本木雅弘「阿修羅のごとく」でMな魅力 是枝裕和監督がキャスティングの理由語る
1979年、1980年に放送された向田邦子の名作ホームドラマを是枝裕和監督がリメイクするNetflixシリーズ「阿修羅のごとく」(世界独占配信中・全7話)。本作では物語の軸となる四姉妹を取り巻く四人の男たちを演じるキャストも注目を浴びているが、その中で是枝監督が「(原作よりも)“小さい男”にアレンジした」と語るのが、本木雅弘演じる次女・巻子(尾野真千子)の夫・鷹男。そのキャスティングや本作で開花させた本木の魅力について、是枝監督が語った(※一部ネタバレあり)。
【画像】宮沢りえ×内野聖陽、尾野真千子×本木雅弘<場面写真9枚>
本作は、年老いた父・恒太郎(國村隼)に愛人と子どもがいたことが発覚したのをきっかけに、四姉妹の日常が揺らいでいくさまを追うストーリー。長女・三田村綱子を宮沢りえ、次女・里見巻子を尾野真千子、三女・竹沢滝子を蒼井優、四女・竹沢咲子を広瀬すずが演じる。そして、巻子の夫・鷹男に本木雅弘、滝子に恋心を抱く興信所の調査員・勝又に松田龍平、咲子と交際するボクサー・陣内に藤原季節、綱子と逢瀬を重ねる料亭の主人・貞治に内野聖陽がふんしているが、男性陣のキャスティングについては是枝監督自ら名を挙げたという。
~以下、ネタバレを含みます~
本木演じる鷹男は、妻、年頃の息子と娘と共に郊外の一軒家で暮らす会社員。面倒見がいい性格で妻の家族などに対して外面はいいものの、自分の家庭内で起きている問題については向き合おうとしない。その引き金となったのが、出張に出かけた鷹男が自宅に電話をかけたときのこと。付近で工事現場の騒音が響く中、「今からアパートに行く。一緒に飯を食おう」と言い、次の瞬間慌てて受話器を置く。浮気相手かもしれない誰かと間違えて電話をかけてきた鷹男に巻子はショックを受けるも、鷹男はその後、何事もなかったかのようにやり過ごす。アカデミー賞外国語映画賞に輝いた『おくりびと』(2008)では納棺師、昨年公開の『海の沈黙』では天才画家など癖のあるキャラクターで主演してきた本木からすると意外なキャスティングだが、是枝監督はこう語る。
「本木さんは基本的にずっと主役をやられることが多くて、受けの演技を求められることがそこまでなかっただろう中で、こういうポジションで、非常に楽しんでおられました。本木さんは普段お会いしていると、とても面白い方。その面白さをうまく生かせる役があればきっとハマると思っていたので、お願いしました」
NHK版では鷹男を、第一部では緒形拳、翌年放送の第二部では露口茂が演じていたが、本木版では現代の視聴者に届けるにあたってキャラクターがアレンジされている。
「緒形拳さんが演じた鷹男は、どちらかというとかなり家父長的でマッチョなキャラクター。そのまま再現したら完全に時代錯誤なので少し変えました。ある程度のキャリアを築いていて、いわゆる一昔前の強い男性像に憧れているんだけれども自分の中にはない。だけど、そう振る舞いたいというように理想と現実に乖離がある感じにしようと。すごく小さい男にしたわけです。小さく、小さくと書き直していったのを、本木さんがすごく面白がってくれた。特に尾野さんとのシーンを気に入っていただけました」
冒頭では妻の家族たちを前に「大体女房が何考えてるかくらいわかりますよ」と余裕を見せていた鷹男。一方、巻子は母・ふじ(松坂慶子)の「女は言ったら負け」という言葉を守るかの如く耐え続けるが、そうもいかなくなる。夫婦の不穏な掛け合いについて、是枝監督は「本木さんはMだから圧をかけられて固まったり、どぎまぎしたり、ごまかしたりする芝居がとっても上手(笑)。きっと受けの演技がお好きなんだと思います」とうれしそうに思い返す。
終盤で巻子が鷹男にかまをかけるシーンはオリジナル。その意図については「原作よりも少し巻子が開き直って、むしろ鷹男を手のひらで転がすようにしていこうかなと。家の中では“私の方が上だ”という感じにしようと思いました」と語る。
鷹男が巻子からふと恐ろしい一言を投げかけられ、青ざめるラストシーンも見もの。ささくれだった滝子の心に灯をともす勝又をとぼけた味わいで好演した松田、ボクサーとして刹那的な生きざまを見せる陣内をギラギラとした野性味をもって演じた藤原、離れようと思っても離れられない愛人を色香たっぷりに演じた内野。いずれも四姉妹と同様、それぞれ全く異なる個性を持ったキャラクターとして躍動している。(編集部・石井百合子)