「カムカムエヴリバディ」るい&ジョーの新たな出発に涙…時空を超えて描かれる繋がり
現在放送中の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が第13週に突入。深津絵里が演じるヒロインのるいに大きな変化が訪れることになったが、過去のシーンを想起させるような巧みな演出が視聴者を驚かせている。この13週について、演出の安達もじりと制作統括を務める堀之内礼二郎チーフ・プロデューサーが舞台裏を明かした。
自転車の練習シーンは安子編との繋がりが…「カムカムエヴリバディ」場面カット【写真】
連続テレビ小説の105作目にあたる「カムカムエヴリバディ」は、岡山・大阪・京都を舞台に、昭和から令和にかけての時代にラジオ英語講座とともに歩んだ祖母・母・娘の3世代親子を100年にわたって描くファミリーストーリー。“朝ドラ”では初となる3人のヒロインが登場し、上白石萌音、深津絵里、川栄李奈がリレーを繋いでいく。現在は2代目のヒロインとなる、深津ふんするるいの物語が描かれている。
岡山を離れ、一人で大阪へとやってきたるいは錠一郎(オダギリジョー)との出会いを果たし、お互いに惹かれあっていくことに。ところが、幸せも目前かというとき、運命の歯車によるいたずらなのか、二人はすれ違っていくのだった。そんななか、るいの心に決定的な変化が訪れることで、二人の関係も大きく動き出すことになる。
演出の安達は「家庭を持つのが怖いとすら思っていたるいが母親になるまでを描く週だったので、難しさは感じていました。ただ何より、るいの変化を丁寧に描きたいと思っていたんです」と語る。とりわけ印象的だったのは、海へと入っていくジョーをるいが追いかけていく場面だった。原因のわからない症状に苦悩しながらも、どこか飄々とした雰囲気もあったジョーの糸が切れたような姿と、それを力強く抱きしめるるいの姿が深い余韻を残した。
安達は「撮影の現場に行く何週間か前に、このシーンをどう撮るかについて、深津さんとオダギリさんとお話しさせていただきました。ジョーの絶望をどこまで表現すべきか、るいがジョーをグッと抱きしめるまでの過程をどう積み重ねていくべきなのかということを話しました。このシーンそのものというよりも、そこに至るまでの積み重ねがセンシティブなため、議論を重ねました。ですので、現場では臨場感のあるシーンをしっかり撮影できました。実は準備の段階では天気が悪いほうが合うのでは、という話もしていたのですが、この日は快晴で、結果的に天気を逆手にとるような演出になりました」と振り返る。
そして、物語の舞台は京都へ。るいとジョーは新居で新たな門出を迎えることになったが、新たな生活で経験するなかで安子との思い出に重なっていく展開も描かれた。るいの心の中では、安子の存在がしだいに大きなものへと変化しつつあるのだったが、るいにとっては幸福ばかりとは言いがたい複雑なものでもある。
そのなかでは、安子編とシンクロする要素が随所に登場し、親子に繋がりが時間を超えて描かれている。るいの「ひなたの道を歩いていきたい」という言葉をはじめ、京都に移ってからもオマージュのようなシーンが描かれている。るいが自ら店を持つことを決めたのも、安子とのあんこづくりの思い出から。「藤本有紀さんが書いた脚本の段階で、安子編を重ねるような仕掛けがあって、るいとジョーのキャラクターとして齟齬がない範囲内で演出しました。とくに自転車に乗るシーンは、安子と稔のときとほぼ同じカット割りになっているんです」と安達は明かす。
堀之内も藤本が紡ぐ物語の巧みさには驚きを隠せない。「私自身が気づかなかったポイントを視聴者の方が指摘していることも多いんです。例えば、第11週の洋服店でるいが自分はふさわしくないとジョーから身を引こうとするシーンが安子と稔に重なって見えたという声も聞きました。るいと安子の結果は異なるのですが、構造が同じになっているんです。はっきり意図した以外にも、効果的に響き合って作用しているのかなと思います。見るたびに藤本さんのアイデアには驚かされることばかりですね」
ほかにも、荒物屋あかにしの赤螺家の人たちが再登場し、幼かった吉右衛門が大人になった姿を見せるなど、遊び心は健在だ。吉兵衛役だった堀部圭亮が吉右衛門を演じており、キャスティングの妙も話題になっている。安達は「この設定も当初から想定して作っていたのですが、そこに吉兵衛役の堀部圭亮さんがいらっしゃるだけで単純に笑える部分もあるし、時空を超えたような感覚も本作ならではの魅力だなと思います。楽しみながら撮影していました」という。
ほかにも、桃山剣之介の息子である団五郎も登場。ここでももちろん尾上菊之助が二役を演じており、楽しめるポイントは尽きない。堀之内も「作り手が視聴者のみなさんと一緒に作る“共犯関係”を楽しむことができるのは“朝ドラ”ならでは。『カムカムエヴリバディ』は三世代の物語を描くので、藤本さんが楽しんで書いた仕掛けも、より多く楽しんでいただけると思います」と語る。親子三代の人生がどのような繋がりを見せていくのか、その物語世界から今後も目が離せない。(編集部・大内啓輔)