略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
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すでに指摘されているとおり、「東宝チャンピオンまつり」化している本作。メッセージどころかドラマも怪獣への畏怖も皆無で、ひたすら怪獣同士のタッグマッチが繰り広げられる。人情に厚いヤンキー感丸出しのコングと無愛想でコワモテのゴジラが吹き出しでしゃべってもまったく違和感がないと思う。東西の人気怪獣、ゴジラとコングが揃い踏みするという価値を最大限にブローアップさせて、「映画は興行である」と徹底的に割り切った作品。観終わった後、「さ、ラーメンでも食べに行くか」という感想しか出ないのだが、それも一つのエンタメ。それにしても、コングの社会にもパワハラや上下関係があるのか……と嘆息してしまった。せちがらい。
“鉄の爪”こと稀代の悪役プロレスラー、フリッツ・フォン・エリックと“世界最強の一家”となるべく父親の期待を受けてプロレスラーになった息子たち――フォン・エリック・ファミリーを襲った悲劇の正体とは何か。それは、アメリカの価値観の中心にあった“男らしさ”の権化であり、強烈な家父長制の頂点に立つエリックがもたらしたものだった。エリックの価値観を疑いもしなかった息子たちは、いつしか死の淵へと追い込まれていく。抑制の効いた演出で描かれるのは、アメリカを象徴する大家族を描いた叙事詩のよう。同時に、プロレスという競技の過酷さ、恐ろしさ、難しさも感じる。プロレスファンだけでなく、今多くの人に見られるべき映画。
超絶美麗な作画によって音楽の楽しさと音楽の持つ力を伝えようとするコンセプトは理解できるが、脚本が今ひとつでストーリーが整理されていない。何より、音楽が戦いの手段になってしまっているところが解せなかった。これでは観客の子どもたちが音楽を楽しみたいと思わなくなってしまうのではないか。実際、登場人物たちはあまり楽しそうではなかった。作画は素晴らしかったのに惜しい。「戦い」以外の物語でも良かったのではないか。あと、これは近年の『ドラえもん』全体の問題だが、のび太以外のジャイアン、スネ夫、しずかの主要キャラがおしなべて“いい子”になってしまっているので、ドラマが生まれにくくなっている気がする。
黒人の売れない作家が、半分冗談、半分皮肉で、いかにも黒人が書きそうだと思われるステレオタイプだらけの小説を書いたら、白人だけでなく黒人の知識人層にもバカ当たりで困惑してしまうという物語。でも、それだけじゃなく、主人公の家族や周囲の人たちをめぐるドラマとタペストリーになっているのがミソ。リアルじゃない物語がリアルだと絶賛される一方で、主人公のまわりにはリアルな人生の問題が渋滞している。差別や偏見がはびこる社会への風刺を前面に出しつつ、人にとって何がリアルなのか、フィクションに振り回されすぎてはいないだろうか、と問われている気になった。風刺を見て痛快な気分になるだけじゃ済まない作品。
マ・ドンソクの人智を超えたゴリラ・アクションが爆発する人気シリーズ最新作。第1作のユン・ゲサン、第2作のソン・ソックと狂気のアウトローと戦ってきたマ・ドンソクだが、今回の敵は日本刀がメインウェポンのヤクザ・青木崇高と悪徳刑事のイ・ジュニョク。強力班の面々が登場しない寂しさはあるが、マ・ドンソクの強さは当然のこと、「ジャジャーン」と言いながら登場したり、「“拳”弁護士」を紹介したりするマ・ドンソクの可愛らしさも堪能できる。ジャーマンスープレックスを繰り出したのにも驚かされた。ただし、第1作と第2作のヒリヒリ感は希薄に。シリーズ化が発表されているので、次作はもうちょっと巻き直してほしい。