「光る君へ」まひろが道綱の母と対面!石山寺セット美術の裏側
吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)。大河ドラマで平安中期、貴族の世界をメインに描くのは初とあって、雅びなセット美術が注目を浴びている。その中で、紫式部が「源氏物語」を起筆したと言われる石山寺のスタジオセットについて、美術の山内浩幹、羽鳥夏樹が裏側を明かした。
石山寺は、まひろが参籠に訪れた、近江国の霊験あらたかな大本山(※参籠=祈願のため、神社や寺院などに昼夜こもること)。紫式部が石山寺参籠中に「源氏物語」を起筆したという伝説もあり、ここで過ごした時間が後の彼女に何らかのインスピレーションを与えたであろうゆかりの地として知られる。美術チームは、鎌倉期以降に描かれた「石山寺縁起絵巻」と、実際に現地を取材し、朱塗りの本堂、宿坊、巨岩、月見亭、紅葉などそこから得られたエッセンスをもとに、番組オリジナルの石山寺をスタジオに表現した。
美術のチーフを務める山内はこれまで「軍師官兵衛」「麒麟がくる」など多くの大河ドラマを手掛け、羽鳥は「真田丸」「西郷どん」の美術を担当。大河ドラマ「青天を衝け」「鎌倉殿の13人」などに参加し、本作の建築考証を担当する広島大学名誉教授・三浦正幸の意見を得ながらセットの構築を進めていった。羽鳥いわく、スタートは「石山寺縁起絵巻」を読み解くことに始まり、「建築考証の三浦先生にもお伺いしたところ格式の高いお寺は丹塗りの建物が多かったそうで、それらは中国の建築様式からきている。そうしたご意見も参考にしています」と話す。
セットの構築において欠かせなかったのが現地取材だったが、山内は石山寺を訪れたときの興奮をこう振り返る。「実際に現地で石段を上って、岩の上にたくさんの建物が立っているのを目の当たりにしました。そのスケールをそのままスタジオで表現することは難しいのですが、そこから得られた巨岩の印象であるとか、高台にある月見亭などを参考にしました」
羽鳥も「今もそうなんですけど、絵巻で表現されている石山寺の境内は広大で、山、谷、川、自然に囲まれた風光明媚な場所です。きっと昔も貴族たちの間では小旅行に行くような感覚だったのかなと感じました。そういった見どころをセットにちりばめています。小旅行の風情は、懸帯(かけおび)などの扮装からも感じ取っていただけると思います」と現地取材でインスピレーションを受けることが多かったそう。
貴族たちが参籠していたのが本堂。羽鳥は「老若男女が一堂に会する場所という表現をしています。参籠しやすいように外陣(※神社・寺の建物の内部で、人々が拝むところ)も板張りになっていて、人々はそこに座って一晩中、思い思いに読経をしたり、お祈りしていたそうです。一晩中やっているものだから眠ってしまう人もいたであろうと、ドラマでもそういった描写があります。おのおのプライベート空間を作っていたようで、几帳、衝立といった装飾も取り入れています」と当時の貴族の風習を綿密にリサーチして取り入れたことを明かす。
なかでも注目すべきが、(現代の)石山寺にある月見亭をモチーフにした建築物。ここではまひろと、藤原兼家の妾で「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱の母(財前直見)との出会いが描かれる。まひろは幼少期からあこがれていた道綱の母との対面に感激し、道綱の母は「蜻蛉日記」をしたためた理由をまひろに打ち明ける。
羽鳥は「ここでまひろが月を見て物思いにふける様子や、道綱の母との出会いなどが描かれます。二人の出会いのシーンは、巨岩、紅葉、吊燈籠などを取り入れ風光明媚な場所にしたいと考えていました」と語り、山内によると「実際は本堂と月見亭はもう少し離れているのですが、ドラマでは本堂の雰囲気も感じられるようなレイアウトにしています」とドラマならではの創意工夫がなされたという。
なお、山内は余談として石山寺に赴いた際の忘れがたい思い出を語った。「石山寺では“源氏の間”と呼ばれる展示がなされているのですが、そこでは紫式部が『源氏物語』を執筆するシーンが再現されています。参拝しに来られていたご高齢の女性が石段を上がり紫式部の像を拝みながら“紫式部さん”と呼び掛けていて。“あなたのおかげで90歳まで元気でここに来られました。また来年も来られますように”といったことをおっしゃっているのがたまたま聞こえてきて、非常に感動したというか。この方にもぜひドラマを観ていただきたいと強く願った次第です」としみじみ振り返っていた。(編集部・石井百合子)