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ハリウッドと映画興行のあり方に大きな意味を持つ『ROMA/ローマ』

第91回アカデミー賞

ROMA/ローマ
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中

 動画配信サービス製作作品で、モノクロームの映像に全編スペイン語(英語とミシュテカ語などが入り交じる)。主演のヤリッツァ・アパリシオをはじめ出演者の多くに素人を起用したNetflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』が、第91回アカデミー賞で最多10ノミネート(『女王陛下のお気に入り』とタイ)で候補になった。しかも作品賞と外国語映画賞のダブルノミネートという快挙を成し遂げたことは、映画史に記憶される事件と言えるだろう。(文・今祥枝)

 監督は『ゼロ・グラビティ』(2013)のアルフォンソ・キュアロン。1970年代のメキシコ・ローマ地区を舞台に、中流家庭の一家に住み込みで働く若い家政婦クレオ(ヤリッツァ)の視点から、雇い主一家との日常を描き出す。キュアロンは脚本と撮影も自ら手がけており、彼自身の幼少期の体験を交えた5年ぶりの新作(長編映画)となる。

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ROMA/ローマ
家政婦クレオを通した雇い主一家との日常を描いた。 - 『ROMA/ローマ』より

 雇い主の医師アントニオは留守がちだが、大学の生物学教授だった妻ソフィアと母テレサ、3人の男の子と女の子の4人の子供たちと同僚の家政婦アデラとクレオの、何ということのない小さなエピソードの数々を積み重ねていく。そんな中でクレオの私生活とソフィアの夫婦生活にさざ波が立ち、2人の人生において重大な出来事が起こる過程で女性同士の結び付きは自然と強く深くなっていく。一方で、背景として一党独裁時代のメキシコ現代史の一端を描いている。

 印象的なのは、1971年に起きた学生団体のデモを軍が襲撃し、多数の死傷者を出した弾圧事件。街に買い物に来ていたテレサとクレオが騒乱に巻き込まれるシークエンスだ。どこにでもあるような人々の生活と史実を並列して描くことで、時代や自然の脅威に翻弄(ほんろう)される人間が無力で小さな存在であることを思わされる。だからこそ立ち上ってくる、市井の人々の営みを慈しみ自分を愛してくれた人々を思うキュアロンの人間賛歌は、どこまでも美しく詩的で、ユーモアと優しさに満ちている。

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子供たちにとってクレオは家族の一員的な存在? - 『ROMA/ローマ』より

 本作はARRI ALEXA 65によるデジタルフォーマットで撮影され、アスペクト比は1:2.35(横長)。白黒映画で音響効果はドルビーアトモスとくれば、どう考えても劇場で鑑賞することは大前提であろう。冒頭、敷き詰められたタイルが映し出され、ブラッシングの音がしてタイルに水が流されると水面に空が映り、そこには飛行機が飛んでいる。四方八方から聞こえてくる自然や雑踏の音が臨場感を生み、もうこのファーストカットから瞬時に魅了されてしまう。

 そこから映し出される家の空間設計にも余念がない。家の中をぐるっとカメラを回して、流れるように次々と主な登場人物たちが映し出される空間の使い方、見せ方の巧みさ。キャラクターに合わせて動くドリーショット(移動撮影)も効果的に使われており、外の世界ではクローズアップとワイドショットによる演者の表情と自然や景色の広がり方にも目を奪われる。また前述の弾圧事件の街の景色などの時代の再現性は、『ゼロ・グラビティ』のようなわかりやすい派手さはないが高度なデジタルテクニックに裏打ちされたもの。地面を映したファーストカットと対をなすラストカットまで、もう完璧である。

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留守がちな雇い主の医師アントニオは実は……。 - 『ROMA/ローマ』より

 技術部門でも複数候補になっている本作は、野心的な作風と芸術性、そして家政婦や先住民族の女性を主人公にするなど多様性においても特筆すべきものがある。『ROMA/ローマ』は間違いなく今の時代を代表するにふさわしい傑作である。一方で、映画業界で議論を巻き起こしているのが、Netflix製作の映画は劇場公開と同時期か基本的には配信のみという公開形態だ。対立姿勢をあらわにしているのが映画館側である。2018年のカンヌ国際映画祭では、フランスの映画館が反発して映画祭事務局はルールを改正し、Netflix作品はコンペティション部門から排除された。今回のアカデミー賞に関しても、米主要映画館チェーンなどがオスカーノミネート作品10作品の特集上映から本作だけを除外した。

 日本の映画評論家などからも「配信のみの映画は映画ではない」といった主張を聞くことがある。筆者としては何年も前から驚きを禁じ得ないが、仮にそうだとするなら世界が注目する映画業界最高峰の栄誉であるアカデミー賞において、外国語映画賞のみならず作品賞にノミネートされたことの意味を、どう考えるべきなのか? キュアロンは「今回のノミネーションは映画業界を前に推し進め、湧き出てくる新たな意見や価値観を反映した作品創りの力となるでしょう」とのコメントをNetflixに寄せている。オスカー監督であるキュアロンでさえ『ROMA/ローマ』のような作品は製作しづらいハリウッドと映画興行のあり方に、変化を求めている映画人は少なくないのだろう。活発な議論を促す意味でも今回のノミネーションは大きな意味を持つ。

Netflix初、ベネチア金獅子賞!『ROMA/ローマ』アルフォンソ・キュアロン監督インタビュー

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