玉木宏、父になって「心に余裕ができた」40代を迎えた変化と進化
「街で小学生に『龍(たつ)だ』と声を掛けられるんです」──そう嬉しそうに語る俳優・玉木宏。龍とは、映画『極主夫道 ザ・シネマ』で玉木が演じる主人公のこと。“不死身の龍”と呼ばれた元極道で現在は専業主夫の男。鋭い目つきにサングラス、額から左目にかけては大きな傷と見た目は怖いが、真っすぐな性格はなんとも言えずチャーミング。子どもから支持されるのもうなずける。玉木にとって40代になって出会った野心的なキャラクターを通して、どんなことを感じているのだろうか?
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自分のためだけに頑張るというのは波がある
玉木が主演を務めたテレビドラマ「極主夫道」の劇場版となる『極主夫道 ザ・シネマ』。玉木が演じる龍は、極道の世界では“不死身の龍”と恐れられていた筋金入りのヤクザだが、美久(川口春奈)と結婚したことを機にその世界から足を洗い、専業主夫として不器用ながらも家族に愛を注ぐ男へと変貌した。
玉木自身、連続ドラマから劇場版と龍を演じて「誰かを守るという尊さのようなものは感じていました。家族であったり、子どもであったり。映画ではハムスターも出てきますが、無条件に守るべき存在というのはあると思うんです」と気づきが多かったことを明かす。「もちろん暴力はダメですし、しっかりと大切なものを、優しさを持って守るという龍の気持ちが理解できるんです」
「優しさ」というキーワードは、コミカルな展開が続くなかでも「極主夫道」を貫いている感情だ。どんなに風貌が怖くても、口が悪くても、人に対する優しさが心を動かす。
「一つの道を極める人というのは、とても心が強い。その強さというのは厳しさと向き合うこと、人に対して優しくなれると思うんです。僕自身が龍のように優しくなっているかどうかはわかりませんが、昔よりは少しずつ心が広くなっているような気がします」と語る玉木。その理由について、子どもを授かったことも大きなきっかけだったという。
仕事への向き合い方にも変化を感じている。「もちろん自分のために頑張るというのは大前提としてあるのですが、僕は自分のためだけに頑張るというのは限界というか、波があったと思うんです。でも、家族や子どものために、という思いには波がない。とくに最近は、家族のために、子どものために仕事に精が出るというのを感じています」と胸の内を明かす。
子どもたちからの声に「すごく力をもらった」
龍を演じて、さまざまな感情に出会えたという玉木。40歳を迎えたタイミングでの役柄でもあるが、近年の玉木が演じてきたキャラクターとは趣が異なる。「振り返ってみると『ウォーターボーイズ』などはコメディーに近い役柄だったし、若いころはそういう役も多かったのですが、年齢的なものか、最近はコメディーから少し離れた役が続いていて。その意味では、シリアスな役だけではなく、こうして振り切った役を演じられることはありがたかったです」と感謝を述べる。
新たな方向性にも踏み出した40代だが、「明確なビジョンみたいなものは特になにもないんです」とあっけらかんと話す。ただ、年を重ねることに「難しさ」はどんどん増してきたということで「20代より30代、そして40代とやりがいのある役柄をいただく機会が増えています。さらにそんな思いが強くなっていく10年間なのかなと感じています」。
多くの先輩たちの背中も見て、俳優という仕事に「そんなに簡単なものではない」と気を引き締めているという一方で、正解のない世界だからこそ「常になにかが足りない」と自身に疑問を投げかける。そんな「満足しない」という思いが、玉木の俳優業へのモチベーションになっている。
こだわりのカーアクションの撮影秘話
『極主夫道 ザ・シネマ』では、コメディーとともに危険なカーアクションにも果敢に挑んでいる。ハイスピードの車に飛ばされそうになりながら、手だけでしがみついている映像は、非常にスリリングだが、スタントマンなしで玉木が演じている。
「制作サイドからは『どうします?』と言われました。もちろんCGという選択肢もあると思うのですが、やっぱり生身の人間がやった方が臨場感はあるだろうし、映し出される映像の空気感も違うと思ったんです。できるのならば自分でやりたいと話しました」
実際、カーアクションのシーンは3日間を費やした。安全性への細心の注意を払って挑んだ撮影。それでもテストの段階でクリアできていても、本番になれば車のスピードも上がり、玉木への負担も大きくなる。「遠心力がかなりかかるので、地面と反対方向に頭を持っていかなければ、惨事になりかねない。やることがいっぱいあったので大変でしたが、しっかりと緊張感がある映像になっていると思います」と自信を覗かせる。
「映画になったからといって、特別意識したことはありませんでした」と語った玉木。この言葉通り、ドラマファンの劇的欲求に応えるようなぶっ飛んだ雰囲気を継承しつつ、しっかり映画らしいスケールも楽しめる。「スクリーン映えする作品になっています」と作品への期待を口にしていた。(取材・文:磯部正和)