第74回カンヌ国際映画祭(2021年)コンペティション部門24作品紹介(2/2)
第74回カンヌ国際映画祭
『ザ・ストーリー・オブ・マイ・ワイフ(英題) / The Story of My Wife』
製作国:ハンガリー、フランス、イタリア、ドイツ
監督:イルディコー・エニェディ
キャスト:レア・セドゥ、ルイ・ガレル
【ストーリー】
商船の船長であるジェイコブは友人と賭けをし、カフェに最初に入ってきた女性にプロポーズすることに。約束通りに実行した結果、彼は若くて美しくミステリアスな女性リジーと結婚し、パリのアパートで新生活をスタートする。
【ここに注目】
ハンガリーの作家ミラン・フストの小説を原作に描くヒューマンドラマ。『アデル、ブルーは熱い色』(2013)などのレア・セドゥ、『パリ、恋人たちの影』(2015)などのルイ・ガレル、『イタリア的、恋愛マニュアル』(2005)などのジャスミン・トリンカ、『ブルー・マインド』(2017)などのルナ・ヴェドラーらが豪華共演。『私の20世紀』(1989)が、第42回本映画祭で新人監督賞にあたるカメラ・ドールを受賞したイルディコー・エニェディ監督が、今回は最高賞のパルムドールを狙う。
『ベネデット(原題) / Benedetta』
製作国:フランス、オランダ
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
キャスト:シャーロット・ランプリング、ランベール・ウィルソン
【ストーリー】
疫病が蔓延する15世紀末のイタリア・トスカーナのペシアで、ベネデッタ・カルリーニは修道院に入所する。幼いころから奇跡を起こす存在として知られていた彼女が入所することにより、修道院内にも大きな影響を及ぼすことになる。
【ここに注目】
J.C.ブラウンの小説「ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア」を原作に、『エル ELLE』(2016)などのポール・ヴァーホーヴェン監督がメガホンを取って放つ衝撃作。神に選ばれし存在として修道院に入所した主人公が、やがて修道女同士で淫らな関係に陥っていく。『おとなの恋の測り方』(2016)などのヴィルジニー・エフィラ、『さざなみ』(2015)などのシャーロット・ランプリングらが共演。世界三大映画祭ではいまだ無冠のベテラン監督に勝利の女神は微笑むのか!
『ベルガーマン・アイランド(原題) / Bergman Island』
製作国:フランス、ベルギー、ドイツ、スウェーデン
監督:ミア・ハンセン=ラヴ
キャスト:ミア・ワシコウスカ、ティム・ロス
【ストーリー】
映像作家のカップルが脚本執筆のため、夏の間、スウェーデンのフォーレ島に滞在することにする。そこは映画監督のイングマール・ベルイマンが暮らした島だった。執筆は順調に進んでいくが、島の荒涼とした自然の中で過ごすうち、虚構と現実の境界が混在していく。
【ここに注目】
『野いちご』(1957)、『ファニーとアレクサンデル』(1982)などのスウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマンが暮らした島を舞台にしたドラマ。カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員特別賞受賞の『あの夏の子供たち』(2009)やベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)の『未来よ こんにちは』(2016)などのミア・ハンセン=ラヴ監督が初の英語作品に挑み、ヴィッキー・クリープスやティム・ロス、ミア・ワシコウスカ、アンデルシュ・ダニエルセン・リーといった国際色豊かなキャストがそろった。
『フラッグ・デー(原題) / Flag Day』
製作国:アメリカ
監督:ショーン・ペン
キャスト:キャサリン・ウィニック、ジョシュ・ブローリン
【ストーリー】
破天荒で優しい父ジョンを娘のジェニファーは尊敬していたが、実はジョンは詐欺や銀行強盗などの裏稼業に手を染めていた。成長するにつれて、自慢の父に別の顔があることを知ったジェニファーは、苦悩を抱えていく……。
【ここに注目】
『ミルク』(2008)、『ミスティック・リバー』(2003)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したショーン・ペンが監督、出演。ジェニファー・フォーゲルが父についてつづった2005年の回顧録を映画化した作品で、『フォードvsフェラーリ』(2019)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)のジェズ・バターワースが脚本を手がけた。ジョシュ・ブローリン、キャサリン・ウィニックのほかに、ペンの娘ディラン・ペンと息子ホッパー・ペンが共演している。
『カサブランカ・ビーツ(英題) / Casablanca Beats』
製作国:フランス、モロッコ
監督:ナビル・アユチ
キャスト:イスマイル・アドゥアブ、ヌハイラ・アリフ
【ストーリー】
モロッコ・カサブランカのスラム街シディ・ムーメンで暮らす若者たちのグループが、音楽やダンスのワークショップに参加する。彼らは若いエネルギーの発散の場所として、ヒップホップ音楽やダンスに興じ、自分自身を表現しようとする。
【ここに注目】
本作はモロッコ映画として初めて、カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出された。監督と脚本を手掛けるのは、第28回東京国際映画祭コンペティション審査員特別賞の『スリー・オブ・アス』(2015)などの作品にプロデューサーとして携わってきたナビル・アユチ。イスマイル・アドゥアブ、ヌハイラ・アリフ、サマ・バリコウ、アブデリラ・バスブシらが出演する。『レ・シュヴァル・ドゥ・デュー(原題) / Les chevaux de Dieu』が、第65回本映画祭でフランソワ・シャレ賞に輝いた監督の実力が試される。
『ラ・フラクチャー(原題)/ La fracture』
製作国:フランス
監督:カトリーヌ・コルシニ
キャスト:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ジャン=ルイ・クロック
【ストーリー】
パリで「黄色いベスト運動」のデモが行われていた夜、破局寸前のラフとジュリーは病院にいた。そこにはデモの参加者で、負傷して興奮しているヤンもいた。病院付近では緊張が高まり、病院が封鎖される。それは長い夜の始まりだった。
【ここに注目】
第54回本映画祭コンペティション部門にノミネートされた『彼女たちの時間』(2001)などのカトリーヌ・コルシニ監督のドラマ。フランスの Radio France のウェブサイトに掲載されたコルシニ監督へのインタビューによると、フランス政府に対する抗議デモ「黄色いベスト運動」が盛り上がっていた2018年の冬、病院で一夜を過ごした自身の実体験から着想を得たという。『ふたりの5つの分かれ路』(2004)などのヴァレリア・ブルーニ=テデスキと『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』(2011)のマリナ・フォイス、『おかえり、ブルゴーニュへ』(2017)などのピオ・マルマイらが出演している。
『ザ・レストレス(英題) / The Restless』
製作国:ベルギー、フランス、ルクセンブルク
監督:ヨアヒム・ラフォス
キャスト:レイラ・ベクティ、ダミアン・ボナール
【ストーリー】
躁(そう)状態とうつ状態を繰り返す双極性障害に悩まされるダミアンとレイラのカップルは、共にこの難局を乗り越えようとしている。だが、彼女の恋人であり、子供たちの父親でもあるダミアンの病状が一進一退する中、レイラもまた混乱する。
【ここに注目】
ベルギーで脚本家や監督として活動するヨアヒム・ラフォス監督によるヒューマンドラマ。男性の双極性障害によって日常生活に支障をきたしているカップルが、自分たちはもとより、子供たちのためにも以前と変わらぬ生活を送ろうとする。世界三大映画祭のひとつ、第63回ベネチア国際映画祭で、イザベル・ユペール、ジェレミー&ヤニック・レニエ兄弟らが出演した『ニュ・プロプリエテ(原題) / Nue propriete』でSIGNIS賞(カトリックメディア協議会賞)に輝いた監督がカンヌでも受賞を狙う。
『パリ、サーティーンス・ディストリクト(英題) / Paris, 13th District』
製作国:フランス
監督:ジャック・オーディアール
キャスト:ノエミ・メルラン、ステファン・マナス
【ストーリー】
パリ13区、高層団地が建ち並ぶオランピアードで、エミリーとカミーユは知り合う。カミーユはノーラに惹(ひ)かれていたが、ノーラはアンバーと思いがけない出会いをする。3人の若い女と1人の男は友人同士であり、恋人でもあり、そのどちらでもあった。
【ここに注目】
カンヌ国際映画祭では『つつましき詐欺師』(1996)で脚本賞、『預言者』(2009)でグランプリ、『ディーパンの闘い』(2015)でパルムドールを受賞しているジャック・オーディアール監督のラブストーリー。日系アメリカ人4世のコミック作家エイドリアン・トミネの短編小説集「キリング・アンド・ダイング」を原作とし、脚本をオーディアール監督と『燃ゆる女の肖像』(2019)の監督・脚本のセリーヌ・シアマ、『ダブル・サスペクツ』(2019)脚本のレア・ミシューが共同で担当。4人の男女の1人を『燃ゆる女の肖像』で脚光を浴びたノエミ・メルランが演じている。
『リングイ(原題) / Lingui』
製作国:フランス、ドイツ、ベルギー
監督:マハマト=サレ・ハルーン
【ストーリー】
チャドの首都ンジャメナの近郊で、15歳の娘マリアと暮らすアミナ。ある日、娘の妊娠に気づいたことから、もともと不安定だった母親の世界が崩壊する。娘にとっても、それは望まぬ妊娠だった。チャドでは中絶は宗教上の理由だけでなく、法律でも禁じられていた。母親は最初から負けが決まっているかのような闘いに挑まなければならなかった。
【ここに注目】
チャド出身でフランスを拠点に活動するマハマト=サレ・ハルーン監督が、中絶が禁じられているチャドを舞台に母と娘の聖なる絆を描いたドラマ。ハルーン監督は『ダラット(原題) / Daratt』(2006)でベネチア国際映画祭審査員特別賞を、『終わりなき叫び』(2010)でカンヌ国際映画祭審査員賞を獲得するなど、チャドを代表する映画監督で、カンヌ国際映画祭コンペティション部門への選出も3度目となる。
『フランス(原題) / France』
製作国:フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー
監督:ブリュノ・デュモン
キャスト:レア・セドゥ、ユリアーネ・ケーラー
【ストーリー】
人気ジャーナリストのフランスは、テレビ番組のスタジオや異国の戦場、家庭の間を飛び回っていた。そんな彼女の華やかな人生は、歩行者にけがを負わせた交通事故で一変する。この予想外のアクシデントは、すべてのことを問いただすことになる。
【ここに注目】
『ユマニテ』(1999)と『フランドル』(2005)でカンヌ国際映画祭グランプリを獲得したブリュノ・デュモン監督と、『アデル、ブルーは熱い色』(2013)などのレア・セドゥがタッグを組んだヒューマンドラマ。 Screen Daily によると、デュモン監督はセドゥが演じる主人公について「現代的で才能あふれる女性」としながら、「精神的な疲労などに気づいて匿名性やシンプルさを求めようとする主人公の決意や落ち込み、感情の爆発、葛藤をとらえていく」と語っている。
『ペトロフズ・フル(原題) / Petrov's Flu』
製作国:ロシア、フランス、ドイツ、スイス
監督:キリル・セレブレニコフ
キャスト:ユーリー・コロコリニコフ、ユリア・ペレシド
【ストーリー】
ソ連崩壊後のロシアで暮らす漫画家と、彼の家族のとある一日。インフルエンザにかかったペトロフは友人のイゴールに担ぎ込まれ、次第に意識が朦朧(もうろう)とする中、夢と現実の境目がはっきりとしなくなり、何が真実なのかわからなくなる。
【ここに注目】
第71回本映画祭でカンヌ・サウンドトラック賞最優秀作曲家賞を受賞するなど、各地の映画祭で注目を浴びた音楽映画『LETO -レト-』(2018)のキリル・セレブレニコフ監督による最新作。アレクセイ・サルニコフの小説を原作に、ソ連崩壊後のロシアでなんとか生きている平凡な一家の物語を映し出す。日本ではあまり馴染みがない監督ではあるが、本国では才能を認められている実力派の監督だけに、本映画祭の賞レースにどれだけ食い込めるか楽しみだ。
『レッド・ロケット(原題) / Red Rocket』
製作国:アメリカ
監督:ショーン・ベイカー
キャスト:サイモン・レックス、スザンナ・ソン
【ストーリー】
ポルノ界での仕事も尽きた39歳のマイキー。ロサンゼルスを離れ、長らく会っていない妻と義理の母が暮らすテキサスの田舎町に戻り、ようやく生活が落ち着いたところで、ドーナツ店の若い女性店員と知り合い、昔の癖がぶり返す。
【ここに注目】
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)で世界を魅了したショーン・ベイカー監督によるダークコメディー。パロディー映画ホラー映画『絶叫計画』シリーズで知られるサイモン・レックスがマイキー役で主演、ドーナツ店のレジ係ストロベリー役を作曲家で女優のスザンナ・ソンが演じている。映画『WAVES/ウェイブス』(2019)やドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」などで躍進中の撮影監督ドリュー・ダニエルズによる映像美にも注目したい。
『ザ・フレンチ・ディスパッチ(原題) / The French Dispatch』
製作国:ドイツ、アメリカ
監督:ウェス・アンダーソン
キャスト:オーウェン・ウィルソン、エリザベス・モス
【ストーリー】
20世紀フランスの架空の都市が舞台。週刊誌「ザ・フレンチ・ディスパッチ」最終号の発行に携わる編集長アーサー・ハウイツァ・Jrやジャーナリストたち、政治や芸術についての記事をめぐる、3つのストーリーが展開する。
【ここに注目】
『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013)のウェス・アンダーソン監督による待望の新作。アンダーソン監督の愛読誌「ニューヨーカー」の創始者ハロルド・ロスをモデルにした編集長アーサー役をビル・マーレイが演じるほか、ティルダ・スウィントン、オーウェン・ウィルソン、フランシス・マクドーマンド、ベニチオ・デル・トロ、レア・セドゥ、ティモシー・シャラメなど、主役級の豪華キャストが勢ぞろいしている。
『トレ・ピアーニ(原題) / Tre piani』
製作国:イタリア、フランス
監督:ナンニ・モレッティ
キャスト:アンナ・ボナイウート、リッカルド・スカマルチョ
【ストーリー】
手入れの行き届いた瀟洒( しょうしゃ)なイタリアの高級コンドミニアムの異なるフロアには、それぞれ3つの家族が暮らしている。彼らは生活に困ることもなく、一見穏やかな日々を送っているように見えるものの、実際は誰もがさまざまな問題を抱えていた。
【ここに注目】
イタリアを代表するナンニ・モレッティ監督が、初めてオリジナル脚本ではなく、イスラエル人作家エシュコル・ネヴォの「スリー・フロアーズ・アップ(原題) / Three Floors Up」を原作に描くコメディー。『監督ミケーレの黄金の夢』(1981)が第38回ベネチア国際映画祭審査員特別賞、『ジュリオの当惑(とまどい)』(1985)が第36回 ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。『親愛なる日記』(1993)が第47回本映画祭監督賞、『息子の部屋』(2001)が第54回本映画祭最高賞のパルムドールを受賞し、世界三大映画祭を制覇した大御所の動向に関心が集まる。
『トゥッセ・ビアン・パッシィ(原題) / Tout s'est bien passe』
製作国:フランス
監督:フランソワ・オゾン
キャスト:ソフィー・マルソー、シャーロット・ランプリング
【ストーリー】
85歳になる父親のアンドレが脳卒中で倒れ、娘のエマニュエルは搬送先の病院に駆けつける。父親は目覚めるが、半身不随になり、衰弱していた。何にでも好奇心を持ち、人生を愛していた父親は、娘に人生を終わらせる手助けをしてほしいと頼む。
【ここに注目】
昨年の本際映画祭のオフィシャルセレクションに選ばれた『Summer of 85』(2020)に続き、早くもフランソワ・オゾン監督の新作がコンペティション部門に登場。原作は『まぼろし』(2001)や『スイミング・プール』(2003)などのオゾン作品に共同脚本として参加するエマニュエル・ベルンエイムが2013年に発表した小説で、自身の体験をもとに尊厳死をテーマにしている。主演のソフィー・マルソーは初のオゾン作品で、『恋するシャンソン』(1997)などのアンドレ・デュソリエが共演する。