田中裕子にはすべて見透かされる?安藤政信「北野武さんの感覚に似ている」
田中裕子が8日、テアトル新宿で行われた主演映画『千夜、一夜』公開記念舞台あいさつに来場した。共演の安藤政信が、田中のことを「自分の中身から見透かされているような、動けなくなるような。本当にすごい人」と絶賛する一幕があった。この日は、尾野真千子、久保田直監督も登壇した。
日本では毎年数万人規模で警察に届け出がされる行方不明者を題材にした本作。北の離島の港町を舞台に、30年前に姿を消した夫が帰ってくることを信じる登美子(田中)と、同じように失踪した夫(安藤政信)を捜す女性(尾野)との出会いが描かれる。
コロナ禍で撮影の延期を余儀なくされるなど、映画公開までの数々の困難を乗り越えて映画公開を迎えた本作。満席の会場内を見渡した田中も「今日は映画館に足を運んでくださりうれしいです。諦めずにこの日を迎えられたこと。支えてくださったスタッフ、キャストの皆さんに感謝したいと思っております」と感無量の様子を見せた。
久保田監督にとっては、田中も出演した2014年公開の映画『家路』以来8年ぶりとなる作品。俳優としてだけでなく、人間としても深い感銘を受けた久保田監督は「もう一度映画を撮る機会があるならば、ぜひとも裕子さんに出演してもらいたい」という思いでオファーしたという。
一方の田中は「(脚本の)青木研次さんとは2004年の『いつか読書する日』で初めてご一緒して。それから何本かありまして今に至ります」と切り出すと、「セリフはそんなに多くないと思いますけど、セリフとセリフの間にいろんなことが感じられるというか。その風みたいなものを本当は皆さんに一番お伝えしなきゃなと思うんですけど、それが難しくて。今までもなかなかできなかったと思うし、今回もできなかったかな」と謙そんした様子で語るも、共演者たちの信頼は絶大。
「台本を読んだときは、田中裕子さんが主役をやることは決まっていたんです」と続けた尾野も「以前、ご一緒させていただいたことがあって。その時はやり残したことがたくさんあるなと思っていたんですが、今回は面と向かってやり合うシーンがあるんですよ。これで自分のモヤモヤが取れるな、面と向かってお芝居ができるなと。(出演を決めた)一番のきっかけはそれです」と明かす。
さらに安藤も「自分は田中さんとのシーンがメインだったんですけど、田中さんを目の前にするとなにか自分が魔法にかかったような感じで。自分の中身から見透かされているような、動けなくなるような。本当にすごい人」と振り返ると、横にいた尾野もその意見に同意するように深くうなずいてみせる。
そして「ちょうど自分のデビュー作(『Kids Return キッズ・リターン』)がこの劇場で。(監督の北野)武さんの感覚に本当に似ているというか。自分が発することが全部見透かされていて。強烈な体験でした」と回顧する。
本作は新潟の佐渡島で撮影された。そこで印象的だったことについて質問された田中は「車で撮影が終わって帰ってきたら、道の野っ原で虫を捕っているのか、なにかをしている女の子がいて。よく見たら(尾野)真千子ちゃんでした」と明かし、笑いに包まれた会場内。しかしそれは虫を捕っていたのではなく、花を摘んでいたそうで、田中が「花を摘んでいた乙女でした」と付け加えると、尾野も指を頬にあてて”乙女のポーズ”をしておどけてみせるなど、会場は和やかな雰囲気に包まれた。
そんな尾野だが、本作の役柄にちなみ「自分の弱さを感じることはある?」と質問されると「とても弱いですね……」と返答するも、会場の空気を察したのか「ご存じない?」と付け加え、会場は大笑い。それに補足するように「それまで頑張ってきたからかな。自分でも強いと思い込んできたんですけど、ふとした時にわたしは弱いんだなと最近気付きました。そういう年頃になったんでしょうね」としみじみ付け加えた。
そんな和気あいあいとした舞台あいさつもいよいよ終盤。田中は「(本作は企画から)8年という年月が過ぎたわけですが、それを千夜一夜で例えるならば、今日が一夜です。皆さまが観てくださった後、部屋に帰って。明かりをつけている時にふとこの映画のことを思ってくださることがあればいいなと思います。そんな一夜がありますようにと願います」とメッセージを送った。(取材・文:壬生智裕)
映画『千夜、一夜』は全国公開中