『キングダム』王騎VSホウ煖戦は第1作に伏線あり 佐藤信介監督が撮影裏明かす
原泰久の人気漫画を山崎賢人(※「崎」は「たつさき」)主演で実写映画化したシリーズの第4弾『キングダム 大将軍の帰還』(公開中)で、日本映画では見たことのない超重量級のアクションに挑戦した佐藤信介監督が、その狙いや撮影を振り返った(※一部ネタバレあり)。
紀元前の中国春秋戦国時代が舞台の『キングダム』シリーズは、天下の大将軍になる夢を抱く戦災孤児の少年・信(山崎)が、秦国の若き国王・エイ政(後の始皇帝/吉沢亮※エイは、上に亡、中に口、下左から月、女、迅のつくり)の目指す中華統一のために他国との激戦に身を投じ、武将として成長していくアクション。シリーズ4作を締め括る最終章となる本作では、中華全土にその名を轟かす秦国随一の大将軍で、主人公・信にとって憧れの存在でもある王騎将軍(大沢たかお)と、前作『キングダム 運命の炎』(2023)のラストシーンで衝撃的に初登場した敵将ホウ煖(吉川晃司※ホウはまだれに龍)が、二人の因縁の地・馬陽で、一対一の激闘を繰り広げることになる。
最終章かつ集大成となる本作の大きな見せ場の一つが王騎VSホウ煖の一騎打ち。松橋真三プロデューサーは「今までの日本映画で見たことがないようなヘビー級のバトルを目指しました」「監督は(編集部注:1962年公開の日本映画)『キングコング対ゴジラ』のようなバトルにしたいと」と公式インタビューで述べていたが、佐藤監督の狙いとは?
「原作漫画は中国の史実を基にしてはいますが、ちょっとファンタジーも漂っている。ですから実写映画も史実とファンタジーが混じり合うバランスを取っていて、シリーズごとにテイストを変えながらいろんなアクションをやっていますが、この王騎VSホウ煖戦は、ぶつかってはいけない2つの物質がぶつかり合った時に空間が歪むような感じをイメージしていました。だからアクション監督の下村勇二さんにも、二人が矛を手にぶつかり合った時に本当に次元が歪んでいるように見せる、ちょっと周りの空気や風景が歪んでもいいんじゃないかといった話をしていたぐらいで(笑)」
そんな思いやイメージで撮った戦いが、実際にどう表現されたのかは映画を観てのお楽しみだが、その伏線は実は2019年公開の第1作にあるそう。
「王騎が圧倒的パワーを見せるのは、続編を作れた場合、恐らく4作目位になるだろうと。第1作を制作していた時には続編は全く決まっていませんでしたが、今後こういうシーンがある伏線というか、その片鱗を見せたいという話は、1作目の時点で話していました。とてつもないパワーで、重力も一瞬無視されるような、王騎の計り知れないエナジーの片鱗を見せつけておきたいんだと。それが、第1作のクライマックスの信とエイ政の王都奪還シーンで、最後に王宮に乗り込んできた王騎が大きく矛を振るい、詰め寄って来た衛兵を一掃してなぎ倒すアクション。撮るのはすごく大変だったけど、その王騎の一太刀、一振りに表現していたんです。それで今回も、あえて同じようなカットを撮っています。第1作を始まりとして、時を隔てて第4作に終着させる感じで」
ハイクオリティーのアクションシーンに定評のある本シリーズだが、王騎VSホウ煖のシーンは特に大変だったという。
「例えば王騎の矛なんて重すぎて片手では持てないのでどうするのかなど、第1作の一振りにはそれだけでもすごく時間がかかっています。今回はその経験も踏まえ、さらにすごいことができるようになっていますが、本格的に王騎の戦い、ホウ煖とのパワーゲームを撮るためにどうするのか。カット割りも多いし、ワイヤーワークやCGも含め、撮影も仕上げ作業も本当に手が込んでいる。大沢さんも吉川さんも練習や撮影で肉体的にも限界まで取り組んでくださったし、僕も下村さんをはじめとしたアクション部、そして撮影後の作業に関わったスタッフも含め、めちゃくちゃ時間をかけています」
『キングダム』らしさを表現するために、シリーズを通じて原作の画に近づけようという意識はあったのかを聞くと、それは「ない」ときっぱり。
「原先生の原作の画作りは大好きなのですが、原作をコピーしようと思うと、どういった表現がいいのか、それには何をすればいいのかといったことがわからなくなる(笑)。コピーして縮小再生産になるのは何としても避けたいし、誰も喜ばない。やっぱり映画なりの画の作り方や画の運び方がある。でも、それも監督や作品によってさまざま。自分が撮る『キングダム』として一番いい画の造形に従って撮っている感じです。その上で、(原作ファンに向けた)お楽しみとして、あえて原作と同じ画を取り入れることもありますが、根本的には映画としての画作りをずっとやっています。でも撮った後で、結果的に原作と同じような画になっていることもある。そういったところでは偶然とはいえ、思いが1つになったような何かを感じるものはありますね」
原作漫画の画に近づけることで、その作品らしさの表現に近づくわけではない。それはこれまで映画『GANTZ』シリーズ(2010・2011)や『アイアムアヒーロー』(2015)、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」シリーズ(2020~)など漫画原作の作品も数多く手掛けてきた佐藤監督の言葉だけに実感がこもっている。
「やっぱり漫画と映画では当たり前ですが、画の構成も思想も何もかも根本的に違う。生々しい人間が動くのと、紙面の中でどう画のインパクトを見せていくのかは、考え方が全く違う。でも、基本的な源流として流れている物語の思想や面白さの根幹において、原作は不動のバイブル。我々はそれをどう映画流に解釈するのかというだけの話。その映画の解釈がどれだけ映画的に濃いものなのかによって、出来上がった映画が、映画としての良さを纏えるかということになる。結局、どう面白い映画にするのかということだけにフォーカスしている感じですね」
~以下、ネタバレを含みます~
本作は最終章とはいえ原作はまだまだ連載中。さらなる続編にも期待したいが「もちろん観客の皆さんがもっと見たいと思ってくださればいいなと思う一方、次があるだろうなんてことは思わず、最後だと思って観ていただきたい」とも語る佐藤監督。その真意とは?
「僕は昔、映画を見終わった時『もうこの登場人物たちには会えないんだな』と切なくなるような感覚が大好きでした(笑)。今回も、見終わった時、もう信やみんなに会えないと思うと、本当に切ないエンディングになっていると思いますので、その切なさを噛みしめてもらいたいですね」
そのラストシーンは、実は原作にないオリジナルで「あのエンディングは、実写企画を立ち上げた松橋プロデューサーの思いに、原先生の思いも加えて書き上げられたもの。僕はその思いにものすごく感動したので、この映画シリーズの最終章として、こういうシーンでラストを締めくくるのがふさわしいという思いを込めて撮りました!」と力を込めた。(取材・文:天本伸一郎)