東出昌大主演で西日本豪雨災害をテーマに描く『とべない風船』公開決定 共演に三浦透子
東出昌大を主演に迎え、平成30年の西日本豪雨による土砂災害をテーマにした映画『とべない風船』の公開が決定し、特報が公開された。瀬戸内海の漁村を舞台に、東出演じる豪雨で家族を失った主人公と、人生に迷い島にやって来た元教師の女性の交流が描かれる。元教師の女性に『ドライブ・マイ・カー』の三浦透子がふんするほか、共演に小林薫、浅田美代子ら。監督・脚本を、本作が長編1作目となる新鋭・宮川博至(みやがわ・ひろゆき)が務める。今冬、広島で先行公開されたのち、2023年正月第2弾として新宿ピカデリーほか全国で順次公開される。
本作は、数年前に起こった豪雨で家族を失い、瀬戸内海の島で漁師をしながら孤独に生きる主人公・憲二(東出)と、過去のトラウマから周囲と関係がうまくいかず島に逃げてきた元教師の女・凜子(三浦)の永遠に晴れそうにない心の行方を追う物語。小林薫は、凛子の父で元教師で引退後は地元の島に戻り静かに暮らす男性を、浅田美代子は、島民行きつけの居酒屋の明るい女将を演じる。
多島美の絶景から始まる特報には、主人公・憲二が「大事なやつなんよ」「これは合図なんよ」と物干しに黄色い風船をつなぐ理由を明かす場面や、豪雨のなかで泣き叫ぶ憲二と佇む凜子も見られる。
撮影は、広島県呉市蒲刈や江田島市など瀬戸内海の絶景「多島美(たとうび)」で有名な場所など、広島でオールロケを敢行。「多島美」とは瀬戸内海など内海に浮かぶ小さな島々が連なる様子を形容した言葉で、山頂から望む雄大な景観は瀬戸内海随一と称えられる。
監督・脚本を務める宮川博至は、広島県出身で、学生時代から映像制作に携わりCMディレクターとして活躍。岡山天音主演の中編映画『テロルンとルンルン』(2018)が広島国際映画祭を皮切りに国内外の映画祭に出品され、劇場公開された。長編1作目となる本作では、広島も襲われた平成30年の西日本豪雨による土砂災害から4年が経った現在、風化への警鐘を鳴らすことも一つの目標としており、宮川監督は「西日本豪雨は広島で生活している私にとって、初めて身近で起こった最悪の災害でした。ここ広島で生活しているからこそ、豪雨災害をテーマに映画を作らなければならない。そう思い、私は脚本を書き始めました」と語っている。
宮川監督、東出、三浦、小林、浅田のコメント全文は下記の通り。(編集部・石井百合子)
宮川博至監督
西日本豪雨は広島で生活している私にとって、初めて身近で起こった最悪の災害でした。ここ広島で生活しているからこそ、豪雨災害をテーマに映画を作らなければならない。そう思い、私は脚本を書き始めました。人は、簡単に「災害が起こった場所などに住まず、引っ越すべき」「もっと他にいい場所はたくさんある」と言います。それも正しい。しかし、事実としてその場所から離れられない人もいます。その人たちの事情を聞けば、口にできない言葉が増えていきます。前向きになんてならなくていい、ただ映画を見ているその時間だけでも前を向く気持ちが少しでも芽生えればと思い、この映画を作りました。
東出昌大
都会のスクランブル交差点でふと周囲の人々の顔を眺め、想う。「この人達にも大切な人がいて、親との死別を経験したり、心が千々に砕けるような人生の瞬間があるのか」。そう想像した時、心が濁流に飲み込まれるような感慨を覚えた事があります。瀬戸内海の過疎化が進む漁村に住み、魚の掛からない網を引き揚げながら、遠くに吊るされた萎んだ風船を眺める男を演じました。彼が何故風船を見つめるのか。私とは他人である彼の人生に想いを巡らせた時、生きていく事の複雑さと残酷さと、人と生きる素晴らしさを知りました。青い瀬戸内の海のような作品です。是非、映画館で多島美と、人の生きていく有りの儘をご堪能下さい。
三浦透子
撮影中ずっと、この作品に関わる皆さまの広島という場所への愛を感じ続けていました。その愛ゆえのやさしさを受けて生まれた一瞬が、映像の中にたくさん詰まっていると思います。寂しさを共有する少しの勇気が、自分の明日を変えてくれる。そんな温かい人と人の交わりを丁寧に切り取った作品です。心に届く、愛される作品になってほしいです。
小林薫
昨年秋の今と変わらずのコロナ禍での撮影でした。呉のお店も自粛中であったりして、淋しいけどコンビニでお酒をまかなって部屋飲みとせざるを得ませんでした。だからちょっと、呉の街の印象は薄くなっているンですが、島から見る海の景色は忘れませんね。蒲刈島や江田島での撮影が中心で、漁協の海も、丘の上のオリーブの木越しにみえる海もみな穏やかで、ついつい撮影をしていることを忘れてしまいがちになるほどでした。心に負った傷が、ゆったりと流れる時間の中で。少ーしずつ癒されていく映画をご覧になりながら、そんな風景に身を預けてみて下さい。
浅田美代子
コロナのさなか、瀬戸内海の綺麗な空気と景色に癒されました。広島の若いスタッフや監督との撮影は楽しく、沢山のエネルギーをもらいました。『とべない風船』というタイトルがあまりに悲しくてツラい感じかなと思ったのですが、飛べない風船、飛べな
くても飛ばなくちゃいけないんだという勇気がもらえた様な気がします。家族、どんなにツラい過去、悲しい出来事があったとしても残された者は生きていかなくてはいけない……生きていたらきっと良いことがあるに違いないと信じたいです。居る事が当たり前だと思っている家族ですが、もう一度家族の大切さを感じてほしいです。