岩田剛典、初の官能シーンの裏側「実は緻密な作業」
2016年に興行収入22億円のヒットを記録した映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016)では癒し系の草食系男子、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(2018)ではヒロインの初恋の先輩。一転して、『空に住む』(2020)ではヒロインを誘惑するスター俳優に。ヒロインを魅了するさまざまな表情で観客をトキメかせてきた岩田剛典が、久々に恋愛作品に帰って来た。演じるのは、Netflixシリーズ「金魚妻」(2月14日配信スタート)で夫の暴力に悩む主人公さくら(篠原涼子)と禁断の恋に落ちる青年。初挑戦となった官能シーンをはじめ、本作の撮影の裏側を語った(数字は日本映画製作者連盟調べ)。
原作は、漫画雑誌「グランドジャンプめちゃ」で連載中、コミックの売上が累計300万部を超える、黒崎Rによる同名漫画。「最高の離婚」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」など、一筋縄ではいかない恋愛ドラマを手掛けてきた並木道子が監督を務めた。
一線を越える妻たちの禁断の愛をテーマにした脚本を読んだ岩田は、「刺激的な描写もある、少しセンシティブな内容だと感じました。そういう作品に挑戦したことがなかったので、それも楽しみで」と出演に全く躊躇はなかったという。「僕はおそらく皆さんが思っている以上に自分のイメージを気にしないし、守りたいとも思わないので」と、ひょうひょうとした口調で語る。
高層タワーマンションに住む6人の悩める妻たちの物語が、毎話オムニバス形式で綴られる。その中で全篇を貫く主軸となるのが、夫の暴力に苦しむさくら(篠原)と、彼女と恋に落ちる金魚店の店主・春斗(岩田)だ。演じるにあたり、「役づくりとしては純愛ストーリーに近い感覚でした。周りの人間模様が割とドロドロしているので、その中で春斗はピュアでフラットな存在でいることを心がけました」と話す。
とりわけ前半は、傷ついたさくらを労わり下町デートに連れ出す、春斗の優しさやピュアさが際立つ。そんなシーンで下町情緒を堪能したかと思いきや、「数々のデートシーンを1日でバーッと回って撮ったので(笑)」と、時間的な余裕がなかったと苦笑い。とはいえ、「何も考えずに二人が楽しく向き合える貴重な場面でもあるので、春斗としてはここで楽しんでおこうと、和気あいあいと撮影しました」と振り返る。なお、本シーンでの会話は全て篠原とアドリブで作っていったという。
岩田がいわゆる官能的なシーンの撮影に挑むのは初のこと。「いわゆるセンシティブシーンは、アクションシーン、殺陣を撮るような感覚でした。右手はここ、次は左手をここに動かして、といったふうに作業っぽい側面がある。事細かな絵コンテがあって、現場では緻密に組み立てられたパズルを組んでいくような感じでした。さらに映すべきもの、そうではないものを精査しながら、細かくカットを割って撮っていく。ゲームのようで面白かったですが、すごく美しいシーンになっていると思います」と緻密な作業を振り返りながら、自信をのぞかせる。
そういう撮影では、Netflixが導入したインティマシー・コーディネーターも助けになったようだ。インティマシー・コーディネーターとは、主にラブシーンや肌の露出のあるシーンの撮影にて演じる側と演出する側の意図を事前にヒアリングし、両者が現場で最大限のパフォーマンスを発揮するための環境づくりをサポートする存在。「撮影前に順序だて、“これはダメ、これはいい”ということを具体的に教えていただきました。僕はそもそもセンシティブシーン自体が初めての経験でしたが、演者同士、お互いに話が通じ合っている信頼関係の中でお芝居が出来る良さに、“なるほど”と。撮影における安全面や役者のメンタルも含め、ケアしていただいたのはとても助けになりました」
6人の悩める妻に対し、一癖も二癖もある夫たちが次々登場する。中には、許せないようなキャラクターも。岩田も「最低と言えば、やっぱり安藤政信さんが演じる、さくらの夫・卓弥じゃないですかね」とDV&モラハラ夫の名を挙げる。だが同時に「ただ、孤独って人を変えてしまうんだろうな、と感じる役でもある」とも。「人って、誰かに何かしてもらうことより、自分がしてあげることを、より大きく捉えがち。その辺りの匙加減を間違えると勘違いしちゃうのかな、とかいろいろ考えさせられました」と誰にも起こりうる負の側面について考えを巡らせる。また安藤の演技について「安藤さんが振り切って、すごく楽しんで演じてらして。とてもハマってましたよね(笑)!」と圧倒された様子だ。
夫側の視点も描かれ、幅広い層から共感、反発などさまざまな意見が飛び出しそうな本作。岩田自身も、「僕もこれまでの人生において選択しなければならないタイミングがありました。きっと春斗も、そういうタイミングでの出来事なんだろうと思います」と春斗に重なる部分もあるという。そして「新しいことにトライするためには、現在の環境や今の悩みを捨て、勇気を振り絞って一歩を踏み出すことも必要ですよね。この作品には“外注妻”や“弁当妻”などいろいろな妻が登場しますが、一人ひとりにバックグラウンドがあり、葛藤を持っている。彼らがその葛藤を乗り越えていくさまには、男女問わず共感していただけると思います」と作品の魅力に触れる。
岩田が挑んだ初の官能作ということでも話題を呼んでいるが、当の本人は「だから成長したということではないですが……」と軽くいなしながら、「楽しく淡々と撮影をしましたが、それを皆さんが“体当たりのお芝居、頑張ったね!”と受け止めてくださるのなら、僕にとってはラッキーです(笑)」とさわやかな笑顔を向ける。その言葉からも現在の岩田の自信、充実がうかがえた。
ちなみに恋愛系の作品の嗜好について問うと、「『愛の不時着』も好きですよ」と大ヒットドラマのタイトルを挙げ、「あの奉仕の精神というか……。自分よりも、相手を思う気持ちが行動に現れる瞬間、“キュン”を通り越して感動しました」と話していた。(取材・文:折田千鶴子)
Netflixシリーズ「金魚妻」は2月14日より全世界同時配信