小島秀夫監督&盟友ファティ・アキン監督が対談『RHEINGOLD ラインゴールド』は現代人の閉塞感を打ち破る!
カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭全てで主要賞受賞という偉業を成し遂げたドイツの名匠ファティ・アキン監督が、新たな創作の扉を開いた。最新作『RHEINGOLD ラインゴールド』は3月29日に公開。ドイツのラッパー“カター”の壮絶な半生に基づくサクセスストーリーを痛快に描いた本作を絶賛するのは、アキン監督の盟友にして、「メタルギア」「DEATH STRANDING」などで世界的に知られるゲームクリエイター・小島秀夫監督だ。
【動画】ファティ・アキン監督&小島秀夫監督『RHEINGOLD ラインゴールド』対談!
今回、東京の KOJIMA PRODUCTIONS とドイツをつなぎ、オンライン対談を実施。二大クリエイターの止まらぬ熱い対話は、映画の創作秘話や、二人のコラボが実現した「DEATH STRANDING2」にまで及んだ。
デスストでもコラボする盟友同士
『ソウル・キッチン』ではコメディー、『女は二度決断する』では社会派サスペンス、『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』ではホラーなど、様々なジャンルを渡り歩きながら、エンターテインメントを提供し続けるアキン監督。ドイツを代表する若き名匠と小島監督は、アキン監督が『女は二度決断する』で来日した際に初対面し、無類の映画好きとして意気投合した。
小島監督は「初対面なのに、ファティには幼なじみのような感覚を覚えました。違う国で生まれ育ったのに、お互いに昔から知っていたかのよう。クリエイター同士では、よくあることなんです。それ以来、僕がドイツに行く時は必ず会う仲になりました」と振り返る。
ゲームと映画、違うジャンルで活躍する二人。しかしアキン監督は「小島監督が生み出すビジョンには、常にインスパイアされています。彼は常に、今まで見たことがないものを見せてくれるんです。いったいどうやっているのかと不思議なんです。まるで夢の中で見たものを全てメモしているんじゃないかと思うくらい。嫉妬しますよ」と賛辞を贈る。
「僕は常に目に付くところに『村上(春樹)だったらどうするか』という言葉を貼っていて、自分に問いかけています。村上は作品を出す度に新しいことに挑んでいると思っているから。小島監督は、村上春樹が文学でやっていることをゲームの世界でやっている。だから、この言葉は『秀夫だったらどうするか』に置き換えてもいいんです」とアキン監督の賞賛は止まらず、小島監督も「ちょっと褒めすぎですよ」と苦笑い。
そんなアキン監督は、小島監督の新作ゲーム「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」に“人形男”として登場する。
「(1作目の)『DEATH STRANDING』発売前にいち早くゲームをプレイする機会をもらえたんです。息子のテイラーがゲーム好きなので、僕らは一緒にプレイして楽しんだ。息子との楽しい時間を提供してくれたことや、『DEATH STRANDING 2』で“人形男”として登場させてくれたことに、心から感謝しています」(アキン監督)
ファティ・アキンの集大成
アキン監督の最新作『RHEINGOLDラインゴールド』は、金塊強盗により世界的指名手配犯となり、収監された刑務所の中でアルバムをレコーディングしてデビューし、本物の“ギャングスタ・ラッパー”となった青年の物語。イランで音楽一家に生まれた主人公のジワ・ハジャビは、民族弾圧から亡命を余儀なくされ、両親の離婚により幼くして極貧生活へと転落。なりゆきのまま悪事に手を染め、やがて“カター”(クルド語で“危険な奴”)となり、破滅への道を歩み始める。
小島監督は「『RHEINGOLDラインゴールド』は、ファティの集大成だと思います。ノワールものであり、『ゴッドファーザー』であり、青春ドラマであり、ユーモアあふれるコメディー映画でもある。今までのファティ作品の要素が全て入っていて、大ファンの僕にとっては、豪華なプレゼントのような映画でした」と、いち“ファティファン”として本作を絶賛。
アキン監督も「まさにそこがこの映画を制作した理由でもあります」と同意し「僕はこれまで、同じことを繰り返さずに、さまざまなタイプの作品を撮ってきました。僕も小島監督と同じように、あらゆるジャンルの映画が好きだから、自然とそうなっていったんです。でも『RHEINGOLDラインゴールド』は、これまでと違って、一本の映画のなかでジャンルが変わっていく作品を撮る機会だったんです」と明かす。
アキン監督が本作の撮影に取り掛かったのは、コロナ禍で世界中の映画館が危機に立たされた時期だった。だからこそ本作には、劇場を訪れる観客に最大限の楽しみを提供しようという思いが込められた。
「この作品を撮っていた時はちょうどコロナ禍でした。その頃はみんな、映画館が終わってしまうんじゃないか、ストリーミング配信の黄金期になってしまうんじゃないか……と話していた。しかし僕は、そうした未来を一切信じていなかった。だからこそ、この作品はチケット1枚で4本分の映画を楽しめるような、中身がぎゅっと詰まった(劇場で観るのに)ベストな一本になりました。観客の皆さんにも、次々と違うジャンルの映画に引き込まれていくような体験を味わってもらえると思います」
そんなアキン監督の思いは、作品を通して小島監督にも伝わっていたようだ。「ラッパーの姿を借りながら、ファティが『俺はこんなことが好きなんだ』『これが映画なんだ』といった思いを伝えている気がして、同じくエンタメを作る人間として、素直に嬉しかったんです。コロナ禍で4年ほどファティと直接会うことができなくなり、どうしているか心配していたのですが、その間にこれほどの映画を撮った彼のことを、心から誇らしく思いました」
デ・ニーロを思わせるスターの誕生!
小島監督の作品について「同じ映画好きだからこそ、小島監督の作品に映画から受けてきた影響を感じることができるんです」というアキン監督は、「僕の作品も同じ。例えば、十代のカターが駅でチンピラを殴りつけるシーンは、パク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』(2003)の(長回しワンカットの)ファイトシーンに影響を受けている。『オールド・ボーイ』のシーンほど尺は長くないけどね」と告白。
「ほかの映画の影響をあえて匂わせないようにすることもあります。カターがケンカの仕方を学ぶシーンのシナリオを書いている時は、どうしても『ロッキー』(1976)のような映画が脳裏をよぎりましたが、観客の皆さんにこれまでにないものを観せるために、そういった影響は排除して、ドキュメンタリータッチで撮りました」と明かす。
小島監督が「カターが自分を襲った相手に仕返しをした後、ボロボロになった自分の拳から、相手の歯を抜く描写があったけど、あの発想は猛烈にすごい!」と伝えると、アキン監督は「それは、カターに戦い方を教えるトレーナー役の実体験に基づいたエピソードです。彼は本物のチンピラでファイター。彼に話を聞いていたら『いいか、実際に人をぶん殴る時はこうするんだ…… 』と言い出したので『ちょっと待った、その話は僕じゃなくてカメラの前でしてくれ』と伝えました(笑)」など、トークが止まらない。
さらに小島監督は、カターを演じた主演のエミリオ・ザクラヤについても「初めてビジュアルを見た時は、少し地味な印象を受けたんですが、彼が出てきた途端に心をわし掴みにされましたね。あの役柄に合っているし、身体能力もあって素晴らしい」と絶賛し「革ジャンとジャージが似合って、血まみれになった顔がまた最高なんです。ボコボコにされた時の顔が、かつてのロバート・デ・ニーロを思わせる。もう(国際的に)ブレイクしているのかもしれませんけど、ハリウッドでも通用すると思います」と太鼓判を押す。
エミリオは現在、古代ローマをテーマにした、ローランド・エメリッヒ監督のドラマシリーズ(「ゾーズ・アバウト・トゥ・ダイ(原題) / Those About to Die」)に参加している。
若者必見!ポジティブになれる傑作
「ファティの映画って、悲しい終わり方をすることが多いんですけど、今回はすごくポジティブになれる、ハッピーエンドが待ってます」という小島監督。
そのうえで、「今は何でもデジタルに記録される世の中になったので、どんな失敗をしても後々まで残り続ける。だから一回でも失敗すると、夢を諦めてその後の人生がフリーズしてしまうと考えている人も多くて、誰もがすごい閉塞感の中で暮らしていると思うんですけど、この映画を観れば、まだまだ自分もいけると思えるはずです」と本作の意外な見どころを指摘する。そして、「今は落ち込んでいる若者もけっこう多いと思いますが、この映画を観たらすごく元気が出ると思いますし、最終的にすごくポジティブなものをもらえる作品になっているので、ぜひ観てほしいですね」と続ける。
小島監督の言葉を受けて、アキン監督は「この映画は、表現の自由についての映画だと思っています」と断言。日本の観客に向けて「カターは刑務所のなかで制約を乗り越えてアルバムをレコーディングしました。四方を壁に囲まれていても、彼のマインドだけは自由で、刑務所の外にあったんです。彼にとっての成功とは、アルバムが売れることではなく、作ることにこそあったと思う。自由は自分の心にあるのだということを、日本の観客の皆さんとも分かち合えたらうれしいですね」と笑顔を見せた。(取材・文/編集部・入倉功一)
映画『RHEINGOLD ラインゴールド』はヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国順次公開中