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【ネタバレレビュー】『ONE PIECE FILM RED』最終章へのプロローグとも言えるエンタメ快作

画像は『ONE PIECE FILM RED』より
画像は『ONE PIECE FILM RED』より - (C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 『ONE PIECE FILM RED』が大ヒットを記録している。公開10日間で興行収入70億円を突破。『ONE PIECE FILM Z』(68.7億円)を抜いて劇場版『ONE PIECE』シリーズ最大のヒット作となっており、100億円の大台も視野に入ってきている。映画館のスクリーンの巨大さを存分に活かし、圧倒的な勢いと迫力で押しまくるエンターテイメントに特化した劇場版の中でも、『RED』の存在感は際立っている。改めて、本作の魅力を紐解いてみたい。(以下、映画のネタバレを含みます)(文:大山くまお)

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■『ONE PIECE FILM RED』のシンプルな楽しさ

(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 ストーリーは本作で初登場するキャラクター、ウタを中心に進む。世界で最も愛されている歌姫のウタは、音楽の島エレジアで大規模なライブを開く。彼女が公の場に姿を現すのはこれが初めてのこと。ルフィ率いる麦わらの一味を含む大勢の人たちが、彼女の歌を楽しみにしていたが、ウタを見たルフィがあることに気付く。彼女は“四皇”赤髪のシャンクスの娘であり、ルフィとも幼なじみだったのだ。

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 物語の冒頭からウタによるパフォーマンスが連打される。ウタのボイスキャストを担当するのは名塚佳織、歌唱キャストは「うっせぇわ」のメガヒットで知られるアーティストのAdoが担当。ウタの爆発的な歌唱力とウタのダンス、そしてめくるめく華やかな映像を堪能するなら、間違いなく巨大スクリーンでの鑑賞を選ぶべきだろう。ライブのオープニング曲「新時代」を提供しているのは中田ヤスタカ、ウタの振り付けはMIKIKOが担当している。

 本作には『ONE PIECE』劇場版に脈々と受け継がれてきた圧倒的なエンタメ感と華やかさがある。音楽という要素を中心に置いたことで、むしろこれまでの作品よりショーアップされている。音楽とアニメの結びつきといえば、近年では細田守監督『竜とそばかすの姫』や湯浅政明監督『犬王』などがあるが、7曲もの書き下ろし曲が用意された『RED』は、『ONE PIECE』からしばらく離れていたようなファンでも、取り残されることなく楽しむことができる。それが『RED』のシンプルな楽しさだろう。

■ルフィとウタ、シャンクスとの関係

(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 ウタには「歌で世界を幸せにしたい」という信念があった。海賊たちによる争いのない「新時代」を歌の力で築こうとしていたウタは、「ウタウタの実」の能力者だったのだ。ルフィや大勢の観客たちは、ウタによって仮想空間“ウタワールド”に閉じ込められてしまう。ウタを危険視する世界政府や海軍が続々と集結する中、ついにシャンクスと赤髪海賊団がエレジアにやってくる。

 タイトルの『RED』とは、むろん赤髪のシャンクスから採られている。ルフィが海賊王を目指すきっかけになったシャンクスは、連載25周年を迎えた原作漫画でもほとんど登場してこなかったキャラクターだ。谷口悟朗監督らが音楽と歌を中心にした物語と「シャンクスの娘」を出したいという提案が行われ、原作者で総合プロデューサーの尾田栄一郎が「それならシャンクス本人も出そうよ」と逆提案したことから登場が実現したという(集英社ムック「ONE PIECE magazine」Vol.15より)。

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 ウタはなぜ海賊を憎み、世界を変えようと暴走するのか。ウタの心の奥底には“父親”シャンクスへの怒りと悲しみがあった。ウタとルフィ、そしてシャンクスとの関係は、家族の愛憎にも似ている。

 ルフィにとって、シャンクスは大好きな憧れの存在だ。ルフィのシャンクスへの信頼は、離れ離れでもまったく揺らぐことがない。“娘”として育てられたウタにとってもまた、シャンクスは大好きで仕方のない存在だった。しかし、ある事件を契機にエレジアに取り残され、孤独を抱えて育ったウタは、自分を置いていったシャンクスと海賊に対して、絶望に近い怒りの感情を抱くようになっていた。それが彼女の暴走の元になっている。

 シャンクスを信頼しきっているルフィ。シャンクスを信頼できなかったウタ。二人の表裏のような感情が物語の底を流れている。

■ハイエナジーなアクションと最終章への壮大なプロローグ

(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 映画の前半を牽引するのがウタのパフォーマンスだとしたら、後半に爆発するのが歌の魔王・トットムジカをめぐるハイエナジーなアクションだ。これまで一度たりとも再会することがなかったルフィとシャンクスが、トットムジカを倒すために時空を超えて“共闘”する。

 ウタワールドにいるルフィと現実世界にいるシャンクスは出会うことはないが、違う世界であっても同じ敵に対して、同じ場所・同じタイミングで攻撃を加えていく展開は、離れていても深い絆で結ばれている二人の関係を表している。前半から中盤まで、ルフィと麦わらの一味の活躍はほとんど描かれないが、それを補って余りあるクライマックスのアクションだった。ウソップとヤソップの親子がクローズアップされているのも『ONE PIECE』ファンには嬉しいポイントだろう。

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 原作の『ONE PIECE』は最終章を迎えた。「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」の謎もさることながら、物語のクライマックスにはルフィとシャンクスの再会があるはずだ。はからずも『RED』は『ONE PIECE』最終章への壮大なプロローグとして観ることができる。

 尾田栄一郎は次のように語っている。

 「これから原作が最終章に入るタイミングで、いよいよこの先シャンクスが原作にも出てきます。そこへ向けての前情報として、今までほとんど明かしてこなかった赤髪海賊団の仲間たちのことを、少し知ってもらいたいという思惑もあって。もちろん映画を見てない人にもわかるように原作は描きますが、より思い入れを持って最終章を読んでもらえるんじゃないかなと思います」(「ONE PIECE magazine」Vol.15より)

 久々に『ONE PIECE』に触れたライトなファンでも楽しめる圧倒的なエンタメ作であり、ルフィとシャンクスの関係という『ONE PIECE』の最も大切な部分を描き、『ONE PIECE』と共に歩んできたファンが心待ちにしている最終章のプロローグとして観ることもできる。それが『ONE PIECE FILM RED』という作品なのだ。

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