか、椋尾さんが今まで使ってこなかったような色が使われていて、椋尾さんも色々試していたのかなって思います」と述懐する。「みんな、淡々と仕事をしていました。メカはほとんど森本(晃司)君がやっていました。なかむらさんは人物をやっていて、分担しながらの作業でした」
さらに「原画は、なかむらさんに教わりながら僕も描いたんです。ところが終わった後で回収に行ったらもうないって。原画もレイアウトも一つも残っていないって。跡形もないんです。(古本屋の)『まんだらけ』に出ているかもしれませんよ。昔はそんな風にゆるい感じだった。フィルムができたら終わりみたいな」とユーモアを交えつつ暴露した大友。しかし最後は「でも、アニメをやるのは楽しかった。初めてのことを覚えるのはすごく楽しい。絵コンテも描かせてもらった。アニメは楽しい思い出しかないです」と笑顔で当時を懐かしんでいた。(取材・文:名鹿祥史)
「角川映画祭」はテアトル新宿、EJアニメシアター新宿ほかにて全国順次公開中