大谷翔平&山本由伸の活躍にも迫るワールドシリーズドキュメンタリー「栄光への戦い」監督が語る日本人選手の存在感

先日、日本で行われたシカゴ・カブスとの開幕戦で、メジャーリーグ人気をさらに盛り上げたロサンゼルス・ドジャース。大谷翔平と山本由伸という二大スターを新たに獲得したドジャースは、宿敵ヤンキースをワールドシリーズで下し、最高の結果でシーズンを締め括ったのは周知のとおり。43年ぶりの西と東の名門チーム対決でベースボールファンを大いに沸かせたワールドシリーズが、全3話(約3時間)のドキュメンタリーシリーズ「栄光への戦い:2024 ワールド・シリーズ」となり、Apple TV+で配信がスタートした。ロン・ハワードの製作会社イマジンとエミー賞に輝くR・J・カトラー監督(「American High」)が手掛けた本作は、試合中には見えない裏のドラマに焦点を当てており、ベースボールファンにとって実に興味深い作品。本作が生まれた経緯や日本人選手の活躍について、監督のカトラーが語った。
「ワールドシリーズの映画は1940年代初頭から作られてきたんです。第2次世界大戦中、米国政府は海外の兵士たちがワールドシリーズを体験できるように、メジャーリーグ・ベースボール(MLB)にワールドシリーズの映画を制作するよう依頼しました。そして、その伝統は受け継がれ、MLBがそのハイライトをまとめ、ワールドシリーズのストーリーを作るようになったんです。それは何よりも優勝チームのファンのためのものでしたが、僕たちは、本物の映画を作る機会があると感じたんです」
結果的にはドジャースが4勝1敗でワールドシリーズ制覇しており、映画はドジャース圧勝の印象を与えるが、カトラー監督は、この作品を編集しながらそれとは違う印象を持ったという。「とても驚いたことの一つは、ほぼすべての試合が、バット一振りで(どちらかが)勝利できるもので、信じられないほど接戦のシリーズだったということでした。また、このシリーズは、(ヤンキースの主砲)アーロン・ジャッジが期待外れの働きで、重大なミスを犯したシリーズとして記憶されるでしょう。しかし、私たちが見たものはそうではありませんでした。ジャッジは第4戦で復活し、第5戦でもヤンキースが快進撃を続けていました」

第5戦でヤンキースは、4回まで5対0とリードし、エースのゲリット・コールがドジャース打線をノーヒットに押さえ、ヤンキースの勝利はほぼ確実に見えた。しかし、5回の表にヤンキースが3つの守備ミスを犯し、ドジャースが同点に追いつき試合の流れがあっという間に変わる。そして、その流れを誰よりも熟知していたのがドジャースの監督デイブ・ロバーツだったとカトラーは指摘する。
「ロバーツはかつてレッドソックスに在籍し、(2004年のプレーオフで)レッドソックスがヤンキースに逆転勝利した際に、レッドソックスにとって重要な二塁盗塁(多くのMLBファンにとって伝説となっている盗塁)を成功させシリーズの流れを変えたからです。これが私たちの物語なんです」
本シリーズのクライマックスとなる第5戦の後半、同点となった後のロバーツ監督の采配の素晴らしさは本作の見どころ。同時に、大谷と並んでMVPトリオと言われるムーキー・ベッツとフレディ・フリーマンの家族にカメラが密着し、スーパースターの家族のリアルな反応が見れるのも、また大きな見どころだ。特に、延長戦となった第1戦の10回裏に、ワールドシリーズで初めてサヨナラ満塁ホームランを打ったフリーマンと父親のドラマが語られる部分は感動的だ。またカトラー監督は、メジャーにおける日本人選手の活躍、影響にも言及した。
「これまで私たちは、多くの素晴らしい日本人選手がアメリカのチームに来て、影響を与えてきたのを見てきました。ですが、おそらく、翔平以上にその影響を与えた選手はいないと思います。なぜなら、彼は、ベーブ・ルース以降、誰も可能だとは思わなかったことを成し遂げているからです。ご存知のとおり、私たちは、ベーブ・ルースがピッチャーと打者をしていたという話を聞きながら育ちました。ですが、すべてが非常に専門化され、規制され、統計を重んじる今日のベースボールで、そのようなことができるとは誰も考えませんでした。そして、翔平はそれをやってのけたんです」

シリーズの中で、大谷と山本の生の声が聞けるのも、日本のファンにとっても嬉しい点だ。特に第2戦で、盗塁の際に怪我をした大谷とトレーナーの日本語でのやりとりを聞くことができるのは、貴重な瞬間となっている。ドジャースは今年、新たに平成の怪物と呼ばれる佐々木朗希を獲得した。日本人スター選手が3人となったドジャースが今年もまたワールドシリーズ進出となれば、大谷、山本、佐々木が先発するという夢のような光景を見ることができるかもしれない。日本でのメジャー人気、ドジャースフィーバーはまだまだ続きそうだ。(取材・文:細谷佳史 / Yoshifumi Hosoya)
Apple TV+「栄光への戦い:2024 ワールド・シリーズ」3月28日(金)より全世界同時配信開始