2018年 第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門21作品紹介(3/3)
第75回ベネチア国際映画祭
『ピータールー(原題) / Peterloo』
製作国:イギリス、アメリカ
監督:マイク・リー
キャスト:ロリー・キニア、マキシン・ピーク
【ストーリー】 1819年、経済が困窮していたイギリス・マンチェスター。選挙改正を求めるデモ集会が行われていたところに、軍が突入、武力鎮圧する。これにより15人が死亡、700人以上もの負傷者を出るが……。
【ここに注目】 『秘密と嘘』『ヴェラ・ドレイク』『ハッピー・ゴー・ラッキー』などで知られるイギリスの名匠マイク・リーが、「個人的な思いをかき立てられる出来事」と語る、出身地マンチェスターで起きた歴史的な民衆弾圧事件「ピータールーの虐殺」に挑んだ意欲作。リー監督の前作『ターナー、光に愛を求めて』でアカデミー賞撮影賞にノミネートされたディック・ポープが、再び撮影を担当している。
『カプリ・レボリューション(原題) / Capri-Revolution』
製作国:イタリア、フランス
監督:マリオ・マルトーネ
キャスト:マリアンナ・フォンターナ、ジャンルカ・ディ・ジェンナーロ
【ストーリー】 イタリアが第一次世界大戦に向かって突き進んでいた1914年、北欧の人々はカプリ島こそが彼らの芸術を開花させる理想の場所と訪れるようになる。島の山羊飼いの娘ルチアはある日、全裸で海に面した崖に集うたくさんの人々の姿を見つける。
【ここに注目】 これまで多くのドキュメンタリー作品や短編を発表してきたマリオ・マルトーネ監督が、第一次世界大戦前のイタリア・カプリ島を舞台に描く人間ドラマ。素朴な島の娘ルチアと、北欧から集まり島にコミューンを形成した人々、そして島の若き医師というまったく背景の違う者たちの出会いを静かに見つめる。カンヌ国際映画祭や今映画祭常連のイタリアの実力派監督が、そろそろ母国で凱旋を果たしたいところ。
『ワット・ユー・ゴナ・ドゥー・ウェン・ザ・ワールズ・オン・ファイア(原題) / What You Gonna Do When The World’s On Fire?』
製作国:イタリア、アメリカ、フランス
監督:ロベルト・ミネルヴィーニ
キャスト:ジュディ・ヒル、ドロシー・ヒル
【ストーリー】 2017年夏、アメリカ中に衝撃をもたらした一連の黒人惨殺事件が起きた後の、アメリカ南部の黒人コミュニティーの様子を捉える。アメリカの人種差別の実態について考察し、国に擁護されない中で正義と尊厳、生存のために闘う人たちを深く描写する。
【ここに注目】 アメリカの人種問題の本質に迫るドキュメンタリーを手掛けたのは、現在はアメリカを拠点に活動するイタリア生まれのロベルト・ミネルヴィーニ監督。劇映画の『ロー・タイド(原題) / Low Tide』で、ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門に選ばれた経歴を持つ。憎しみや差別的な政治のせいで起こる犯罪がかつてないほど増大しているという現状に対し、「本作がブラックアメリカンの闘争についての議論の口火を切ることを願う」と意気込みを語っている。
『サンセット(英題) / Sunset』
製作国:ハンガリー、フランス
監督:ネメシュ・ラースロー
キャスト:ヤカブ・ユリ、ヴラド・イヴァノフ
【ストーリー】 1913年のブダペスト。若い帽子職人のイリス・ライターは、かつて亡き両親の店だった帽子の名店の門を叩くも、新しいオーナーに追い返されてしまう。イリスは、自身の失った過去につながる人物、カールマン・ライターの痕跡をたどる決意をする。
【ここに注目】 初の長編作品『サウルの息子』でカンヌ国際映画祭グランプリやアカデミー賞外国語映画賞に輝いたハンガリーの新鋭ネメシュ・ラースロー監督による待望の2作目。舞台は第一次世界大戦前夜のオーストリア=ハンガリー帝国で、激動の最中、失った家族の遍歴をたどる若い女性の冒険が35mmフィルムの美しい映像で描かれている。主演は、『サウルの息子』にも出演しているヤカブ・ユリ。
『フレール・エネミ(原題) / Freres ennemis』
製作国:フランス、ベルギー
監督:ダヴィド・オロファン
キャスト:マティアス・スーナールツ、レダ・カテブ
【ストーリー】 麻薬取引が多発する郊外で生まれ育ったドリスとマニュエル。マニュエルは悪党としての人生を受け入れ、ドリスは警官になったが、マニュエルが重要な取引に失敗したことで、二人は再会。この世界で生き抜くには、互いが必要だということに気づく。
【ここに注目】 『レッド・スパロー』などハリウッドでも活躍するベルギー人俳優マティアス・スーナールツと、『永遠のジャンゴ』などのフランス人俳優レダ・カテブが共演を果たしたドラマ。兄弟のように育ったが、悪党と警官になり、裏切りや怒りの間で生き抜くために手を結ぶ幼なじみを二人が演じる。監督はベネチア国際映画祭コンペティション部門にも出品された『涙するまで、生きる』のダヴィド・オロファン。本作が長編3作目となる。
『ヌエストロ・ティエンポ(原題) / Nuestro tiempo』
製作国:メキシコ、フランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン
監督:カルロス・レイガダス
キャスト:カルロス・レイガダス、ナタリア・ロペス
【ストーリー】 メキシコ・トラスカラ州郊外。闘牛用の牛を育てる牧場を営むエスターは、有名な作家であるフアンと暮らしていた。2人は、オープンな関係を維持しようとするカップルだったが、彼女が他の人と恋に落ちた時、彼は自分が期待していた自分の役割を果たせずに困惑する。
【ここに注目】 『闇のあとの光』がカンヌ国際映画祭監督賞に輝いた、メキシコの鬼才カルロス・レイガダス監督によるヒューマンドラマ。今回は監督本人が出演を果たしている他、『闇のあとの光』でも編集を担当してタッグを組んだナタリア・ロペスが女優として参加している。目をみはる美しい背景を軸に、華やかさや派手さとは距離を置きつつ、あくまでも人間に焦点を絞ってストーリーを展開するのが得意な監督の手腕にうなる。同じくメキシコ出身の名匠キュアロン監督との激しい賞レースに熱い視線が注がれる。
『アクサダ(原題) / Acusada』
製作国:アルゼンチン、メキシコ
監督:ゴンサロ・トバル
キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル、ラリ・エスポシト
【ストーリー】 ごく平凡な学生だったドロレス・ドライアー。ある日、親友が無残な殺され方をして以来、彼女の人生は一変する。事件から2年後、親友殺しの嫌疑をかけられたドロレスはメディアの格好の餌食となり、世間の人々は好奇心をむき出しにして彼女が有罪か無罪かを議論する。
【ここに注目】 アルゼンチンのゴンサロ・トバル監督が、メキシコの国際派スター、ガエル・ガルシア・ベルナルらを迎えて放つサスペンスドラマ。親友殺しの犯人として告発された主人公が、苦しい状況の中、なんとかして身の潔白を証明しようともがく姿を描き出す。ガエルが、今回の審査委員長デル・トロ監督の『天国の口、終りの楽園。』で、本映画祭の新人俳優賞を獲得しているなど、何かとベネチア国際映画祭に縁がある新鋭監督が、満を持して最高賞の金獅子賞を狙う。