略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
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複製された脳のデータと義体によって作られた人工の人間は、人間の尊厳を持つ存在なのか、それとも役に立たなくなったら破棄する製品でしかないのか。『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホ監督が、『機動戦士ガンダム』や『攻殻機動隊』をはじめとするあまたのSF作品の設定と最新VFXを駆使して、AI時代の倫理と親子の情愛を描く。『新感染』でも親子の情愛が大きなテーマになっていたが、こちらでは時代設定が異なる分、ツイストの効いた展開と着地になっている。哲学的かつ普遍的なテーマを扱ってはいるが、ちゃんとアクション映画のサービス精神を残しているところが嬉しい。
日常的に多くの人々が誘拐され、殺され、放置されるメキシコで、さらわれた娘を母が追う。公開されたばかりの『母の聖戦』と同じテーマを扱っているが、本作では問題の背景にある社会の歪んだ構造を炙り出す。序盤と中盤は絶望感と徒労感から来る静けさが作品を覆っているが、ある事件をきっかけに終盤は一気に燃え上がる。人身売買を行う犯罪組織は麻薬組織とつながり、麻薬組織は警察、検察ともつながり、権力ともつながっている。犠牲者は男女問わないが、社会を変えようと立ち上がるのは女性たちだ。主人公が合流した女性たちのデモ隊が叫ぶ「抑圧的な国家はマッチョな強姦者だ」というシュプレヒコールが印象的。
タランティーノ映画などを製作した大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長期にわたる性暴力事件を告発した女性記者たちの静かな闘いを描く。映画的なスリルやサスペンスを追い求めず、演出も脚本も抑制的なのに十分スリリングで、上映時間の129分があっという間。被害者の気持ちに寄り添いながら粘り強く取材し、物証などを集めて裏を取り、告発相手の回答を得て、複数の責任者のチェックを経た上で世に送り出される調査報道の重要さを描ききっている。こうすれば社会は変えられるんだと示しつつ、告発されてもまだのさばっている“大物”の存在が劇中で何度も示唆されており、闘いは途上だと感じさせられる。
犬を飼っている人、犬を飼ったことがある人なら、みんな泣いちゃうんじゃないだろうか。雄大なアパラチア山脈のど真ん中で迷子になってしまった愛犬を、家族が一丸になって探し続けるという話。犬も迷子になっているけど、飼い主の息子も人生の迷子になっているのが上手い(元は実話)。人々の善意が広がっていく様が感動的なんだけど、善意を生み出しているのは生活の余裕なのかと考えてしまったりした。いろいろあったけど、すっかりカッコいいおじさんになったロブ・ロウ(製作総指揮も兼任)が出ずっぱりなので、現役&元ファンの方もぜひ。犬が大好きな人たちが集まって製作したことがわかるエンディングクレジットも気がきいている。
『パラサイト 半地下の家族』で貧しい一家の妹を演じたパク・ソダムがクールな凄腕の運び屋に扮して、激しいカーアクションに挑む。彼女が運ぶ訳ありの荷物が、『パラサイト~』で共演した金持ち一家の教え子役チョン・ヒョンジュンというのが面白い。マニュアル車を駆使したトリッキーなカーアクションはもちろん、ソン・セビョク扮する残虐非道な悪徳警察官の一味から子どもを守るため、小柄で細腕のパク・ソダムが身体を張って必死に戦おうとする場面もグッと来る。脱北者の主人公や不法滞在者、親を亡くした子どもなど、居場所をなくして肩を寄せ合う疑似家族が、自分たちの居場所を守るために血みどろになって戦う話でもある。