まるでガガの自伝かと見まがう!?オリジナル曲で埋め尽くした『アリー/スター誕生』
第91回アカデミー賞
『スタア誕生』(1937)の3度目のリメイク。時のムービー&ポップ・スター、クリス・クリストファーソン&バーブラ・ストライサンドが主演を務めた前回の『スター誕生』(1976)に近い焼き直し。目新しさはないし、想像通りの物語が展開する。ぶっちゃけ、昔からよくあるメロドラマだ。しかし、そこには心に引っ掛かるものが確実に宿っていた。(文:相馬学)
現代のアメリカを代表するカリスマ的なロック・ミュージシャンが、とてつもないダイヤの原石を発見。その無名の女性シンガーの卓越した才能に惚れ込み、やがては彼女自身に恋をしてしまう……。そんなラブストーリーはこの後、ヒロインの成功と共に、それに反比例するような主人公の失意を見つめ、悲劇へと転がっていく。ドラマチックに盛り上げるならば、成功を手にした女と、落ちていく男のいがみ合いや激高を強調するところだが、本作でのそれは控え目だ。むしろ、両者の戸惑いにフォーカスして、少しずつ広がっていく心の隙間を浮き彫りにする。そのリアリティーが本作の動力でもあるのだ。
リアリティーの点で、もう一つ見逃せないのは音楽の作り込み。既成曲に頼らず、すべてをオリジナル曲で埋め尽くす。ロックスターである主人公の楽曲をオーガニックなロックサウンドで固め、カリスマらしくブレを感じさせない作り。一方のスターダムへと上り詰めるヒロインのナンバーは、いかにもチャートをにぎわせそうなダンサブルチューンで塗り込む。そんな音楽性の違いだけでも、彼らのラブストーリーの暗雲は想像できる。オリジナルソングを生かした、心憎い演出だ。
主演と共に監督を務めたブラッドリー・クーパーが監督賞にノミネートされなかったのは、今回のノミネーション発表で最大の驚きだったが、人気俳優としてのイメージの強さがそうさせたのだろうか。ともかく、主演男優賞へのノミネートに映画業界の敬意を見ることができる。何よりの功績は、それまでポップシンガーの軽いイメージが強かったレディー・ガガに主演女優賞ノミネートという栄誉をもたらしたことだろう。クーパーの歌も素晴らしいが、ガガの本業である歌の熱演が本作に説得力を与えているのは見逃すべきではない。
売れっ子プロデューサー、マーク・ロンソンが参加した劇中歌「シャロウ ~『アリー/スター誕生』愛のうた」は歌曲賞にノミネートされている。クーパー&ガガの熱唱が、お互いを思いやるように響くこの曲は、気取らず、誇張せず、あくまでナチュラルに男女のハートの通い合いを描いた本作の素晴らしさを象徴しているようにも思える。
映画『アリー/スター誕生』本予告編