伊東敏恵アナ、「光る君へ」で大河初の語りに「運命的なものを感じた」
現在放送中の吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で語りを務めるNHKの伊東敏恵アナウンサー。長いキャリアを誇る伊東アナだが、大河ドラマで語りを務めるのは初となる。「源氏物語」の作者・紫式部の生涯を描く本作で、伊東アナはどんなことを意識して作品をナビゲートしているのだろうか。「運命を感じた」という作品への思いを語った。
大河ドラマ第63作となる「光る君へ」は、平安時代中期に、1,000年を超えるベストセラーとなった「源氏物語」を生み出した紫式部にスポットを当てた物語。主人公の紫式部(まひろ)を吉高由里子が演じる。伊東アナは1996年にNHKに入局後、数々の番組を経験してきたベテラン。現在もドキュメンタリー番組「映像の世紀バタフライエフェクト」の語りを担当しているが、大河ドラマの語りを務めるのは初めてだという。
伊東アナは「これまで自分が関わったことがない番組でしたので嬉しいと思う反面、平安時代、紫式部という固定化されたイメージを持たれる時代だったので、どういう風に表現していったらいいのか……という不安みたいなものがありました」と正直な胸の内を明かすと「だからこそ語りとして、絶対足を引っ張ってはいけない」というプレッシャーがあったとも。
一方で、伊東アナは短歌や、言葉を綴ることが小さいころから好きだったということもあり「初めて携わった大河ドラマが、紫式部を題材にした作品だということに運命的なものを感じていたんです」と巡り合わせに感謝。不安に思っていた気持ちも、人気脚本家・大石静が描く平安時代の物語に「わたしが言うのも僭越ですが、想像をはるかに上回るドラマの面白さがあり、一気に吹き飛びました」と夢中になって脚本を読んでいるという。
数々の報道やドキュメンタリー番組のナレーションで“伝えること”に従事してきた伊東アナ。「報道などは淡々と事実に即して伝えることをベースにしていますが、物語というのはそれぞれの役柄に意味がある。例えば主人公もいれば、それを支える人もいる。その強弱みたいなものを出す必要があるのかなと思っています。ただあまりやりすぎると制作サイドから「もう少しひいて」と言われ、淡々とし過ぎると「もう少し煽って」と言われるので、さじ加減は難しいですね」
「世界観を壊さないように最小限の表現で、観ていただく方にワクワク感をしっかりと伝えたい」。まさに巧の技が求められる。そんななか、これまでの収録で伊東アナが印象に残っているのが第1回放送の最後の「まひろという少女の激動の運命が動き出した」という語り。
「この語りで物語のすべてが始まるような感じ。紫式部という名前は、世界中の方がご存じだと思うのですが、実は知られていない事実ばかり。そんな謎めいた女性の物語が始まるんだ……という期待が膨らむような形になったらという思いで臨みました」
もう一つ“平安大河”ならではの語りについて「アクセント辞典にも載っていないような馴染みのない言葉がたくさん出てくるので、時代考証の先生に確認しながらやっています」と一つ一つ言葉の意味をしっかりと咀嚼し、確認しながらの作業であることを明かすと「『帝が宣下(せんげ)する』というフレーズも、字幕があれば意味が分かりますが、耳で聞いていただけではなかなか理解するのは難しいですね」と苦笑い。
実際、「光る君へ」の放送がスタートしてからの周囲の反響はどうだったのだろうか。伊東アナは「わたしの周辺でいい評判ではないと、ちょっと厳しいですよね」と笑いつつ「いい意味ですごく裏切られた、楽しかったという声をいただいています。作品の世界観を壊さないように……ということを心掛けて収録していますが、いまのところ“(作品に)合っているね”と声をいただけてホッとしています。同時に長く続くのでしっかり務めなければと背筋が伸びる思いです」と語っていた。
気になる登場人物は、凰稀かなめ演じる歌人の赤染衛門だという伊東アナ。「源倫子の女房であり、姫たちの学問の指南役。わたしも彼女のようにちょっと厳しそうだけど、どこか慕われるような人物になりたいなと思って見ています」と語る。伊東アナ自身、現役のアナウンサーであると同時に、職場のマネジメント業務を行う管理職。「恋愛ドラマという側面も楽しみな大河ドラマですが、平安貴族たちが織りなす人間関係の中で、登場人物がどんな立ち居振る舞いをしていくのか……というのも楽しみなんです」と伊東アナならではの見方を提示した。(取材・文:磯部正和)