アカデミー賞作品賞候補8作品スゴイのはココ!<後編>
第91回アカデミー賞
いよいよ週明けに迫った第91回アカデミー賞授賞式。作品賞候補にはあの大ヒット作も! 授賞式を全力で楽しむべく、すでに日本公開されているノミネート作のスゴさを一挙振り返ってみました。(編集部・市川遥)
ガガ&ブラッドリーのケミストリーに酔いしれる『アリー/スター誕生』
スターダムへ駆け上がるヒロインと落ち目で酒に溺れるスター……。ハリウッドの名作の3度目のリメイクに挑んだのは、これが映画初主演の歌手レディー・ガガ&初監督の俳優ブラッドリー・クーパーです。共に初めての挑戦で互いを頼りにしていたこともあってか、二人の相思相愛ぶりにはドキドキしてしまうほど! それがキャラクター同士のケミストリーにつながっています。
ストーリーと完璧にリンクした名曲たち!→脚本執筆と同時進行でブラッドリー&ガガたちが楽曲制作を行っていたとあって、本作のオリジナル曲はストーリーと完璧にリンク。楽曲自体がまるで一人の登場人物であるかのような存在感を放っています。歌曲賞にノミネートされた「シャロウ ~『アリー/スター誕生』愛のうた」をブラッドリー&ガガがデュエットするシーンは鳥肌もの。若きアーティストのアリー(ガガ)が自分の声を見つけようともがく過程までもが、楽曲の変化に表れています。
名優から名監督になったブラッドリー・クーパー→構図や色で雄弁にキャラクターの内面やストーリーを語るブラッドリーのセンスの良さは、とても初監督とは思えないほど。ガガのみならず、74歳のサム・エリオットにもオスカー初ノミネートをもたらすなど(ブラッドリー自身も4度目の俳優賞ノミネート!)、キャストの良さを最大限引き出す技も備えています。
『アリー/スター誕生』
監督・脚本:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー、サム・エリオット
上映時間:2時間16分
配給:ワーナー・ブラザース映画
第91回アカデミー賞8部門ノミネート:作品賞、主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)、主演女優賞(レディー・ガガ)、助演男優賞(サム・エリオット)、脚色賞、撮影賞、録音賞、歌曲賞
アメコミ映画の枠にとどまらない快進撃『ブラックパンサー』
メジャースタジオのエンタメ大作にして、主要キャストのほとんどが黒人俳優という今までになく画期的な作品。ずっと前に破られるべきだったそんな“ハリウッドの障壁”を打ち砕き、歴代3位の北米興行収入を記録。史上初となるアメコミ映画のオスカー作品賞ノミネートという快挙を成し遂げました。
物語に込められた社会的メッセージ→アフリカにある架空の国ワカンダは、発展途上国に見せかけて、豊富な資源とハイテク技術で繁栄してきた超文明国。ワカンダの王であるブラックパンサーは世界の危機に、これまでの孤立主義を貫くべきか否か、選択を迫られます。決して説教臭くなることなく、現代のアメリカのみならず世界に広がる閉鎖的な空気を一刀両断するようなストーリーはお見事! アフリカ文化の豊かさを祝福するカラフルな衣装の数々にも目を奪われます。
重要な役割を果たす女性キャラクターたち→ブラックパンサーと敵役キルモンガーが魅力的なのはもちろん、男性ヒーロー映画でありながら、女性キャラクターが物語において重要な役割を果たしていることも注目すべき点。ヒーロー映画で描かれがちな単なるお飾りの女性ではなく、知性と力を持った女性たちがストーリーを導きます。
『ブラックパンサー』
監督・脚本:ライアン・クーグラー
出演:チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ
上映時間:2時間15分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
第91回アカデミー賞7部門ノミネート:作品賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、歌曲賞、作曲賞、衣装デザイン賞
メンバーの絆&パワフルな楽曲の数々に涙!『ボヘミアン・ラプソディ』
クイーンの名曲の誕生秘話とメンバーの絆、そして唯一無二のボーカル、フレディ・マーキュリーの生きざまを描いた音楽ドラマ。完璧に再現されたラストのライヴ・エイド(20世紀最大のチャリティー音楽イベント)の臨場感はすさまじく、映画を映画館で観る意義を再認識させてくれる一本です。
心身共にフレディ・マーキュリーを体現したラミ・マレック→決して見た目がフレディに似ているわけではないものの、いつの間にか本人にしか見えなくなるラミの名演がすごい! 細かな表情や動き、大胆なライブパフォーマンス、そして繊細な内面まで魂を込めて演じ切っており、主演男優賞の最有力候補となっています。そしてグウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロというクイーンのメンバー役の3人も本人に瓜二つ。ひたすら真摯に演じる彼らが紡ぐクイーンの絆に、涙せずにはいられません。
監督が途中でクビになったのに!驚きの完成度→ブライアン・シンガーが撮影残り2週間というところで無断欠勤を理由に監督をクビになり、後任にデクスター・フレッチャーが決まるまで、撮影監督のニュートン・トーマス・サイジェルが代理を務める……というゴタゴタがあった本作。シンガーが道筋をしっかり作っていたからか、サイジェル&フレッチャーのらつ腕があったからなのかは不明ですが、問題など一切感じさせない完成度の高さです。
『ボヘミアン・ラプソディ』
監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレック、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロ
上映時間:2時間15分
配給:20世紀フォックス映画
第91回アカデミー賞5部門ノミネート:作品賞、主演男優賞(ラミ・マレック)、音響編集賞、録音賞、編集賞
些細な日常の積み重ねが大きな感動を呼ぶ『ROMA/ローマ』
アルフォンソ・キュアロン監督のメキシコでの子供時代を基に、家政婦クレオと雇い主一家の日々を、きらめくばかりに美しいモノクロの映像で描いた本作。モノクロ映画ですが、とっつきにくさはゼロ! クレオと雇い主一家の子供たちの愛情に満ちた関係にほっこりし、メキシコという国と個人に影響を及ぼした1970年代という時代を垣間見、ラストは強く魂を揺さぶる傑作です。
全部一人でやっちゃった名監督→『ゼロ・グラビティ』のオスカー監督キュアロンは、本作では監督、脚本、撮影、編集、製作の一人五役。半自伝的な映画とあって、他者を介さずイメージを展開させていくこのやり方は作品にぴったりでした。今回務めた役割のほとんど全てでオスカーにノミネートされていることも、キュアロン監督のフィルムメイカーとしての才能を証明しています。
完璧な映像とサウンド→色が見えるかと思うほど鮮やかなモノクロ映像と、完璧な構図の美しさにうっとり。カメラが実際に映すもの以上のものを描きたいということで、サウンドデザインへのこだわりも徹底的です。環境音を映画音楽の代わりにし、スクリーンには映らないフレームの外、登場人物たちが生きるその空間までもが感じ取れます。
『ROMA/ローマ』
監督・脚本・撮影・編集:アルフォンソ・キュアロン
出演:ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ
上映時間:2時間15分
配信:Netflix
第91回アカデミー賞最多10部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演女優賞(ヤリッツァ・アパリシオ)、助演女優賞(マリーナ・デ・タビラ)、脚本賞、撮影賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、外国語映画賞