筧利夫、『室井慎次』12年ぶり再会に「そう来たか」新城のセリフは“ぼやきモード”に修正

　27年前の連続ドラマ「踊る大捜査線」からはじまり、その後の劇場版シリーズで社会現象を巻き起こした「踊るプロジェクト」の12年ぶりとなる新作映画『室井慎次　敗れざる者』（全国公開中）。同作で、主人公・室井慎次（柳葉敏郎）の盟友である新城賢太郎を再演した筧利夫が、12年ぶりとなる室井と新城の再会、テレビスペシャルから演じてきたキャラクターとの向き合い方について語った。（以下、『敗れざる者』のネタバレを一部含みます）

【撮り下ろし写真】12年経っても新城そのまま！『室井慎次』筧利夫

料亭での新城のセリフは「半分愚痴」

　新作映画の主な舞台は室井の故郷・秋田県で、官僚だった室井は警察を辞して、子供たちの里親となって暮らしている。筧が演じた新城賢太郎は官僚であり、室井のライバル的存在として登場し、やがて室井の味方になっていった。しかも新城は、室井が定年前に退職したあおりを受けて、秋田県警本部長として秋田に赴任しているという設定だ。筧は最初に台本でそれらを知ったとき、「そう来たか」と感嘆したという。

　「新城も登場初期のころよりはだいぶ丸くなっていますし、室井さんの片腕的存在になっているので、室井さんが本部長をやらないなら自分が引き受けるしかないと思ったんでしょう。でも、出世を狙っていた人なので、本筋を外れるのは複雑な心境だったと思います」と吐露。「『まだそんなに頑ななのかよ、室井さん』と思うところはあるのではないでしょうか」と新城の心境を解説し、「（『敗れざる者』の）料亭のシーンは半分愚痴を言っていますから（笑）」と苦笑する。

　実は台本を読んだときは、そういう解釈ではなかった。「相当シリアスな感じなんだろうと思っていました。台詞もけっこう長いので、重要なところに線を引いて、めちゃくちゃ練習していたんです。映像の台詞は小さな声でしゃべって不安定になりがちなので、一定のスピードで心地よくしゃべるには練習が必要です。第一発見者である室井さんを追い込むような意気込みもありました。でも、現場に行ったら本広（克行）監督が『これはコメディーなんで』と仰っていて（笑）。だからその場で、ぼやきモードに修正しました」と明かした。

　「『黙秘ですか』というところも、『黙秘か（室井の口真似で）』って。本当は、室井さんが困るとよくやっていた（舌で頬を左右交互に膨らませる）動きもやろうと思ったのですが、あのときは室井さんがやっていなかったからやらなかった（笑）」。筧はその動作を自身の芝居に取り入れ、ほかのドラマでも逡巡（しゅんじゅん）するときに使っていたという裏話も打ち明けた。

新城は「室井さんの片腕になるべく現れた」

　筧と柳葉が共演するのは、映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』（2012）以来、実に12年ぶり。今作のクランクインは『敗れざる者』に続く『室井慎次　生き続ける者』（11月15日公開）に登場する秋田の海岸のシーンだった。「スーツ姿ではなく、ジャンパーみたいな上着を着ていて、最初は『柳葉さんだ』って感じだったんですけど、リハーサルをしていくうちに、声のトーンも含めてどんどん室井さんになっていくんです。『すごい！　これだ！』みたいな感じはありました」と感動した筧だが、「その日に先ほど話した料亭のシーンも撮ったんです。久々の撮影なのに、初日にハードなシーン2つも（笑）」と笑顔でぶっちゃけた。

　12年ぶりの新城役だが、役に入るうえで苦労はなかった。「これまで演じた回数が1回や2回ではないので、新城の衣装を着て、室井さんを見れば大丈夫でした」と自信たっぷりの筧は、「衣装も、昔の新城と同じタイプのタイトなスーツと、ダブルのズボンを用意してくださっていました」と感謝しつつ、「ただ、現場で革靴を履いて合わせいたら、ズボンの丈が短くて『あれ？』って。リハーサルが終わって、スタッフに全身映るか聞いたら『おそらく映ります』っていうから『これはまずいぞ』と（笑）。すぐ控室に戻って、衣装さんに折ってあるところを伸ばしてアイロンをかけてもらって、なんとか乗り切りました。シングルのズボンだったらアウトでした。かなり慌てました」と振り返った。

　自身から見ての新城は、「室井さんの片腕になるべく現れたと思います」と語る。新城と室井の関係性について、筧は自身で設定を作っていた。「以前から言ってますが、僕の中では室井さんは新城と同じ学校で2個上の剣道部の主将なんです。室井さんはちょっと学力が足りなくて東北大に行ったけど、新城はその後に主将になって、こちらは東大に行けた。だから、敵対はしているけど、心の中で『先輩は昔はこんなじゃなかった』みたいなもどかしさを抱えているんです。勝手に考えた設定ですけど（笑）」と告白した。

　「踊る」シリーズを貫く青島（俊作／織田裕二）と室井の"約束"。筧は「それをずっと持ち続けているのが室井慎次という男です」と断言した。「沖田（仁美／真矢ミキ）さんが最後の花道を用意しても、それに甘んじずに自ら辞めて、里子を育て、その子たちと何かに向かっていく。そこにはやはり妥協はないです。ただ、警察官として、警察の中でやろうとしたことは、ちょっともう年齢的に間に合わないかなって思ったんだと思います。今回、室井さんは劇中で『あの男との約束を果たせなかった』と言っていて。確かに、警察官の役職としては負けているかもしれないけど、室井慎次という男としては負けてないわけですよ。今回の新作2本は、その辺を見せる映画なんだと思います」とアピールしていた。（取材・文：早川あゆみ）

『室井慎次　敗れざる者』全国公開中
『室井慎次　生き続ける者』11月15日（金）全国公開