古沢良太「木村拓哉のラブストーリーが大好き」 日本屈指の政略結婚カップルを描く
ドラマ「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなど、ヒット作を連発している脚本家の古沢良太。そんな彼が、日本で最も有名な武将の一人と言っても過言ではない織田信長と、その妻である濃姫(帰蝶)との物語を書き下ろした映画『レジェンド&バタフライ』が間もなく公開を迎える。古沢にとって初となる時代劇の脚本だが「ジャンルへの大きなこだわりはないんです」と言い、信長を演じる木村拓哉のラブストーリーが大好きで「また見られるかも」という期待が大きなモチベーションになったと明かした。
織田信長という題材に葛藤
テンポの良い会話、先の読めないストーリーライン、強烈な個性を持つキャラクターで視聴者を引き付ける人気脚本家の古沢が挑んだ初の時代劇作品。木村演じる織田信長が、綾瀬はるかふんする濃姫との政略結婚を通して、これまで描かれてこなかったようなさまざまな表情を見せる。
「特に執筆するジャンルにこだわりがあるわけではないんです」という古沢だが、もともと自身が剣道少年だったそうで、吉川英治の「宮本武蔵」などの剣豪小説を好み、テレビでも時代劇を見るのが常だった。「僕自身もこういう仕事をしているなかで、いつか書くこともあるだろうな」という漠然とした思いがあったという。
そんななか「木村拓哉を迎えて織田信長を描く」企画が古沢のもとに届いた際、「もちろん木村さんには非常に魅力を感じていたのですが、信長を題材にした映画というものには正直創作意欲がそこまで掻き立てられなかったので、いったん返事を保留にさせていただいたんです」とオファー時の心境を明かす。
一方で、尾張の織田信長が、美濃の斎藤道三の娘である濃姫と政略結婚をしたという事実には興味を持っていた。古沢は「以前から戦国時代を舞台にしたラブコメをやりたいというアイデアはあったんです。そのなかで、政略結婚というのは非常に面白い題材だと思っていました」と語ると「信長と濃姫は、日本で一番有名な戦国時代カップルかもしれないじゃないですか」と笑う。
最終的に、誰もが知る有名武将を描くことへの古沢の懸念を払しょくしたのが、木村拓哉という存在だ。「僕は木村さんのラブストーリーが大好きなんです」と照れくさそうに笑うと「夫婦をテーマに、また木村さんのラブストーリーが観られるかもしれないという思いもありました」
木村とも企画について話し合ったという古沢。そのなかで「あまりスイートなラブコメになるのはどうか……という話はあったものの、基本的に前向きなお返事をいただいたので、頑張って書いてみようと話が進んでいったんです」と経緯を説明する。
信長の「裏の顔」を描く
織田信長という武将には、多くの人が持つパブリックイメージがある。古沢自身もそういったイメージは把握していたというが、書物などを読み自分なりに研究し、たどり着いた答えが「みなが抱いている信長像というものがあるけれど、信長に会った人はいない」ということ。いまある信長像も、古沢と同業の先輩たちが作り上げたキャラクターなんだという結論に至った。
「先人たちの末端にいる僕が、いま新たな信長像を提示しても許されるのかなという発想より、むしろリブートしていくことが、いまの作家のやるべきことなのかもしれないという気がしたんです。もちろん揺るぎない事実はありますが、結局歴史というのは後世の人たちの解釈だから。押さえなければいけないところは押さえつつ、史実と史実の合間を想像力で埋めるという思いで、割と自由に書かせてもらいました。信長のファンや研究者の方々からは怒られるかもしれませんが、著作権があるわけではないですからね」
こうした作業は「とても面白かった」とも。「みなが思い描いている信長が表の顔だとすると、この映画の信長は裏の顔、人間的な一人の夫としての信長というコンセプト」だと言い、信長を描く助けになったのが濃姫の存在だった。「信長って本当に突出したキャラクターじゃないですか。それが魅力だけれども、そもそも人間って『こういう人だ』なんて一言で言える人っていませんよね。濃姫との関係のなかで、そういう偏った人物像に幅を持たせることができるか……という部分が肝でした。その意味で、濃姫はほとんど資料がない人物なので、かなり自由に動かせた。それによって信長像も多面的に描くことができたと思います」
家康と信長の描かれ方の違い
古沢と言えば、先ごろ放送がスタートした大河ドラマ「どうする家康」の脚本も担当している。くしくも同時期に織田信長と徳川家康という武将の生涯を描く作品が続いた。
「企画自体は『レジェンド&バタフライ』が全然先で、こちらの感覚としては、映画が断然先に公開される認識だったんです。時期が重なったのは偶然なのですが、お互いが盛り上がって戦国ブームみたいになってくれたらいいのかなと、とても楽しみにしています」
大河ドラマも、これまで見たことのない家康像という触れ込みだが「僕自身、これまでのイメージを壊してやろう! みたいな思いはまったくないんです」と気負いはない。その意図について「そういう思いが目的になってしまうと本末転倒になる。あくまで今回の信長も大河の家康も、自分のなかに描きたい人物像があって、書かせてもらっているイメージです」と語る。
これまでの信長と家康の描かれ方について古沢は「両方を勉強してみて感じたのは、信長というのは実は非常に描く上でバランスがいい人なんだなということ」と特徴を挙げる。「どんどん研究は進んでいると思うのですが、基本的には『信長公記』(※信長の一代記)とルイス・フロイス(※ポルトガルの宣教師)が残した『日本史』ぐらいで。そこまで信憑性の高い資料は少ないんですよね。一方で家康は資料が非常に多いのですが、神格化されているものの信憑性が微妙だなと。同じ時代に生きた人物ですが、この10数年というのは、全然違うなと感じました」
古沢は「脚本は割とラブコメという部分に徹して書いたのですが、(メガホンをとった)大友(啓史)監督をはじめスタッフさんたちが非常にしっかりとした歴史ものに昇華させてくれました」と作品の出来についての感想を述べると「木村さんと綾瀬さんがほぼ全編にわたって登場する作品。お二人の魅力が存分に堪能できる作品になっています」と見どころを語った。(取材・文・撮影:磯部正和)
映画『レジェンド&バタフライ』は1月27日より全国公開