横浜流星「自分なんてまだまだ」ブレイク経て抱いた葛藤
まだ全然足りていない。もっともっと追い込まないとーー。横浜流星(25)が最新映画『流浪の月』(5月13日公開)の撮影を通して痛感したこととして発した言葉だ。2022年は映画『嘘喰い』、連続ドラマ「DCU」、Netflixドラマ「新聞記者」、そして『流浪の月』と出演作が続き、どの作品もまったく違った役柄で演技の幅を広げているが、自己評価は厳しい。そのストイックさの源になっている思いとはーー横浜が胸の内を語った。
甘える演技に苦戦
2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうの小説を、映画『悪人』や『怒り』などを手掛けた李相日監督が映画化した『流浪の月』。横浜自身、オファーを受ける前から小説を読み作品に惹かれていたといい、「この原作が映像化されること自体に原作ファンとしては興味がありましたし、それを李監督が撮ると聞いて、作品に携わる、携わらない関係なく楽しみでした」と語る。
横浜は、過去に少女誘拐事件の被害者として好奇の目にさらされてしまった広瀬すず扮する更紗の現在の恋人・亮を演じている。亮は更紗を無意識に“可哀そうな女の子”として見ているふしがあり、守らなければという思いが強いゆえに、更紗を束縛してしまい、思い通りにならないと暴力に訴えてしまうような男性だ。
横浜は亮について「これまで自分が演じたことがないようなかなり挑戦的な役」と語ると「最初は更紗の目線で小説を読んでいたので、亮ってすごく嫌な奴だなと思っていたのですが、亮の目線で読むと、独りよがりのところはあるものの、嫌な奴というよりは、うまく思いを伝えられない可哀そうな人間と見方が変わりました。まっすぐで純粋な部分には共感できる部分もありました」と亮の味方になろうと愛を持って演じたという。
それでも撮影現場では苦戦することが多かった。李監督といえば、ワンシーンワンシーンに時間をかけ、徹底的にこだわることでも有名だ。実際、更紗へのDVシーンで、複雑な亮の気持ちを繊細に表現するための演出には多くの時間を要し、横浜自身も徹底的に亮の思いに向き合った。李監督からも「気持ちを出すのではなく、内から溢れ出てくるように」と言われたという。
さらに日常の更紗とのシーンも非常に難しかったという横浜。「亮は結構、更紗に甘える部分があるんです。僕自身はなんとなく人に甘えるとか、弱みを見せてはいけないという思いがあり、抵抗があったんです」と語ると、李監督からは更紗と亮に距離を感じると言われ、二人だけの時間を作り、広瀬が横浜にカレーを作ったり、ロケ地の長野県松本市では、一緒にゲームセンターに行ったり、いちご狩りに行くなどして関係性を深めていったという。
ブレイク後「危機感も強くありました」
ワンシーンのために、多くの時間を費やして臨む撮影。横浜は「いまは撮影時間が短くなって、監督やキャストの方々としっかりコミュニケーションを取ることも難しいなか、撮影の準備期間を含めて、じっくりと作品に向き合えることは、本当に幸せな時間でした」としみじみ語ると「李監督は明確な答えを出して、それに向かって僕らが進んでいくやり方ではなく、ヒントは出してくれるものの、答えは自分で見つけなさいというスタンスなので、苦しい部分はありますが、悩みながら答えを導き出すことで、これまで自分が知らなかった感情を引き出してもらえたような気がしました」と充実感をにじませる。
一方で、「李監督の現場に行くたびに経験不足や、実力不足を毎回痛感しました」と悔しさも味わったという。横浜といえば、映画やドラマで着実に実績を重ね、制作陣の評価も高い、若手実力派俳優として、しっかりと映像界で足場を築いているように感じられるため、自己評価の低さは意外だ。
「僕は『初めて恋をした日に読む話』というドラマでたくさんの方に知ってもらえたことは、すごくありがたいことでしたが、そこで知っていただいた方のイメージに応えなければというプレッシャーも大きかったんです。もっともっと俳優業を突き詰めていかなければいけないという危機感も強くありました。自分がやりたいのはお芝居。人の心を動かすような作品で、しっかりと表現できるようにならなければいけないと思っています」。
『流浪の月』を経験して顔つきが変わった
俳優陣が現場で極限まで役に向き合うなか、李監督も撮影中、頭を抱えて考え込んでいる姿をよく見かけたという横浜。「本当にワンシーンごとに魂を込めている李監督の姿を見ると、『自分なんてまだまだだな』と思ったし、もっと自分を追い込んで、監督の期待に応えるようにならなければ」と強い思いが湧いてきたという。
徹底的にこだわり抜いた李組を経験した横浜。「正直まだ自分のなかで、なにが変わったかは分からない」と言うが「この間まで放送されていたドラマ『DCU』は、『流浪の月』の撮影を挟んでいたのですが、キャストの方々が、『流浪の月』の撮影の前と後では顔つきが変わったと言ってくださったので、なにか体に沁み込んだものはあったのかもしれません」と期待を口にしていた。(取材・文:磯部正和)