『ヴェノム』VFXスーパーバイザーに聞くシンビオート製作秘話 カーネイジの触手はサソリ参考
映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(全国公開中)でVFXスーパーバイザーを務めたシーナ・デュガルがメールインタビューに応じ、本作に登場する二体のシンビオート、ヴェノムとカーネイジのデザインついて、VFXアーティストの視点から製作秘話と共に語った。
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2018年公開の前作『ヴェノム』には、サム・ライミ監督が手がけた『スパイダーマン3』とは大きく異なる、巨体で筋肉質なヴェノムが登場した。「『ヴェノム』1作目ではキャラクターのデザインにてこ入れをすることができました」と振り返ったシーナは、続編では「ヴェノムの見た目を変えない」という米ソニー・ピクチャーズと映画製作陣の要望を聞きつつ、細かな部分をアップデートさせた。
「『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』ではヴェノムの中から現れるエディの顔、ヴェノムの筋肉組織、フェイシャルリグなどを改良しています。最も重要だった改良点は、ヴェノムが呼吸をしている描写。これは1作目では見られませんでした。呼吸をしているところを見せることで、彼が生き物であることをより際立たせることが可能になりました」。
続編でヴェノムと死闘を繰り広げるのが、連続殺人鬼クレタス(ウディ・ハレルソン)が変貌するカーネイジだ。「ヴェノムとカーネイジは共通して、歴代コミックアーティストのアプローチ方法を研究し、映画のストーリーにフィットするキャラクターの動きを探して行きました」と語るシーナは、原作者に敬意を払いながら、ファンが求めるシンビオート製作に取り組んでいった。
「カーネイジに関しては、彫刻家と協力して粘土性の模型を製作しました。それをスキャンしたものが、カーネイジをデザイン・調整していくVFX部門の基盤となります。模型を作ることで、フィルムメーカーたちもカーネイジをどのように見せればいいか、より理解が深まるんです」。
シーナ曰く、変幻自在のカーネイジが生み出す武器とその動きは、主に原作コミックから着想を得たそうだが、自然界の生き物や、身の回りにある絵画・映画・音楽にもヒントが隠されていたという。「クリーチャーを自然に見せたかったので、自然界の動きも観察しました。非ニュートン流体、変形菌、クラゲなどの深海生物、アメーバをはじめとする微生物、タコの皮膚など参考にしたものは色々あります。また、動物が自己防衛する手段も色々と調べました。私が特に魅力を感じたのは、毒針があるサソリの尾節。カーネイジが触手を武装化する動作の参考にもしています」。
前作同様、続編はPG-13(13歳未満の鑑賞には保護者の同意が必要)で製作されたため、カーネイジの残虐描写はある程度抑える必要があった。「出血描写は避けましたが、血を暗示させることはできました」とR指定ギリギリの表現を狙ったシーナ。「適切な赤色を選ぶことで、カーネイジは皮が剥がれたようなおぞましすぎる見た目にはなりません。色々なアイデアを模索していきましたが、血まみれに見える表現だけは避けています」。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、続編ではVFXチーム全員が自宅作業を余儀なくされた。VFXスーパーバイザーであるシーナは、世界中のスタッフ全員が同じビジョンを共有しているかどうか確認しながら、コロナ禍におけるスタッフのメンタル面にも気を配っていたという。「Eメール、iMessage、WhatsApp、Zoom、Slack、Microsoft Teams、QTAKEなどを常にチェックする日々でした。自宅での映画製作はメリットもたくさんあります。人間は、インプットするためだけに生まれたわけではありません。リモートワークであれば、その環境に相応しいワークフローが必要になります。ゴールに向かうためには、多大なる忍耐と思考力が求められるんです」。
先が見えない状況下でも、チーム一丸となって完成させた続編。シーナは「『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は映画館に人々を呼び戻しました。人々の生活や映画館の活気を取り戻す貢献ができて嬉しいですし、みなさんには1時間30分笑って、幸せな気持ちになってほしいですね」と思いを込めた。(編集部・倉本拓弥)