単なる人気バンドの伝記映画ではない!徹底した作り込みに注目『ボヘミアン・ラプソディ』
第91回アカデミー賞
アカデミー賞では主要部門(作品賞、主演男優賞)を含む5部門にノミネート。だがその前に、日本での興行収入がなんと100億円を突破! 完全に社会現象の域だ。かつて1970年代に英国から登場したロックバンド、クイーンの本格的な人気に火をつけた最初の国が日本だったように、今われわれはおそらく世界で最も熱烈に、この傑作をまるで国民的映画のように愛している。(文・森直人)
みんな大好き『ボヘミアン・ラプソディ』は、もちろん単なる人気バンドの伝記映画ではない。本作の決定的な卓越は、少なくともざっくり2点挙げることができるだろう。
一つはアトラクション型の音楽映画としての圧倒的な完成度。特にハイライトとなる1985年の伝説的チャリティー・フェスティバル「ライヴ・エイド」の再現シーン。魂ごと本人に憑依したようなバンドメンバー(まるでテーマパークのキャラクターを思わせるほどのそっくり度!)が“完コピ”のパフォーマンスを繰り広げる。役者たちのみごとな芝居、オリジナルのライブ音源を使用して立体的に鳴り響かせる緻密なサウンドデザイン、ステージの臨場感を伝えるカメラ。映画館の抜群の音響システムで味わう本作は、鑑賞というよりオペラ的な「体験」で、本物の記録映像をそのまま観るよりも受容の質としては「現場」感がある。
そしてもう一つはドラマシリーズ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」で注目されたラミ・マレックが熱演するクイーンのフロントマンにして映画の主人公、フレディ・マーキュリーの精神性だ。容姿のコンプレックスに加えて、人種や性差への偏見に満ちた時代の、ペルシャ系インド人移民や同性愛者というマイノリティー意識。彼の苦悩や葛藤は、LGBTなどダイバーシティ(多様性)が叫ばれる現代において切実に再浮上する。そして「伝説のチャンピオン」や「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、そして「ボヘミアン・ラプソディ」といったおなじみの名曲群が、名もなきわれわれのための応援歌として読み直される。いまやクイーンの楽曲は懐メロではない。21世紀の世界に捧ぐ新しいアンセム(賛歌)としてよみがえったのだ。
特に日本では、応援上映など独自の観客参加型イベントが企画されているおかげで、シンガロング(観客がアーティストの曲を一緒に歌うこと)の興奮と感動が極まっている。もちろんそういった試みも、映画そのものの徹底した作り込みがあってこそ、高度なレベルで実現されるわけだ。スタッフ&キャスト陣の総合力に拍手。今回ノミネートされている技術系部門(編集賞、録音賞、音響編集賞)は絶対受賞してほしい!
映画『ボヘミアン・ラプソディ』予告編