『イチケイのカラス』劇場版でラブストーリーが描かれた理由とは？
竹野内豊が主演したフジテレビの月9ドラマを映画化する『映画 イチケイのカラス』（1月13日公開）でメガホンをとった田中亮監督。本作では黒木華ふんする坂間千鶴の揺れる思いも描かれているが、ラブストーリーの要素を盛り込んだ理由を語った。
「イチケイのカラス」は、浅見理都の同名コミックを原作に、東京地方裁判所第3支部第1刑事部（イチケイ）の裁判官・入間みちお（竹野内）と坂間千鶴（黒木）のコンビをはじめとする仲間たちの活躍を描く物語。劇場版では、みちおがイチケイを去ってから2年後、瀬戸内に異動となったみちおと、その隣町で弁護士として働く坂間が、新たな立場となって法廷で対峙することになる。
本作では、近海で起きたイージス艦と貨物船の不審点だらけの衝突事故と、傷害事件をめぐって浮かび上がる地元企業の秘密という二つの闇が交錯していく。そのなかで鍵を握る重要な存在が、斎藤工ふんする地方の心優しき人権派弁護士・月本信吾（つきもと・しんご）だ。「弁護士は、声なき人の代弁者になれる」を信条に、人々の悩みに寄り添う優しさを見せる一方で、真実と正義を追求するためには違法行為も辞さない強引さも持ち合わせる。
ある事件をきっかけに千鶴とバディとなる月本。頼れる兄貴的存在として、千鶴には惹かれる思いが生まれていく。ドラマでは見せなかった千鶴の新たな表情も引き出すことになる月本。田中監督は「僕はテレビドラマのラブストーリーを作って育ってきたので、やっと『イチケイのカラス』でもラブをやれるという嬉しさはありました（笑）。ただ、今回は楽しませるためのものというよりは、坂間らしい誠実な人間関係を表現するためのエピソードとして、ラブストーリーの要素を入れています」と劇中での役割を説明する。
「単純な男女の好き嫌いを描いたり、キュンとさせたりするためだけではなく、事件や法律を通して、人としてリスペクトしているからこそ思いを募らせていく、それでいて、坂間本人は自分の気持ちに気づいていない。あるときになって、彼女は自分の中にあるものに気が付いて感情を爆発させるわけですが、そういう誠実なラブストーリーを丁寧に作ることを意識していました」
人権派弁護士として人々に寄り添う姿を見せる一方、厳しい現実と戦うリアリストとしての一面も持ち合わせる月本。彼へのアンビバレントな感情が、坂間の思いとリンクしていく。そこで印象的に描かれるのが、地元企業の不正を突き止めるべく、月本と坂間が敷地内に忍び込んだ際の逃避行。万事休すというときになって、月本は近くにあった自転車の後ろに坂間を乗せて、二人で追っ手を逃れることに。
「『コンフィデンスマンJP』でも『ロマンス編』というのがありましたが、やはりラブの要素が入ると物語が豊かになります。恋愛が盛り上がる瞬間というのは、二人が共犯関係に陥るときなんです。ドキドキしたり、ハラハラしたり、そのときに感情がグッと動く。置いてある自転車を盗んで、二人乗りをする。しかも堅物の坂間なので、なおさらドラマチックです（笑）。一つ殻を破るというか、人間関係において壁を超える役割になって恋愛感情に発展する意味合いになっている。二人乗りというのは物理的にも近くなれるし、身体的な表現ができるのでラブのツールとしては非常にいい題材だな、と」
劇場版ならではのスケールで衝撃の真実が描かれる本作。坂間と月本の関係がどのように変化していくのか、その描かれ方も大きな見どころとなっている。（編集部・大内啓輔）