略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
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爆弾魔の脅迫によって街中を駆けずり回らされる主人公……という『ダイ・ハード3』パターンのアクションスリラーかと思いきや、事件の原因となった過去の潜水艦事故にまつわるドラマにウェイトが置かれていた。あんな状況に置かれたら、そりゃどうかしてしまうわな……と後からじわじわ効いてくる作品。キム・レウォンをはじめとする韓国の俳優たちはよく体を張っているし、爆発や破壊のケレン味もさすが。イ・ジョンソクとチャウヌがどんな関係だったか妄想してしまうファンもいるかも。あとは爆弾が爆発する条件をクリアにしたり、主要登場人物のドラマを掘り下げていたら、もっと良くなった気がする。
子どもをさらって悪事をたくらむ組織と、縁あってさらわれた子どもを助けに行く次元大介の対決……というごくシンプルな筋立てながら、前半はまったくストーリーが進まず、アクションもない。ただし、後半になったら“次元無双”が始まり、無表情のままバッタバッタと敵をなぎ倒していく。なにせ敵は銃を持っていても先制攻撃をしてこないし、マシンガンを乱射してもかすりもしないので、「次元はやっぱり強くなくっちゃ!」「チート大好き!」という人にはぴったりだろう。次元が感情を出さないせいか、敵(真木よう子)は相当な悪事をしているのに、誰も怒らないのが不思議。10月で90歳(!)の草笛光子が一番セリフの多い役で驚いた。
さまざまな取材を行っているものの構成が散漫で、有名な猪木イディオムは撫でているものの、「プロレスラー・アントニオ猪木」も「人間・猪木寛至」も「名状しがたい何ものかであったアントニオ猪木」も掴むことができない。枝葉末節はあるが幹がない。ドキュメンタリーというよりバラエティに近い。時系列を少しずつズラしているせいか、アントニオ猪木がその時代に何を考えていたか、その時代の人々にどう受け入れられていたかも正確に描かれない。挿入されるミニドラマも意図不明。何より問題なのは、10年後、20年後に本作を見た人が、アントニオ猪木という人物がいかに偉大で、何を成し遂げた人物かがまったくわからないところにある。
呪いもウイルスも謎のアプリも出てこない、完全物理のクラシックなスペイン産スラッシャームービー。マスクを被った殺人ピエロに若者たちが一人ずつ殺されていく展開や、ホラージャンルへの自己言及がある点など、『スクリーム』を思い出した人も多いかもしれないが、目新しさもスリルもないところが難点。「恐怖の他に物語性が必要だと思う」という登場人物の言葉がそのままあてはまってしまった。あと、読書クラブの面々が、主人公以外誰ひとり本好きに見えないところが残念。読書するシーンもない。せっかく本がモチーフのお話なのにもったいなさすぎる。出てくる図書館は素敵なのに、みんなアレのことばかり考えすぎ!
台湾で爆発的ヒットを記録したコメディー。同性愛嫌悪かつ性差別的でもある若手刑事の主人公とひき逃げで事故死したゲイの青年が「冥婚」によって結ばれたことで起こるドタバタを描く。最初はまったく相容れなかった二人が、事件解決の過程でどんどんお互いの人間的な良さに気づいていくというストーリーは、BLものというよりはブロマンスもの。ギャグとアクションがてんこもりのクライムコメディ―なんだけど、主人公の人間的な成長とゲイの青年の思い残しの解決を描き、最後は普遍的な家族愛で泣かせにくる。本当によく考え抜かれた一大エンターテイメント作品だ。台湾で合法化された同性婚に関する繊細な話題も盛り込まれているのもいい。