川崎チネチッタ、街を変えた独立系シネコンの100年の歩みとこれから
神奈川県川崎市のシネコン「チネチッタ」を運営する「チッタグループ」が今年で創業100年を迎えたことを記念し、歴史ギャラリー「CITTA’ DNA」(入場無料)を11月23日、複合商業施設「ラ チッタデッラ」マッジョーレ棟地下1階にオープンする。イタリアの老舗撮影所の名前を由来に持つ時代を先取りした映画館の誕生は川崎のイメージを変えたと言われており、ギャラリーは街と日本のエンタメ界の変遷をたどる貴重な機会となりそうだ。
同グループの歴史は、1922年に東京・日暮里で開業した映画館「第一金美館」に始まる。翌年に関東大震災の被害に遭うも、王子電気軌道(現・東京さくらトラム)の開業とともに町屋、尾久、王子、大塚へと映画館事業を拡大し、1937年には荒涼とした湿地帯だった国鉄川崎駅(現・JR川崎駅)前に拠点を移して「銀星座」をオープン。最盛期には間接的な経営も含めて東京と神奈川で27館を運営していたこともある。
太平洋戦争でほぼ全ての映画館を焼失するも、即座に復興計画を立てて、映画館の建設とともに川崎と蒲田の街の復興に尽力。日本の高度成長に合わせて大型キャバレー、ボウリングなどと事業を広げ、1987年に日本初の本格シネコン「チネチッタ」をオープン。続いて大型ライブホール「クラブチッタ」の開業や、ハロウィンイベントの開催と時代の先を行く興行を仕掛け、労働者の街を、若者が集うカルチャーの街へと変貌させた。
ギャラリーでは当時の貴重な資料や写真を飾るだけでなく、チッタグループの重要なトピックスをTシャツにして展示するというユニークな試みも。会場のBGMは、クラブチッタに出演したアーティストたちの曲が流れるという同グループらしい遊び心が潜んでいる。
また同じく100周年記念事業として新進気鋭のアーティスト17人による「WALL ART GALLERY」を実施。これはコロナ禍により活動が限定的になってしまった若手アーティストに活動の場を与えると同時に新人発掘も兼ねており、17人の中には一般公募で選ばれた4人も参加。「MEET」をテーマに創造の翼を広げたダイナミックなアートが街を活気づけている。
ちなみには、「ラ チッタデッラ」は林海象監督『THE CODE/暗号』(2008)、小栗旬監督『シュアリー・サムデイ』(2010)、木村拓哉主演『HERO』(2015)、木村拓哉&二宮和也主演『検察側の罪人』(2018)など、映画やドラマのロケ地としても知られている。11月25日~12月2日にはチネチッタ100周年記念として黒澤明監督『七人の侍』(1954)を同劇場が誇る超シネマサウンドシステム「LIVE ZOUND(ライブザウンド)」で特別上映する。大手とは一味違う独立系シネコンの歩みとこれからの100年に注目したい。(取材・文:中山治美)