吉沢亮「青天を衝け」で8キロ増量 大河完走で「ちょっとだけ老けたかも」
「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一の91歳に渡る生涯を描いた大河ドラマ「青天を衝け」が、26日に最終回を迎えた。1年4か月に及ぶ撮影に挑んだ渋沢役の吉沢亮と、チーフ演出を務める黒崎博チーフ・プロデューサーがが作品を振り返った。
13歳から91歳まで、渋沢の一生を演じ切った吉沢。黒崎は人物の生涯を描く際、通常はラストに向けて「どう人生を閉じていくか」を考えるものだというが、渋沢に関しては「無理だな」と思ったという。その理由について「文字通り駆け抜けた人生。第40回で周囲の人間が次々に亡くなっていくなか、栄一はアメリカに行きますからね」と笑うと、「閉じるというよりは、最後までエネルギー溢れる物語になりました。吉沢さんが全身全霊で91歳の最後の瞬間までパワーを感じさせてくれました」とこれまでの作品とは違う趣に触れる。
だからこそ演じる吉沢にも苦悩があった。「最後までやりたいことをやってきた栄一。年は取っていくのですが、エネルギーは失われてはいけない。そこを、リアリティを持って表現することがすごく難しかった」と晩年期の芝居は難易度が高かったことを明かすと、最終話で登場した若かりし渋沢を演じる際の裏話を披露。「年を重ねるにしたがって役づくりで体重を増やしていったんです。最終的には8キロぐらい太ったのですが、全力で走るシーンは体が重くて『年を取ったな』と感じました」と役に合わせて増量したことを明かしていた。
黒崎は、そんな吉沢の「芝居の熱量」を絶賛する。第40回「栄一、海を越えて」で、渋沢がアメリカに渡り、日系人排斥運動が盛んだった地域でアメリカ人に熱弁をふるうシーンがあった。黒崎は「あのシーンは吉沢さんの芝居の熱量に僕自身が驚いたんです。想像以上でした」と語ると「吉沢さんは瞬間的に感情を燃焼させるパワーを持ち合わせている。それをどこで燃やすのかをいつも話し合っていました」と演出方法を述べる。
ほかにも吉沢の熱量を目の当たりにしたシーンについて黒崎は、前述した第40回と共に、第28回「篤太夫と八百万(やおよろず)の神」での、大隈重信(大倉孝二)と渋沢の舌戦を挙げる。「大蔵省へ出仕を求められた栄一が、断るために大隈さんの元へ乗り込んでいくのですが、そこでの長い2人のやり取りは、とにかく熱量がすごかった。お互いの思いがぶつかり合っていて、観ていて引き込まれて行きました」
また劇中、91歳まで生きた渋沢は、さまざまな人物との別れを経験したが、吉沢は「やっぱり(堤真一が演じた平岡)円四郎と、(橋本愛ふんする妻)千代との別れが一番つらかった」とつぶやく。「とっさま(小林薫)やかっさま(和久井映見)との別れももちろん悲しいのですが、どこかポジティブな感情も流れていた。でも円四郎と千代の別れは突然すぎて、全然消化しきれないまま時が過ぎていってしまった。かなり引きずりました」と強く感情移入したという。
第40回では、幼少期から生涯を共にした従兄の渋沢喜作(高良健吾)との別れも描かれた。吉沢は「喜作との思い出はたくさんありすぎて……」と口ごもると「初めて一橋家に仕官したとき、布団にくるまりながら酒を飲むシーン、2人の進む道が分かれていく場面など、思い出深いですね」としみじみ語る。
波乱万丈の1年4か月の撮影。吉沢は「1年以上同じチームで誰一人として欠けることなく、みんなで作った渋沢栄一でした」と周囲への感謝を述べると「大河の主役として嬉しい思いも、つらい思いもたくさんしました。でもめちゃくちゃ生きているなと。渋沢栄一を演じて“生”を感じました。こんな刺激的な現場はなかなか出会えない。一生(心に残る作品だと)言い続けると思います」と振り返った。
大河ドラマを経験したことで変化したことを問われると「ちょっとだけ老けた気がします。撮影前の写真を見ると『若いな』って思いますからね(笑)」と回答。それでも役柄だけではなく「人としても成長できていればいいなと思っています」と、未来に思いを馳せていた。(取材・文:磯部正和)