大山くまお

大山くまお

略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。

近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。

サイト: https://www.youtube.com/channel/UCmdesdmNuJ2UPpAQnzkh29Q/featured

大山くまお さんの映画短評

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  • みなに幸あれ
    地方の因習が怖いのではなく社会全体が怖いという物語
    ★★★★★

    我々の「幸せ」は見知らぬ誰かの犠牲の上に成り立っているのではないか? 理不尽なことに見て見ぬふりをして今ある現実を受け入れなければいけないのか? 地方の因習を扱っているように見えて、実は現代を生きる我々全体の問題をえぐり出そうとする社会派ホラー。「現実を知れ」「お花畑」などの言葉が普通の人々の口から出てくる嫌な感じをよく描いている。恐怖に直面した主人公がまったく解決策を得ることができない泥沼感もよく出ていた。あとは、頻出するシュールな描写を受け入れられるか、受け入れられないかで評価が変わる作品だと思う。古川琴音はホラークイーンの素質十分の大熱演。個人的には真逆のラストが見たかった。

  • 雪山の絆
    衝撃的な描写が続くが監督の視線は優しい
    ★★★★

    「友のために命を捧げるほど偉大な愛はない」。これまで何度も映画化されたウルグアイ空軍機の墜落事故を映画化。アンデスの山中に墜落した乗客たちが、寒さと飢えと次々と襲いかかるアクシデントと戦いながら生き抜いていくさまを描く。乗客のラグビーチームの学生たちは、お互いに険悪になったり、争ったり、エゴに染まったり、できない理由を声高に叫んだりすることなく、状況に応じて自分たちにやれることを探し、励まし合い、時にはユーモアさえ忘れず、諦めず、果敢に行動する。衝撃的な映像もあれば、凄惨な描写もあるが、監督のJ・A・バヨナの視線は優しい。我々も大災害と隣り合わせに生きている。だからこそ、より胸にしみる作品だ。

  • ビヨンド・ユートピア 脱北
    想像を絶する「脱北」のリアル
    ★★★★★

    「脱北」という言葉は多くの日本人が知っているが、実態は知られていないのではないか。北朝鮮から韓国へ38度線をひょいと超えていけるわけではない。北朝鮮から中国へ行き、ベトナムからジャングルを超えてラオスに渡り、さらにタイにたどりつかなければ自由は得られない。移動距離1万2000キロ。全部密入国であり、警察に見つかれば強制送還され、拷問されて殺される。本作は幼い子ども二人と80歳の祖母を含む家族5人が挑んだ想像を絶する脱北のリアルを描く(故郷に家族を残してきた脱北者の苦悩も)。観ている間、ずっと息も胸も詰まり続けていた。健気で優しく忍耐強い子どもたちが、どんなときに涙を流すのか見届けてほしい。

  • カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~
    誰もがこうやって年をとりたいと思うのではないか
    ★★★★★

    『魔女の宅急便』などで知られる児童文学作家・角野栄子の今と過去を映すドキュメンタリー。ピンクの屋敷に一人で暮らし、色とりどりのワンピースを着て颯爽と歩く角野は、とても88歳には見えない若々しさだ。印税で悠々自適なのかと思いきや、今でも朝から夕方まで執筆を続ける姿に驚かされる。彼女の想像力の源泉は、若き頃のブラジルへの移民の経験と専業主婦としての鬱屈とした思いにあったという。だが、断定的に語らず、角野自身のようにふわっとしたタッチで綴る。面白い作品を書きたいから「神様、命をください」と海に祈って、すぐさまハハハと笑うあたりが真骨頂。誰もがこうやって年をとりたいと思うのではないか。

  • ニューヨーク・オールド・アパートメント
    どこか山田太一風のニューヨーク移民物語
    ★★★★

    ペルーからニューヨークにやってきた母とティーンエイジャーの息子2人が主人公。多民族都市のはずなのに、寛容さはほとんどなくて、どこか夢見がちな母は必死に働くけど生活は楽にならず、息子たちはどこにも居場所がない。そんな街の片隅のホコリのような彼らが心惹かれたのが、クロアチアから移民してきた若い美女。だけど、彼女にはある秘密があった。息子たちの青春は悲惨だけど、なんとかしてマシになろうと悪戦苦闘している様は、どこか山田太一のドラマにも通じるところがある。ほんのり明るいラストにも好感。支配欲に満ちた中年男性たちがひたすら醜い。ラマはペルーの国旗に描かれている動物だと覚えておこう。

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