PFFグランプリは26歳の河野宏紀監督『J005311』 「どん底の自分たちを救いたかった」
若手映画監督の登竜門として知られる「PFFアワード2022」の表彰式が22日に都内で行われ、26歳の河野宏紀監督による『J005311』が満場一致でグランプリに輝いた。
今年で44回目を迎える映画祭「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」のメインプログラムであるコンペティション「PFFアワード」。今年は応募総数520作品の中から16作品が入選。その中から、最終審査員の菊地健雄(映画監督)、玉川奈々福(浪曲師・曲師)、とよた真帆(俳優)、光石研(俳優)、三島有紀子(映画監督)により各賞が決定した。
『J005311』は、人生を諦めた青年・山本のひったくり現場を目撃した、同じく生きることに絶望したサラリーマン・神崎が、高額報酬で山本にある場所への運転を依頼したことからはじまる、重苦しくも奇妙な旅路を描いた物語。タイトルは、すでに死んで光を失うも奇跡の確率で衝突して再び光り出した、現実にある星の名前だという。
プレゼンターを務めた三島監督は、「この作品にグランプリを獲ってもらうために審査員に呼んでいただいたと思いました。どの監督にも、この作品を生まないと次に進めないという作品があると思いますが、この作品こそが(河野監督の)魂の映画だと思います。覚悟のある、優しさで打ち負かす映画だと心から思いました」としみじみと語った。
河野監督は、主演の野村一瑛と8年前に出会った頃から「映画を作ろう」と話すも実現に至らなかったことを明かしつつ、「自分や野村の役者でも人生でもどん底の二人に光を当てたかった。自分たちを救いたかったという思いが一番ありました。そういうものを評価してくださったみなさんには本当に感謝しています。うれしいです。ありがとうございます」と感慨深げ。野村は「河野は映画でもそうでしたが、人生でも一番救ってくれた人でもあるし、そういう人の強さがこの映画に表現されていたと思います。おめでとうございます」と感謝と祝福の言葉を伝えた。
総評を求められた玉川は「今どきって、あまり“せりふ劇”ってないんですね」と驚き。三島監督は「表現の自由が失われていく中で、映画って自由だと思わせていただき、幸せな時間でした」と喜ぶと、3月に亡くなった青山真治監督の言葉を紹介。「生きていれば、何かいいことも嫌なこともある。でも、放っといても俺たちはまた作る」。三島監督は「この“俺たち”は映画に関わるすべての人たちのことだと思っています。わたしも頑張って作りたいと思いますので、みなさんもぜひ作り続けてもらいたいと思います」とクリエイターたちにエールを送った。
光石は「僕は審査員なんてやれる立場ではございません。映画を撮る専門でも、語る専門でもなく、ただ映画に映り込む専門としてやってきました。でも一つ言えるのは、映画の現場はものすごく楽しいです」と明言すると、「どうぞみなさん、作り続けてください」と呼びかけ。さらに、「今から監督になるでしょう。プロデューサーになる方もいらっしゃると思います。おじさん俳優のご用命はぜひ、『光石研』とご指名ください。その際、『ぴあフィルムフェスティバル2022』と付け加えていただければ特別価格で引き受けさせていただきます」と猛アピールして会場の笑いをさらった。(錦怜那)
PFFアワード2022受賞結果一覧
グランプリ:『J005311』(河野宏紀監督)
準グランプリ:『スケアリーフレンド』(峰尾宝監督、高橋直広監督)
審査員特別賞:『the Memory Lane』(宇治田峻監督)、『MAHOROBA』(鈴木竜也監督)、『幽霊がいる家』(南香好監督)
エンタテインメント賞(ホリプロ賞): 『水槽』(中里有希監督)
映画ファン賞(ぴあニスト賞):『瀉血』(金子優太監督)
観客賞:『スケアリーフレンド』(峰尾宝監督、高橋直広監督)
※高橋直広監督の「高」は「はしごだか」が正式表記