小栗旬、北条義時は「二重人格のような感じ」 1年5か月の苦悩と葛藤
いよいよ大詰めを迎える大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK総合ほか)。8作目となる大河ドラマで主人公・北条義時を演じた俳優の小栗旬が、1年5か月に渡る撮影を振り返り、義時として生きた苦悩や葛藤を語った。
とにかく精神的にきつかった和田合戦
伊豆の一豪族だった北条家に生まれ、野心とは無縁の穏やかな日常を送っていた義時。しかしひょんなことからのちに鎌倉幕府の初代将軍となる源頼朝(大泉洋)に仕えたことにより、徐々に波乱に満ちた人生へと足を踏み入れ、衣装の色が徐々に緑から黒へと変わるように、義時も別人のように変貌した。
その変化はSNS上でも「黒義時」「闇落ちした」「恐ろしい」と反響が巻き起こるほど、視聴者の心をざわつかせている。小栗自身はこうした反響について「非常に光栄なこと」と笑顔を見せるが、実際に義時を演じているときには、これまで経験したことのないような気持ちの連続だったという。特に第38回「時を継ぐ者」(10月2日放送)で、父・北条時政(坂東彌十郎)と対峙するシーンは、現場で予期せぬほど感情的になってしまったという。
「台本上でもオンエアされたような描かれ方をしているのですが、これまで彌十郎さんと作ってきた空間というか関係がしっかりと出ればいいなと思って現場に入ったんです。でも実際撮影が始まって、彌十郎さんの顔を見ると、自分が思っていた以上に感情が溢れてしまい『俺、こんなに時政のことが好きだったんだな』と改めて感じたシーンでした」
さらに小栗は、義時が時政を鎌倉から追放して以降、怒濤のごとく下していく厳しい沙汰について「本当にしんどかったです」と本音を漏らす。
なかでも「やっぱり和田義盛(横田栄司)を滅ぼすところ(第41回『義盛、お前に罪はない』10月30日放送)はかなりきつかった」とつぶやくと「その後、源実朝(柿澤勇人)との確執などもあるのですが、そのときはもう感情的には乗り越えてしまったというか、ことが上手く運ぶか運ばないか、それによって自分が生きるか死ぬか……みたいな、かなりドライな感覚になっていた気がします。その意味では、本当は死んで欲しくなんかない和田をああいう形で滅ぼしてしまったことは、最もきつかったです」と胸の内を明かす。
それでも「今後は、義時が予想もつかないかたちで哀しみに暮れる時間があるので、そこは違う意味で苦しかったです」とまだまだ一筋縄ではいかない展開が続くことを示唆していた。
執権・義時と小四郎、二重人格のような感じ
小栗自身も義時には「執権・義時」「小四郎」という二つの顔が内在していると話していたが、その絶妙なバランスは狙っているのではなく、大河ドラマという長期にわたる撮影だったからこそ自然と出てきたものだという。「やっぱり少年期も青年期も、現在も僕自身が義時を演じ体験しているので、頭で考えているのではなく、自然と和田にしても畠山にしても、話をしていると昔の自分が素で出てしまう。もう二重人格みたいな感じですよね」
まさに義時が小栗の体に乗り移ってしまっているような感覚なのか。小栗は「言葉にするとそういう感じになるのかなと思うのですが、なんかそういう表現って恥ずかしいですよね」と笑うと「でも今回に関しては似たような感じを経験できた気がします」と語っていた。
だからこそ、ラストシーンの撮影を終えクランクアップした際には「もっと続けていたいという寂しい気持ちはもちろんありましたが……」と言いつつも「本当に全部そこに落としてきた感じがあって、非常に清々しい思いでした」とスパっと切り替えることができたという。「役者としてすごくいい体験ができました」と総括した小栗の表情には、すべてをやり切ったという充実感がにじんでいた。(取材・文:磯部正和)