映画『マリオ』なぜ今実現?任天堂・宮本茂&イルミネーション社長、誕生から制作までの裏側
全世界累計興行収入8億9,521万4,557ドル(約1,163億円、1ドル130円計算)の特大ヒットを記録している『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(全国公開中)は、任天堂を代表するゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の世界観を映像化した初の3DCGアニメーション映画だ。1990年代には実写映画版も誕生していたが、なぜこのタイミングで企画が実現したのか? マリオの生みの親である宮本茂(任天堂株式会社 代表取締役フェロー)と、来日したクリス・メレダンドリ(イルミネーションCEO)が、企画誕生から制作過程の裏側を語った。(数字は Box Office Mojo調べ)
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本作の企画は、宮本とクリスが初めて出会った2014年頃から浮上していたという。「岩田(聡)元社長と『ゲーム機を持っている国や人だけでは、任天堂のキャラクターを知ってもらう場所に限りがある』と話していた頃で、ゲーム以外でもみなさんに知ってもらおうという動きを始めました。コンテンツを作る会社ですから、映像も自分たちで作ろうということになり、そのタイミングでクリスさんと出会いました」
映画のために新たなキャラクター設定を決めてしまうと、「次のゲームを作る時の制限になりかねない」と危惧していた宮本。「これまで避けていたのですが、その時から、逆に積極的に映像化していくことを考えるようになりました」
任天堂と初めてタッグを組んだイルミネーション。「任天堂には、以前から尊敬の念を抱いていた」と話すクリスは、「観客が映画を観て劇場を出るとき、キャラクターたちとどういった関係を築いているのか」ということに注目して制作を進めていった。
「任天堂作品の良さは、遊んでいない人が他人のゲーム画面を眺めていても、面白さがわかるところだと思っています」と宮本は語る。アイテム設定などを映画に落とし込む際には、イルミネーションで「何をどうやって盛り込み、どのように見せるべきか」をまとめ、任天堂に確認を取りながら、洗練された状態で組み込んでいったという。
「アイテムに関しては、クリスさんから『もっとアイテムにフィーチャーしたい』とみなさんに指示していただき、そこから見せ方の方向性が固まっていきました。作品を観ていただいたらわかると思いますが、設定説明がほとんどありません。短いセリフで、設定がわかるように作っています」(宮本)
失敗を恐れず、常に新しいことに“挑戦”する姿勢は、任天堂もイルミネーションも共通だった。時には、「えっ?」という驚きの提案もあったそうだ。
「(映画に盛り込む)ゲームタイトルでは大胆な提案もあり、驚きながら上手くまとめていきました。逆に任天堂のほうが保守的で、『このジャンルとこのジャンルは混ぜない方がいい』という意見もありましたが、任天堂のタレント集団のなかの“マリオ劇団”という体であれば、全部アリになるんです(笑)」(宮本)
かくして誕生した最高の『マリオ』映画。任天堂との共同制作を経て「素晴らしい発見ばかりでした」と笑顔を浮かべたクリスは、「宮本さんはレジェンドなのに、そういった要素を一切出さないんです」と告白すると、宮本は「クリスさんも僕も似ているんです。会議中もクールなことを言ったり、自虐発言もしますが、必ず“笑い”をとるようにしています。みんなの緊張をほぐして、楽しみながら作るということが大事です。全員が楽しくないと、積みあがっていきません。両チーム共にうまく機能して、みんなすごく楽しそうでした」と振り返っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)