「どうする家康」大鼠が“築山事件”で土下座した理由 松本まりか、思い出のシーン語る
8日放送の大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜夜8時~NHK総合ほか)第38回でクランクアップを迎えた大鼠役・松本まりかが、同作で特に印象に残っているシーンを振り返った。
松本にとって大河ドラマへの出演は2000年放送の「葵 徳川三代」(徳川家康の孫・千姫の少女時代)以来2度目、23年ぶり。演じた大鼠はオリジナルキャラクターで、亡くなった父を継いで忍者集団を束ねる“クールビューティ”。体が柔らかく、どんな場所にも忍び込み、町娘から遊女、武士まで変幻自在に化ける変装の達人でもある。第6回「続・瀬名奪還作戦」で初登場して以来、詰めが甘く度々しくじる服部半蔵(山田孝之)をフォローしてきた。
オリジナルキャラクターである大鼠について、松本は「戦国時代当時の一般庶民の代表のような人」と解釈し、彼女の人生に想像を巡らせる。
「きっと大鼠は、普段は農業で自給自足の暮らしをしながら、密かに忍びとしての技術を磨いている人。身よりもなく、きっと家もなくて、今日食べるものがあるかどうか、生きるか死ぬかの生活をしている。この作品の中では、戦国時代当時の一般庶民の代表のような人でもあり、とても貧しい暮らしだったと思います。最初はまず大鼠がどういう生い立ちだったのかというのを教えていただいたり、自分でも考えながら。特に始めの頃は、どんな環境で生きていたのかを想像する作業をしていました。一般庶民の大鼠が、殿(家康)や家臣団の中にぽんと入るわけなので、どう居たらいいかなとか。時々突発的に出てくる役でしたし、その間描かれていないところを、殿に対してどういう緊張感でいたらいいのかとか、どう思っているのかとか。他の家臣団メンバーとは立場が違うので、一つひとつの佇まいや反応に試行錯誤しました」
「本能寺の変」ののち、明智光秀(酒向芳)に命を狙われる家康(松本潤)の逃避行が展開した7月30日放送の第29回以来、10月8日放送の第38回「唐入り」で約2か月ぶりに姿を見せた大鼠。第29回では家康が己の命と引き換えに半蔵、大鼠ら伊賀者たちを守ろうとする場面があり、クールな大鼠が家康に信頼をにじませる一幕もあった。大鼠は第29回からどのように過ごしていたのか?
「第29回(伊賀越え)で『これが俺の最後の仕事と心得る』と言ってはいたものの、きっとその後も、手を負傷してでも、忍び仕事を続けるための鍛錬は怠っていなかったんじゃないか。いつどんな依頼が来ても良いように、父から教わったスキルを磨き続けていたんじゃないかと思います。きっと、“いつかまた半蔵が頼ってくれるかもしれない”というような期待や甘えは、大鼠の中にはなかったでしょう。日々農作業をし、鍛錬をし、変わらぬ暮らしを淡々と続けていたのかなと想像しました」と松本は想像を巡らせる。
特に印象に残っているシーンは、第25回「はるかに遠い夢」で、自害した瀬名(有村架純)を介錯するシーン。初めて台本を読んだ際、大鼠が介錯すると知り驚くと当時に、その意味を見いだすまで悩んだという。
「反響も想像以上に大きく、とても心に残っています。瀬名の最期を描く大事なシーン。大鼠は瀬名とほぼ会ったことすらなかったので、初めて台本を読んで大鼠が介錯すると知った時は驚きました。半蔵が信康を、大鼠が瀬名を介錯しましたが、私たち忍びがなぜやるのか。その意味を見つけることが重要だと感じました。この二人に大事な役目を預けた古沢さんの意図が絶対にあるはずで、それをキャッチできないと演じられないですし、あの素晴らしい台本を自分が壊すようなことはしたくないなと思いながら、悩みました。殿と瀬名が積み上げてきた歴史もみていないのに、あの場にいていいのか、どういう心情でいたらいいのか。でもかといって、感情的になるのも違うし……と。でも自分なりに意図を読み取れた時、脚本の素晴らしさを改めて感じたんです。殿と瀬名をずっとそばで見てきた家臣団は、とてもじゃないけど瀬名の介錯なんて出来ない。逆に適度な距離感をもった半蔵と大鼠だからこそ、最期を見届けられるんじゃないかと」
そうして臨んだ撮影は、「いつも以上に熱い空気が流れていた」と言い、大鼠が介錯をしたのち土下座をする演技は台本にはないものだったことを明かす。
「あの日の撮影は、25回まで積み上げてきた殿と瀬名と家臣団とスタッフさんたちの思いをすごく強く感じて、いつも以上に熱い空気が流れていました。瀬名が振り返って『介錯を頼む』と言った時に初めて目が合ったのですが、その目を見た時、もう一度彼女の顔を見て確かめたくなりました。それで、再度顔を覗く動きが生まれて……。瀬名の表情、目から、本気なんだと確信することが出来て介錯する覚悟ができたというか……。あの瀬名の目がなければ私はしゃがんでもう一度目を見に行くこともなかったですし、介錯できる気持ちにはならなかった。そこまでの瀬名や殿や家臣団のお芝居があったからこそ、たまらなくなって土下座に至ったんだと思います。土下座も台本にはありませんでしたが、介錯した後、そのままその場に居続けることはどうしても出来なくて、思わずひれ伏しました。皆さんの芝居に動かされていったシーンでした」
家康の正室・瀬名と息子・信康(細田佳央太)が死に至る“築山事件”を描く第25回は前半の山場の一つで、放送後、ネット上には戦のない世をつくるべく、命懸けで“途方もない夢”を成し遂げようとした瀬名、そして身を裂く思いで瀬名の死を見届ける家臣たちに涙の感想が相次いだ。(編集部・石井百合子)