略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。
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ノルウェー産の純然たるモンスターパニックホラー。1000年前にヴァイキングが持ち込んだ「人狼になる毒」によって誕生した殺傷能力がやたらと高い人狼が、ノルウェーの風光明媚な片田舎で惨劇を引き起こす。主人公の娘ターレ(『ロイヤルティーン:ウワサのプリンス』の王女役エリー・リアンノン・ミューラー・オズボーン)に意地悪していた連中が片っ端から食い殺される様は爽快。エンジンのかかりが遅かったり、1000年の間に人狼は騒ぎになってなかったの? とツッコミを入れたくなったり、『ヴァイキング・ウルフ』という景気のいいタイトル(原題通り)のわりにヴァイキングとウルフとの関わりが薄かったりしたのが残念だった。
「生きるのと延命は違う」。脳卒中で思うように動けなくなって安楽死(人為的に寿命を短くさせるので尊厳死とは異なる)を選択した父親と、父親に振り回されながら彼の思い通り安楽死の手続きを取る娘たち。父親は社会的にも経済的にも申し分のない身分だから、安楽死を選択せざるを得ない社会を告発するような作品ではない。悲しみと愛情と憎しみを交錯させながら、死を主体的に選択した親を見送る家族の心境とはどのようなものかが、ほんのり温かく描かれる。安楽死は遠い存在のように思うが、老親やいずれ老いていく自分を重ねながら考えてしまう。くすんだブルーが画面のあちこちに配置されていて、観ているこちらの気分に寄り添ってくれる。
橋爪駿輝の原作で、北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音が共演し、Saucy Dogが主題歌を歌う。非常に2023年的な座組なのだが、映画を包んでいるのは果てしのない閉塞感だ。映像も暗い。彼らはどこへ行っても何らかのハラスメントに遭い、常に社会から抑圧されている。逃げ出す手段もなくて、手にしてるのはSNSぐらい。いつも自殺のことを考えていたり、結婚さえすれば何かが変わると考えていたり、人間関係そのものから逃げていたり。これが今の若者たちのリアルな物語なのだということなのだろう。ささやかな暴言を吐くことが唯一の抵抗で、彼らの生活に映画も音楽も本も登場しないところも、ある意味、とても今っぽかった。
泥棒という属性と制作会社が共通する『ルパン三世』と『キャッツ・アイ』のコラボレーション企画。チートすぎないルパン一味と意外にチートな来生三姉妹が、それぞれの設定を十分に活かしながら対立・共闘する。ルパンが三女の愛に泥棒の心得を教える展開が面白い。CGの動きが生硬だったり、ラストにもう一アクション欲しかったり、切ったはずの手のひらがすぐ無傷になっていたりと、いろいろ言いたくなる部分はあるにせよ、両者のファンをバランス良く満足させるお祭り的ファンムービーとしては十分。声優陣の衰えのなさも驚嘆もの。冴羽獠のカメオ出演は『ルパン三世VSシティーハンター』への布石かも?
ぽっちゃりしていてコンプレックスだらけだけど実は芯の強いお姫様と、口が達者なお調子者に見えるけど頭脳明晰で一途な愛の意味を知っている青年が、偽装結婚から真実の愛を掴み、対立する2つの国を変えていくファンタジー。2016年の『このマンガがすごい!』オンナ編1位を獲得した岩本ナオのコミックを完璧に映画化。何より主演の賀来賢人と浜辺美波の声の演技が素晴らしい。中東やアジアの国をイメージした空想の国々を美しく描く美術や、壮麗なエバン・コールの音楽もお見事。観終わった後、温かくて清い気持ちになるのと同時に、どうして現実の世界はこうも醜い争いが続くのだろうかとため息が漏れる。大人も子どもも楽しめる作品。