「光る君へ」渡辺大知、人生初の推しはSMAP 「推しは生きる力になる」
吉高由里子がまひろ(紫式部)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で平安時代の公卿・藤原行成を演じる、ミュージシャン、俳優の渡辺大知。行成は書の達人としても知られ、ドラマでは藤原道長(柄本佑)の政権下で蔵人頭に抜擢されると、細やかな気遣いで実務に能力を発揮し、欠かせない存在として支え続ける。渡辺は行成について「力を持つことよりも自分の仕える人物の思惑を叶えるべくサポートすることがモチベーションとなっている」というが、そんな“推しパワー”について自身の経験を交えながら持論を語った。
平安時代の貴族社会を舞台に、1,000年の時を超えるベストセラーとなる「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や社会現象を巻き起こした恋愛ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静によるオリジナル脚本で描く本作。行成は幼いころから藤原道長(柄本佑)、藤原公任(町田啓太)、藤原斉信(金田哲)と共に学問や趣味に切磋琢磨し、早々から出世欲に燃えていた公任や斉信と比べておっとりした性格。状況によって立場を変える二人と異なり、いついかなる時も道長の力になってきた。
そんな行成について、渡辺は「行成は自分が力を持つことよりも人の欲望をどう叶えるか、それこそ自分の仕える道長や一条天皇(塩野瑛久)の思惑みたいなものを、どうサポートできるだろう、どうしたら認めてもらえるだろうとかっていうことが大事なのかなというふうに思っています。役づくりについても、自分の意見を押し出すというよりも人を見たり、人の考えをキャッチしようとするみたいなところが見えるように意識しています」と分析する。
行成が劇中、最も多く時間を共にしているのが道長。6歳上の道長にかねてから心酔してきた行成だが、いったいどこに惹かれているのか。渡辺は、行成と道長の不思議な巡り合わせにも心を動かされたという。
「道長の底知れなさ、ではないでしょうか。人って相手のことが“見えない”とすごく気になると思うんですよね。道長に関しては、幼いころはお兄さんのような存在だったと思うんですけど、その中でも一番心の読めない人。道長の思惑は自分の手に収められないような、雲を掴むような感じというか。道長はすごく思いがあって、政治、人としての生き方にもすごく思いのある人だと思うけど、それをあまり表に出す人じゃないので、この人はどういうことを考えて、どういうものを目指しているのかっていうのが行成に見えないからこそ、すごく気になる存在になっていったんじゃないかなと思います。それはある種、恋心にも似た感覚なのかなと。これは史実にもあるんですけど、道長と行成って同日に亡くなるんですよね。クランクイン前にその事実を知った時には、不思議な運命の巡り合わせにドキッとしましたし、自分も意図してないようなところでこの人を支えたいとか知りたいとかっていう思いみたいなものが行成の生きる糧になっていたのかなっていうふうに妄想していました」
そして行成が心酔しているもう一人の人物が一条天皇。初めて対面し、古今和歌集の写しを献上した際には一条天皇の美しさに圧倒され、緊張のあまり言葉が出ないこともあった。道長が左大臣となり公卿のトップに立ってからは皮肉にも、行成が大好きな二人の板挟みにあい苦悩することになるが、渡辺は道長と一条天皇に対する行成の感情は別のものだと解釈を述べる。
「道長は単なる推しっていうよりも自分の人生に必要な存在というニュアンスで、どちらかというと一条天皇の方が推しに近い存在なのかなと。一条天皇はすごく聡明で、自分の意見もしっかり持った上で、気にし過ぎなぐらい周りを気にかける人だと思うんですけど、若さゆえ感情のままに突っ走りがちで、周りを振り回すことが多い。行成は一条天皇の近くにいるので、“本当は自分でも悪いことだと思っているけど、こういう行動をしてしまうんだな”といったふうに理解していると思うんですよね。なので、立場的には今の発言はナシだなと思っても、一個人としては愛せてしまうのではないか。そう考えると、人って時間じゃなくて距離なんだなとも思います。近くにいることでその人のことをだんだん分かっていくというか。行成は一条天皇のいわばマネージャー、執事みたいなポジションになっていって、一条天皇が行成にだけ弱音を吐くみたいなところもあるんですよね。行成はそんな一条天皇の苦悩を受け止めて単なるわがままにせず、自分だけは汲み取ってあげたいと思う。行成が一条天皇と道長の板挟みにあって悩むのは、多分ビジネスとして割り切れなかったからなのかなと。道長とも、一条天皇とも人間として向き合ってしまったからこそ、苦しんだのかなと僕は考えています」
そう語る渡辺に、かつて突き動かされるような推しの存在はいたのかと問うと、「僕もただのオタクっていうか、完全にそういうモチベーションだけで生きてきた気がしています」と即答。「“この人みたいになりたい”と思ったことはないのですが、“この人にいつか会いたいから頑張る”とか、そんなことだらけでした」と言い、憧れの存在としてSMAPを挙げた。
「音楽を始める前の話でいうと、小学校時代にはとにかくSMAPさんが好きで、最初にオタクになったのがSMAPさんでした。ファンクラブにも入っていたぐらいで。自分もこの人たちと関わる仕事をしたいと思ったのは大きかった気がします。残念ながら夢叶わずでしたけど“SMAP×SMAP”に出たいとか。自分の推しがいるっていうのはパワーとしては強いと思いますね。そういう意味では行成も完全にオタクだと思います。人に対してもそうだし、書に対してもそうだし。何かに没頭できるっていうのは、それが人であれ、趣味であれ、生きる力になっていくというか、自分もそういうものの力を信じてるところはありますね」と目を輝かせていた。(編集部・石井百合子)