濱口竜介監督、オミクロン株の影響で登壇できず…それでも電話で喜びの声!
第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した映画『偶然と想像』の公開記念舞台あいさつが都内で行われ、メガホンを取った濱口竜介監督が電話で参加し、「今日は満席だとうかがっております。それが目に浮かぶようです」と喜びのコメントを寄せた。この日は3話のオムニバスのうちの第1話『魔法(よりもっと不確か)』に出演した古川琴音、中島歩、玄理が登壇した。
本作は、偶然と想像をテーマにした三つの物語から成るオムニバス映画。第1話『魔法(よりもっと不確か)』は、モデルの芽衣子(古川)が、ヘアメイクアーティストである親友のつぐみ(玄理)から好きな男だと聞かされたその男が、元恋人の和明(中島)だったことから起きる騒動を描く。ここしばらくは海外映画祭をめぐっていて、今は日本に帰国中だという濱口監督だったが、この日の会場には不在。「本当は伺えるはずだったんですけど、オミクロン株の影響で隔離期間が延びてしまって伺えなくなってしまいました。でも公開を迎えられたということをうれしく思っております」と語った。
濱口監督といえば、撮影前に徹底的にリハーサルや本読みをするという独特なスタイルがよく知られている。今回、初参加となった古川もこの“濱口メソッド”に大きな影響を受けたようで、「リハーサル期間中に濱口さんから教えてもらったことは、その後ずっと続けておりまして。例えば本読みで、感情抜きでセリフを入れ、それをボイスレコーダーに録音して、それを聞きながら、覚えようとせずに自然に動くという方法とか、今もどの芝居でも舞台でも続けています」と明かした。
濱口監督とは今回が2度目のタッグとなった玄理は、劇中では会話の中だけに登場するエピソードも実際に撮影していたというエピソードを披露。「世に出ていないものなんですけど、ちゃんとリハーサルをやって、カメラも入れて。衣装メイクは自前ですけど、それで1回撮影をしました」と明かし、そのことによって本編のセリフもビビッドになったといい、「それは本当にお芝居の助けになりました。それまでは台本上でこういうことだろうなと一人で想像していたんですけど、実際にその芝居をやってみるとセリフで話すエピソードなんかもより深く感じることができたので。そこのシーンに入る前の準備なども、肩の力が抜けてできたので良かったです」と振り返った。
そうした本編には使わないシーンも一緒に撮影した意図について、濱口監督は「玄理さんがおっしゃっていただいた通り、そっちの方がやりやすいんじゃないかなと思って。もちろん役者さんの想像力ってすごいものだと思っていますし、最終的にはそれに頼らないといけないわけですが、実際に体験することの密度は大きなもの。なので、やってみたという感じです」と解説した。
登壇者たちによると、撮影現場は非常に和やかだったそうで、古川も「オフィスのシーンで監督がむせてしまって。それがラストのあたりで、もう1回リテイクになってしまったのが忘れられなくて。『ここまで来たのに』って」とクスクス笑いで思い出すと、濱口監督も電話越しに「でもね、むせた時にはせきができるような現場がいいなと思います。せきをしてしまったのは申し訳なかったですが、致し方ないと思っていただけるとありがたいです」と返し、会場を笑いに包んだ。(取材・文:壬生智裕)
映画『偶然と想像』は公開中