もはや社会現象!『ブラックパンサー』が作品賞候補に
第91回アカデミー賞
昨年の『ワンダーウーマン』(2017)だけでなく、あの『ダークナイト』(2008)ですら実現不可能だったアメコミヒーロー映画史上初のオスカー作品賞候補という快挙を果たした『ブラックパンサー』。全米累計興行収入7憶ドル(約770億円)を突破し、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)『タイタニック』(1997)超えの全米歴代累計興行収入トップ3に君臨。まさに、一大社会現象を起こした“2018年ハリウッド最大の事件”といえるだろう。(文:くれい響)
舞台は万能的な鉱石・ヴィブラニウムによって、超文明都市として発展してきたアフリカの架空王国・ワカンダ。国民の安全やヴィブラニウム保護などを理由に、長年世界から隔絶してきたティ・チャカ国王(ジョン・カニ)が爆破テロにより死去し、その遺志を息子であるティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)が継ぐことに。そして、彼はヴィブラニウムを使用したパワースーツや武器、さらには超人的な力が得られるハート型ハーブなどを得て、王国の守護神・ブラックパンサーとして立ち上がる!
単独映画としてマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)初となる、黒人ヒーローの誕生物語。何はともあれ、前作『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)に続き、偉大な父を持つ“2代目”の葛藤を描くライアン・クーグラー監督の下、キャストやスタッフの大半を黒人で固めたことの重要性は大きい。そして、本作はワカンダではなく、1992年のカリフォルニア州オークランドで幕を開ける。その年はロス暴動が実際に起こった年であり、オークランドは1960年代後半から70年代にかけて活動した急進的な黒人解放組織・ブラックパンサー党が誕生した地。この構成の面白さや熱いメッセージを含め、アフリカ系アメリカ人はもちろん、マイノリティーに属する人々の共感を得る結果となったことはいうまでもない。
また、国際スパイとして活躍する主人公の元カノ・ナキア(ルピタ・ニョンゴ)だけでなく、主人公の妹である天才科学者のシュリ(レティーシャ・ライト)、主人公直属のボディーガードといえるオコエ(ダナイ・グリラ)と彼女が率いる国王親衛隊など、主人公を支える主要キャラが女性でガッチリ固められている点。これが『ワンダーウーマン』に続き、女性層の支持を獲得した理由だが、いわば国際社会における多様性やグローバリズムを実に巧みに描いていることが、とにかく興味深い。
そして、エンタメ作品に必要不可欠なのが、主人公を窮地に追い込む、強く魅力的なヴィラン(悪役)の存在。平和主義を貫こうとする若き国王から王座を奪おうとたくらむキルモンガーは、アメリカ特殊部隊の傭兵出身であり、ヴィブラニウムを使って、世界征服をもくろむ。そんな彼の考えは、武装蜂起を呼びかけた先のブラックパンサー党を想起させるなど、直接的な関係はないにしろ、さまざまな深読みができるのも本作の面白さだろう。しかも、主人公とまるでシェイクスピア史劇のような展開を見せる、その重要な役回りにクーグラー監督の秘蔵っ子であるマイケル・B・ジョーダンを配するあたり、監督のこだわりを感じずにはいられない。
ほかにも、韓国・釜山の夜の街をレクサスLC500が爆走するカーチェイスシーンなど、全体的なクオリティーの高さにもかかわらず、作品賞以外の候補は、美術賞・衣装デザイン賞・作曲賞・歌曲賞・音響編集賞・録音賞といった技術系のみというのは、若干モノ足りない感じもする。そんな中、昨年から多様性が大きなキーワードとなっているオスカーにおいて、どのような結果を残すのだろうか?(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)
マーベル新ヒーロー!『ブラックパンサー』日本版本予告編